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「酸素犬ロボット」が在宅酸素療法の生活をアシストするあなたに寄り添いついて行く(1/3 ページ)

在宅酸素療法をうける患者は国内に約16万人いるといわれ、彼らは日常生活で常に酸素ボンベを携帯しなくてはならない。彼らの生活の質を向上するために、2008年から開発が進められているロボットがある。

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 公園の周囲にある歩道を初老の男性が歩いている。その後ろを小さなカートが追従していく。男性が信号で止まればカートも止まる。カートは、男性の後について公園の車止めの間も上手にすり抜け右折し、停止した。

 カートに載っている細長いバックからは、透明な管が伸びている。管の先端は、男性のマスクに差し込まれている。このバックに入っているのは、酸素ボンベだ。これは2015年2月5日、大阪で行われた酸素を運ぶロボット、通称「酸素犬ロボット」の実証実験の様子だ。

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「酸素犬ロボット」の実証実験風景

 実証実験に協力したAさん(70歳)は、3年前にCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の診断を受けて以来、在宅酸素療法を続けてきた。Aさんは日常生活で常に酸素ボンベを必要としている。

 この酸素犬ロボットは、東京医科歯科大学 准教授 遠藤玄氏が、大阪電気通信大学 准教授 入部正継氏とともに2008年に研究開発をスタートした。きっかけは呼吸器科の医療関係者から「在宅酸素療法をうける患者さんの呼吸をたすけるため、酸素ボンベを運ぶ介助犬(酸素犬)がいる」という話を聞いたことだ。

 酸素犬を1頭育成するのに、約200万円の費用が掛かる。費用だけではなく、犬を訓練するためには年単位の時間も必要だ。そのため、酸素犬は全ての患者さんには行き渡らない。多くの方は、携帯用酸素機器カートに酸素ボンベを積み自分で持ち運んでいる。

 その話を聞いた時、ふたりは「移動ロボットの機構と制御を研究している自分たちなら、ロボット技術で解決できるのでは」と考えた。それ以来、酸素を運ぶロボットの共同研究を続けてきた。試作を繰り返し、病院の協力も得て、患者さんに室内で実証実験に協力してもらったこともある。大学院生による屋外での実証実験も行った。

 改良を重ねた結果、今回、Aさんの協力を得て、患者さんによる公道での初の実証実験となった。

COPD患者が増加、潜在患者数は530万人

 私たちがごく当たり前にしている呼吸。それが困難になってしまう病気がCOPDだ。2014年5月にWHOが発表した統計では、世界の死因第3位にCOPDが入っている。国内の潜在患者数は530万人とも言われており、日本呼吸器学会が2010年に「日本COPD対策推進会議」を設置するなど認知度向上に力をいれている。

 発症の主な原因は、タバコの煙などの有害な微粒子を長期間に渡って吸い込み続けるためだといわれている。初期症状では発見しづらいため、気づいたときには重症化しているケースが多いそうだ。

 COPDの患者さんは、肺胞が破壊されているため呼吸が困難になる。壊れた肺胞は再生されない。以前は、酸素を吸うために長い入院生活が強いられていたが、日本でも1985年に在宅酸素療法が保険適用になった。おかげで、Aさんも自宅で過ごせる。

 しかし、外出時に常に酸素ボンベを携帯するという煩わしさは大きい。患者さんの多くはどうしても部屋にこもりがちになり、運動不足になる。運動不足から体力が衰え、さらに息切れしやすくなる。引きこもり生活から抑鬱傾向となり、ますます外出したくなくなるという悪循環がうまれる。

 医師の指導のもと積極的にトレーニングをして体力維持に努めるAさんだが、「3〜4kgある酸素ボンベを乗せたカートを引いて歩くと、手が痛くなるんです。雨の日は右手にカート、左手に傘で荷物を持つことができません」と、日常の不便さを語る。

 メーカーも、酸素ボンベを背負える2WAY仕様のカートにするなど工夫しているが、体力のない高齢者にとっては負担であることにかわりはない。

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