「つながるクルマ」が変えるモビリティの未来像

シーサイドラインの事故原因は「自動運転」ではないモビリティサービス(1/4 ページ)

2019年6月1日に発生した新交通システム逆走衝突事故。原因は運行指令システムと制御システム間の通信不良であり、これは有人運転でも起こる。そこで、鉄道の自動運転のしくみと、現時点で判明している範囲で事故の原因、それを踏まえた上での対策について考察する。

» 2019年06月20日 06時00分 公開
[杉山淳一MONOist]
逆走衝突事故を起こしたシーサイドライン(クリックして拡大)

 2019年6月1日に発生した新交通システム逆走衝突事故は、鉄道や公共交通機関に対する信頼を損なう案件だ。同時に、バスやクルマの自動運転に関心を寄せる人々からも注目されたようだ。

 原因は運行指令システムと制御システム間の通信不良であり、これは有人運転でも起こる。そこで、鉄道の自動運転の仕組みと、現時点で判明している範囲で事故の原因、それを踏まえた上での対策について考察する。

編集部注

昨今、自動車業界では無人運転車の開発や、それを使ったモビリティサービスに対する関心が高まっています。鉄道の自動運転の仕組みや、直近の事故の原因と対策は、自動車業界が取り組む無人運転車の開発や活用にも通じると考え、本稿を掲載しています。

日本では34路線が自動運転を実施している

金沢シーサイドラインの位置(地理院地図を加工)(クリックして拡大)

 事故を起こした路線は「金沢シーサイドライン」という。運営会社は横浜市が出資する横浜シーサイドライン株式会社だ。出資比率は横浜市が63%。民間企業から京急電鉄、西武鉄道、横浜銀行など43社が37%である。会社名と路線名がややこしいため、本稿では路線名を「シーサイドライン」と略す。

 シーサイドラインは「新交通システム」と呼ばれる中量輸送システムの1つ。AGT(Automated Guideway Transit)とも呼ばれる。日本語にすると「自動案内軌条式旅客輸送システム」となる。ゴムタイヤを履いた電車が、専用の軌道(ガイドウェイ)を走る。日本国内ではシーサイドラインの他に東京の「ゆりかもめ」、大阪の「ニュートラム」、広島の「アストラムライン」など10社11路線があり、このうち運転士が乗務しない完全自動運転は6路線だ。

 AGTに似たシステムとしては、「リニモ」こと愛知高速交通東部丘陵線がある。磁気浮上方式の輸送システムだ。この他、モノレールではディズニーリゾートラインが自動運転を実施する。ただし、ディズニーリゾートラインはガイドキャストと呼ばれる車掌がドア扱い、安全監視、乗客案内を行う。JR東日本は2027年までに山手線で自動運転を実施する計画だ。おそらくディズニーリゾートライン方式のような車掌乗務式になるだろう。

 自動運転は先進的、未来的なAGTの特長だと思われるかもしれない。しかし、在来の鉄道でも実用化されている。東京メトロは丸ノ内線、千代田線、有楽町線、副都心線、南北線で自動運転を実施している。都営地下鉄も三田線、大江戸線は自動運転だ。ただし、前方監視、ドア扱いなどのため運転士は乗務する。しかし非常時と訓練以外は加速、減速操作を行わない。

 このような有人自動運転路線は全国で26路線ある。共通点は「踏切がない」ことだ。24路線は地下鉄、残り2路線はつくばエクスプレスと多摩都市モノレールである。つくばエクスプレスは日本の自動運転路線最速の時速130kmで、将来は時速160kmにする予定だ。

日本のAGT(自動案内軌条式旅客輸送システム)(クリックして拡大)

 自動運転は鉄道業界で実用化されており、シーサイドラインの自動運転は珍しいことではない、と考えていい。技術的にはどの路線でも自動化できる。ただし、安全上、踏切のある路線には採用しにくいというだけだ。山手線の自動運転について、課題の1つは踏切だ。1つだけ、駒込〜田端間に存在する。JR東日本と所在地の北区は2018年9月から改良に向けた協議に入った。

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