米国トップ投資家が語る「モノづくりベンチャーが日本で育ちにくい理由」モノづくり×ベンチャー インタビュー(1/2 ページ)

ハードウェアスタートアップの成長力や、彼らを取り巻く環境は国内外でどのように違うのか。米国の著名ベンチャーキャピタリスト、アニスウッザマン氏に話を聞いた。

» 2020年03月23日 11時00分 公開
[池谷翼MONOist]

 「スタートアップの聖地」と聞けば、多くの人は即座に米国のシリコンバレーや中国の深センなど海外の地域を思い浮かべるだろう。これらの地域ではITのみならず、半導体やロボット、産業機械などハードウェアスタートアップの創業も盛んで、中にはイーロン・マスク氏が率いるテスラやスペースXのようにグローバルな巨大企業に成長した企業も少なくない。

 翻って、日本の状況はどうだろうか。もちろん独自の技術力を強みに成長を続けるハードウェアスタートアップはいくつも存在する。だが事業規模や成長速度という点で、海外のハードウェアスタートアップには差をつけられているように感じる。こうした違いはなぜ生まれるのか。

 ハードウェアスタートアップへの投資実績が豊富な、シリコンバレーの著名ベンチャーキャピタリストでペガサス・テック・ベンチャーズ 代表パートナー兼CEOのアニス・ウッザマン(Anis Uzzaman)氏に話を聞いた。

欧米、中国ではハードウェアスタートアップが多数創業

MONOist ベンチャーキャピタリストとして、現在のハードウェアスタートアップの成長には勢いを感じていますか。

ウッザマン氏 グローバルに見ると、大きく成長を遂げている、あるいは、これからの成長に期待が持てる企業は多いと考えている。ただ実際には、国によって成長度合いのばらつきは大きい。例えば、米国や中国にはハードウェアスタートアップが多数存在するが、日本ではハードウェアを開発するのは大企業が中心で、目立つスタートップは少ない印象だ。

ペガサス・テック・ベンチャーズ ジェネラルマネジャー兼CEOのアニス・ウッザマン氏 ペガサス・テック・ベンチャーズ ジェネラルマネジャー兼CEOのアニス・ウッザマン氏

 欧州ではフランスやフィンランドといった国でハードウェアスタートアップが多く創業している。特にフランスでは政府がスタートアップ支援策「La French Tech(フレンチテック)」を推進しており、その結果、事業成果を上げる企業も増えつつある。ただフレンチテックは数年前に始まったばかりで、グローバルな存在感を持つフランスのスタートアップはさほど多くない。

MONOist 現在、どのようなハードウェアスタートアップに注目していますか。

ウッザマン氏 技術のセクション別に紹介していきたい。1つは宇宙開発分野で、この分野ではスペースXに注目している。同社は第1段を再利用できるロケットの開発に成功しており、またこのロケットを利用して低遅延の次世代インターネット網を構築する計画も描いている。挑戦的な企業だ。

 またGPUの80倍の処理速度を実現する、深層学習の運用に特化したプロセッサ「TPU(Tensor Processing Unit)」の開発企業にも注目している。この分野では大手企業による企業買収が毎週のように行われており、AI関連の業界関係者からの注目度も大きい。TPUの開発企業としてはサンバノバ(SambaNova)やグラフコア(Graphcore)といったAIスタートアップがよく知られている。またTPUに続く、次世代プロセッサ「ニューロモーフィックチップ」を開発するRain Neuromorphicsにも強い関心を寄せている。

TPUに続く次世代のプロセッサとして注目される「ニューロモーフィックチップ」[クリックして拡大]出典:ペガサス・テック・ベンチャーズ

MONOist では、日本のスタートアップで注目している企業はありますか。

ウッザマン氏 半導体メモリ開発企業のフローディアだ。ルネサスエレクトロニクスの出身者が創業した企業で、メモリ製造に必要な工程などの情報をIPとして提供するサービスを展開している。このほか、電動バイクを開発するテラモーターズや、その子会社であるドローン開発のテラドローンにも注目している。

 ただ、全体で見るとハードウェアの分野でグローバルな存在感を発揮するスタートアップはまだまだ少ないという印象だ。例えば、先ほど深層学習用のプロセッサ開発の話をしたが、これらを研究開発するのはほとんどが米国と中国の企業で、日本企業は見かけない。

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