「つながるクルマ」が変えるモビリティの未来像

想定外のもらい事故も開発に反映、トヨタの“高度”運転支援システムの最新状況CES2019

技術であの“もらい事故”は避けられたのか――。トヨタ自動車は2019年1月7日、消費者向けエレクトロニクス展示会「CES 2019」(2019年1月8〜11日、米国ネバダ州ラスベガス)に関連した記者会見において、高度安全運転支援システム「ガーディアン」の開発の取り組みを紹介した。

» 2019年01月09日 06時00分 公開
[齊藤由希MONOist]
Toyota research InstituteのCEOであるギル・プラット氏(クリックして拡大)

 技術であの“もらい事故”は避けられたのか――。トヨタ自動車は2019年1月7日、消費者向けエレクトロニクス展示会「CES 2019」(2019年1月8〜11日、米国ネバダ州ラスベガス)に関連した記者会見において、高度安全運転支援システム「ガーディアン」の開発の取り組みを紹介した。

 記者会見にはToyota research Institute(TRI)のCEOであるギル・プラット氏が登壇。同氏のプレゼンテーションは、TRIの自動運転開発車両が巻き込まれた交通事故の映像から始まった。

 TRIの自動運転開発車両は、カリフォルニア州の高速道路を手動運転モードで左車線を走行していた。サンフランシスコのベイエリアで、トンネルや橋などのマッピングと走行データ収集のためだった。その時、隣の車線で2台の接触事故が発生し、挙動を乱した1台がTRIの自動運転開発車両にも接触した。

 こうした事故当時の状況について、車両のセンサーが車内外の状態を記録していた。LiDAR(Light Detection and Ranging、ライダー)は、隣の車線で2台が接触する様子も検出していた。プラット氏は「ガーディアンがあれば、この事故の被害を軽減、もしくは事故を回避することができる」と語った。

その事故への対応は「加速して離れる」

プラット氏が紹介したテストコースで検証する厳しいシナリオの例(クリックして拡大) 出典:トヨタ自動車

 ガーディアンの開発は、実車とシミュレーションを組み合わせて繰り返しテストすることで進めている。数十億マイルものトレーニングデータやテストデータを同時に作るなど、大規模なシミュレーションも活用している。また、公道では危険で実験できない走行条件やシナリオを検証するため、ミシガン州オタワレイク市の「ミシガン・テクニカル・リソース・パーク」に専用テストコースを建設。ミシガン州のAmerican Center for Mobility(ACM)の施設や、TRIのアナーバー、マサチューセッツ、カリフォルニアの各拠点にほど近いコースも活用しているという。

 プラット氏はテストコースで実践している厳しいシナリオの例として、密集した縦列駐車の隙間をすり抜けるように急にクルマが飛び出してくるケースを挙げた。「車線内でブレーキをかけるだけでは衝突回避が間に合わないほどの急なタイミングになっている。隣の車線が空いているものの、ほんの少ししかスペースがない場合、ガーディアンはまず視覚と音声で迫りくる危険をドライバーに促し、飛び出してきた車を避けるために隣の車線に少しだけ移動し、さらにそこで前方に出てきた障害物を避けるために元の車線に戻る回避操作をする」(プラット氏)。こうした状況で、ガーディアンがドライバーを導く最適な方法を学習し、危険なシナリオへの反応を学んでいた。

事故の状況をテストコースで再現して回避できるか検証した(左)。事故当時のデータから事故状況をシミュレーションにした(中央、右)(クリックして拡大) 出典:トヨタ自動車

 カリフォルニア州の高速道路で起きたもらい事故は、そのようなガーディアンの開発を行うTRIにとっても「想定外のシナリオ」だった。しかし、事故当時のセンサーのデータからシミュレーションを構築し、ガーディアンが周辺環境を認識、予測し、衝突回避の選択肢を引き出すためのツールとした。

 その結果、ガーディアンは先述した事故に対して、安全に加速し、現実では接触した車両から離れることを望ましいオプションとした。プラット氏は、ガーディアンで自車が加速して離れることで、他の2台が衝突を回避するためのスペースも確保できると付け加えた。

ガーディアンはドライバーだけでなく他社製システムも見守る

 ガーディアンはドライバーがステアリングから手を離すことを可能にする自動運転技術ではない。起こりうる事故を予測してドライバーに注意喚起し、ドライバーの運転操作と協調して修正制御を行う高度運転支援システムとTRIは位置付けている。

 それだけでなく、運転の楽しさを提供するものでもあるとプラット氏は語った。例えば、パイロンを並べてスラローム走行を行う時、ドライバー単独ではパイロンを跳ね飛ばすような場合でも、ガーディアンはアンダーステアやオーバーステアを防ぎ、パイロンを跳ねないように運転をフォローする。このようにして、クルマを自由にコントロールする喜びを提供する。

 さらに、ガーディアンは人間の運転を見守るだけでなく、自動運転システムを監視することも可能だと紹介した。ガーディアンを、トヨタ自動車が開発するレベル5相当の自動運転システム「ショーファー」や、他社製のショーファー型の自動運転システムと組み合わせることで、冗長性を高められるとしている。このコンセプトは2018年のCESでモビリティサービス向け専用車両「e-Palette」を披露した時にも言及された。

 TRIは「賢さ」を向上した最新の自動運転実験車両「TRI-P4」を導入し、ガーディアンの信頼性をさらに向上させ、作り込んでいく。その成果を他社にも提供し、予期せぬ事故が起きないよう、「Guardian for all(ガーディアンを全ての方に)」を目指す。

最新の自動運転実験車両「TRI-P4」の外観(クリックして拡大)
TRI-P4のトランクに収められたコンピュータ(左)。前方監視用のカメラ(右)(クリックして拡大)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.