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» 2005年08月30日 00時00分 公開

「組み込みエンジニア不足」神話の真実とは?組み込みエンジニア求人トレンド 2005年夏(2/2 ページ)

[小林 教至,@IT MONOist]
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組み込みエンジニア求人の現実

 以上、経済産業省の「組込みソフトウェア産業実態調査報告書」から定量的な組み込みエンジニアの求人動向を見てきた。続いて、実際の中途採用の現場で、いま何が起きているのかをレポートしたい。メカトロ系エンジニア、企業システム系エンジニアを専門に転職支援を行っている人材紹介会社、テクノブレーン(http://www.techno-brain.co.jp/)取締役 人材紹介本部長の龍野尚夫氏に話を伺った。

求人数は増えていない

 龍野氏は、開口一番「組み込みエンジニアの求人数は増えていません」と意外なことをいった。「求人数のピークは、おそらく2001年から2002年にかけてでしょう。デジタル対応のテレビやハードディスクレコーダ、デジタルカメラの普及がきっかけです。その時期に採用できていない不足人員の募集が、いまだに続いているというのが現状でしょう」とのことだ。つまり、企業が計画どおり中途採用ができず、採用予定数が高止まりしている、というのが正しい現状認識というわけだ。

テクノブレーン取締役 人材紹介本部長 龍野尚夫氏 テクノブレーン取締役 人材紹介本部長 龍野尚夫氏。1956年生まれ。慶應義塾大学工学部機械工学科を卒業後、修士課程に進学。専門はエンジン系(ディーゼル噴霧の燃焼に関する研究)。修了後、東芝関連の会社にて設計・開発およびCAD/CAM/CATの業務に従事。その後複数社を経て、1996年よりスカウトコンサルタントとして活躍

 不足人員の内容について、詳しく聞いた。まずご承知のことと思うが、組み込みソフトウェアは、駆動制御系ソフトウェアと信号制御系ソフトウェアに大別される。今回はそのうち、信号制御系ソフトウェアエンジニアに焦点を当てている。

 信号制御用の組み込みソフトウェアエンジニアが多く求められている業界は、主にデジタル家電業界だ。この業界では、テレビ、ビデオ、カメラなどの画像処理系開発の実績があるエンジニアへの求人が多い。ただし2005年8月時点では、業績への懸念から業界各社とも中途採用を抑えていると龍野氏は説明してくれた。

 一時期多かった、携帯電話開発向けの通信処理系エンジニアの求人は落ち着いた感があるそうだ。ただし、新規通信キャリアの市場参入によって、求人数が増加する可能性がある。求められるテクニカルスキルについては、@IT自分戦略研究所の記事「最新DATAで見る『エンジニアのキャリア事情』第14回 デジタル家電業界が欲しがる専門スキルとは?」を参照いただきたい。

マネジメント/コミュニケーション能力が高需要

 「ご存じのとおり、以前に比べて1製品における組み込みソフトウェアの種類と1ソフトウェア当たりのボリュームが膨大になり、どのメーカーも従来の開発手法や進行管理方法が通用しなくなっています。そこで、業界を問わずニーズが最も高いのは組み込みソフトウェア開発プロジェクトのマネージャです」と龍野氏は全体の求人傾向について教えてくれた。

 プロジェクトマネジメント能力に加え、求められるのはコミュニケーション能力だという。「大手メーカーに限っていえば、プログラマレベルの求人はありません。あるのは商品開発や設計といわれる業務で、ソフトウェアが受け持つ機能領域の定義や実装のための設計ができるエンジニアが求められます」(龍野氏)。それらの業務をこなすために必要なスキルが、開発チームメンバー同士とのコミュニケーション能力というわけだ。この点は、前述の「組込みソフトウェア産業実態調査報告書」の結果と一致する。

 龍野氏に求められる技術について聞いたところ、「企業によって、もっといえば部署によって必要な技術スキルはマチマチで一概にはいえない」とのこと。さらに龍野氏はこう付け加えた。「中途採用では、即戦力が求められます。従って、技術力は身に付いていて当たり前と見なされます」。

 LinuxやTCP/IPなど、企業システム分野の技術が組み込み分野にも浸透している。オブジェクト指向開発など、開発手法もしかりだ。そこで、企業システム分野のエンジニアが採用される可能性を最後に聞いたところ、「組み込みソフトウェアと企業システムは、似て非なるもの。組み込みの世界では、組み込み開発未経験者はまず採用されません」とにべもない回答だった。


組み込みエンジニアがキャリアアップを目指すには

 以上、「組込みソフトウェア産業実態調査報告書」や転職現場の実情をレポートした。両視点から見えるのは、コミュニケーション能力の高い企画・設計工程のエンジニアが今後ますます求められるということだ。では、現在プログラミングを主体としている組み込みエンジニアはどうキャリアを積むべきか? 現在のままでいる限り、いずれは海外に業務移転されたり、ほかの単価の安い開発会社に仕事を奪われたりするリスクがある。やはり、製品企画やシステム設計といった、上流工程を担当できるキャリアを目指すべきだろう。

 企業システム系エンジニアにもいえることだが、ソフトウェア開発の世界はピラミッド構造だ。大手メーカーが製品企画やシステム設計を行い、n次請けの開発会社がソフトウェア設計やプログラミングを行う。n次請けの企業に属する限り、上流工程を担当することはできない。上流工程を担当できるキャリアを目指すなら、大手メーカーへ転職することになる。

 ただし、一足飛びにn次請けから大手メーカーを目指しては転職=キャリアップは成功しない。必要なのは、一段ずつステップアップすることだ。例えば、現在3次請けの開発会社に勤務しているならば、まずは2次請けの会社に転職する。そして技術力と同時に、マネジメント能力やコミュニケーション能力を意識して磨く。2次請けであれば、設計業務を担当することもあるだろう。そこで何年か勤務し、実績を積んだうえで大手メーカーにチャレンジする。急がば回れではないが、業界で7万人が足りないといわれているいまだからこそ、焦らず着実にかつ計画的にステップアップしていただきたい。


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