トランプ政権の「SAFE」で激変する米国燃費規制、中国はEV普及をさらに加速IHS Future Mobility Insight(11)(1/3 ページ)

完成車の不適切検査をはじめ品質問題がクローズアップされた2018年の国内自動車市場だが、グローバル市場では2018年後半から2019年にかけて大きな地殻変動が起こりつつある。今回は、自動車市場にとって大きな潮目となるであろう2019年以降の展望として、米国と中国の燃費規制に基づくパワートレイン動向予測をお送りする。

» 2019年01月30日 10時00分 公開

 完成車の不適切検査をはじめ品質問題がクローズアップされた2018年の国内自動車市場だが、グローバル市場では2018年後半から2019年にかけて大きな地殻変動が起こりつつある。本連載「IHS Future Mobility Insight」では、自動車市場にとって大きな潮目となるであろう2019年以降の展望を2回に分けてお送りする。前回のグローバル市場動向に続いて、今回は、IHS Markit Automotiveで米国を担当する波多野通氏と、中国を担当する王珊(Shan Wang)氏、両名による燃費規制に基づくパワートレイン動向予測を紹介しよう。

「Anything But Obama」で180度方針転換の米国

 まずは、波多野氏による米国の燃費規制に基づくパワートレイン動向分析を紹介する。



IHS Markit Automotiveの波多野通氏 IHS Markit Automotiveの波多野通氏

 グローバルにおけるパワートレインのトレンドを見ると、欧州では規制の厳格化が進んでいるが、米国では規制緩和の方針が採られている。2016年に誕生したトランプ政権は、オバマ前政権時代に設けられた規制を「余計なもの」とし、真逆の政策を打ち出しているからだ。トランプ氏は「地球温暖化は人類のせいではない。だからCO2排出を規制する必要はない」と主張している。

 国/地域の規制は、自動車メーカー(OEM)にとって大きな影響力を持つ。なぜなら、各国/地域が掲げる規制を達成するために、エンジンの改良や電動化、自動化の開発をし、ロードマップを作成するからだ。

 トランプ氏は大統領就任直後、連邦政府の規制であるCAFE(企業平均燃費)とGHG(温暖化ガス)の見直しを表明した。さらに、NHTSA(運輸省道路交通安全局)が「MY(モデルイヤー)2021」目標の見直しの可能性を示唆したのに続き、EPA(環境保護庁)長官もオバマ前政権時代に決めた現在の基準が妥当はでないと発表した。

 図1は、米国における燃費およびGHG規制の構造である。注意したいのは、連邦政府の規制とは別にカリフォルニア州独自の規制があることだ。同州はオバマ前政権時代に連邦政府の規制よりも厳格な規制を導入した。しかし、トランプ政権は、同州の規制を撤廃しようとしている。

図1 図1 米国の燃費および温室効果ガス(GHG)の規制構造(クリックで拡大)

 大統領の考え方1つで規制の方向が180度変わるのが米国の特徴である。図2は、トランプ政権発足直後からの“mid-term evaluation(中間評価)”だ。最大の“目玉”となるのが、2018年8月にNHTSAとEPAが共同で発表した、規制緩和に向けた具体的な新しいドラフト「Safer Affordable Fuel Efficient Vehicles Rule for Model Years 2021-2016(以下、SAFE)」である。

図2 図2 “mid-term evaluation(中間評価)”の歩み(クリックで拡大)

 SAFEのポイントは2つある。1つは望ましい代替案(Preferred Alternative)として提出された「CAFE/GHG規制案」であること。もう1つはカリフォルニア州のCAA強制排除権免責(カリフォルニア州の特権)を剥奪し、連邦政府の規制だけにする「One national program」のアプローチを打ち出していることだ。では、それぞれを見ていこう。

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