組み込み分野を最適化するDSOという考え方〜 DSOとは何か、なぜいまDSOなのか 〜(2/2 ページ)

» 2005年10月26日 00時00分 公開
[ジョン・ブルッグマン ウインドリバー・システムズ 最高マーケティング責任者,@IT MONOist]
前のページへ 1|2       

分断された開発プロセスが製品を駄目にする

 慢性的に分断された開発プロセスは、デバイス製造産業に深刻な影響を及ぼしています。開発プロジェクトの66%が予定より遅れて完成し、33%は予算を超過しています。大幅な予算超過も少なくありません。それどころか、中止になったプロジェクトや仕上がりが悪くて出荷に至らなかった製品も数多くあります。これは病気だといってもよいかもしれません。産業全体に未成熟がまん延しているのです。それは、開発プロセスの分断と「良い意味ではない」冗長化です。繰り返し発生する問題に対して、根本的な解決に取り組まずに、人的および技術的資源を何度も投入しているのです。

 大きくて伝統のある企業ほど、問題も大きくなります。巨大なテクノロジー・ベンダは、開発上の課題に資金と人材を投入し、数多くの社内的な問題に取り組んで規定どおりに解決しますが、膨大な知的財産を費やしています。容易に統合できない知的財産は、競争上必ずしも大きな利点にはなりません。企業は投資に見合う製品を作ることを望み、開発戦略を見直して開発プロセスを最適化することなく、仕事を継続しようとします。大きな企業では特に、内部支出を細分化して自治を維持するために、数多くのベンダと小さな関係を築きます。こうして、事業活動はますます複雑になり、時間効率も悪化していくのです。開発プロジェクトが次々と問題を抱えるようになると、企業は現状を直視してその限界を打破しようと考えるようになるでしょうか?

 繰り返しになりますが、市場はもっと優れたデバイスが、早く安価に提供されることを求めています。非効率な開発プロセスを抱え続けると、今後着手する開発プロジェクトが予算内で予定どおりに出荷する前に中止される可能性を高めます。デバイスを製造する企業は、このリスクを認識していただきたい。これまで市場が要求している特徴をすべて備え、問題なく機能する製品を開発してきた企業でも、開発プロセスを最適化しない限り、リスクが小さいとはいえないのです。

 こうした事情から、デバイスを製造する産業がDSOを求めるようになったのです。

「DSO」によるアプローチ 図2 「DSO」によるアプローチ

デバイス・ソフトウェアの最適化とは

 これから、「DSOとは何か」について述べます。ヤンキー・グループのダナ・ガードナーは、DSO現象についてのホワイトペーパーで「ヘンリー・フォードが交換可能な部品で組み立てる生産ラインを実現したことにより、自動車は新奇な特注品から文化を象徴する製品に変身した」と記しました。同じような生産手段と合理的な方法が、デバイス産業を成熟させるために役立っています。自動車産業で100年前に起こったように、デバイス・ソフトウェアの産業ではいま、技術と方法論の世界で合理化が進んでいます。

 DSOは、個別の開発プロジェクトのレベルから始めて、全社的な開発プロセスに拡張していく方法論です。この産業の未来、そしてデバイスが相互接続できる世界の未来は、DSO戦略を採用した企業に懸かっています。人体の内部で仕事をするデバイスも火星で仕事をするデバイスも、品質と信頼性とデバイス間の相互運用性が非常に大切になります。DSO戦略が品質と信頼性と相互運用性を確実にするために採用され、この産業の常識として広がることを期待しています。

 DSOは、7つの強力かつ直感的な概念を礎にしています。

  • 技術、開発ツール、開発プロセスの全社的標準化
  • オープンスタンダード技術の積極活用
  • 知的財産の再利用性向上
  • OSに左右されない開発体制
  • ハード/ソフトウェアのパートナーとの広いエコシステム形成
  • 世界中の各地で同じサービスとサポートを提供
  • 全社を対象にした柔軟なライセンス・モデルの提供

 7つの考え方のそれぞれが、今日存在している開発プロセスの1つの問題に対処することになります。

利用技術の全社的な標準化

標準化は強力です。企業は一度投資すれば、それを多数の場所で行われている多数の開発プロジェクトで戦力化できるからです。開発スタッフは、特定の開発ツールと技術を一度習熟すれば、後は知識をアップデートするだけでよく、最初から学び直す必要はなくなります。開発スタッフが同じ開発ツールと方法論を使うようになると、彼らは交換可能な部品のように、異なるプロジェクト間あるいは同じプロジェクトの異なる段階の間を自由に移動して働けるようになります。技術も一度統合して検証すればよく、その後も同様に無駄を省くことができます。経営者と管理者は、ボードの立ち上げから、アプリケーション開発、品質検査、製品出荷に至る過程を、かたずをのんで見守る必要がなくなります。開発プロセスを標準化することにより、プロジェクトは繰り返し成功するようになり、予測しやすくなります。

オープンスタンダード技術の積極活用

たった5人の開発スタッフではなく、1000人の開発者の頭脳と経験が活用できるとしたら、競争で優位に立てます。オープンソースの開発者コミュニティでは、企業向けからデバイス・アプリケーションに至る広い領域で、非常に優秀な開発者が重要な技術開発に貢献しています。彼らの活動は、イノベーションを加速しています。オープンソースの技術はアプリケーションやデバイスの相互運用性を広げ、標準化の流れの中で「標準」を確立していきます。そして、企業は経済的な理由からオープンソースに魅力を感じます。オープンソースの成果物は、実際にそうなるかどうかはともかく、「無償」だと考えられているからです。

知的財産の再利用

これは、常識です。市場ですぐに入手できる安価な技術であろうと、自社開発のソリューションであろうと、企業は一度行った投資が最大限活用されるようにすべきです。それは資産の利用効率を高めるだけでなく、さまざまな資産の相互検証と統合技術の改善を通じて、時間とデバイス・ソフトウェア開発のコストを節約することにつながります。

OSに左右されない開発体制

異なるデバイスには、異なる要件があります。企業には、作りたいデバイスに最も適した技術を選ぶ自由があると考えるのは早計です。DSOにおいては、OSはデバイス開発の1要素でしかありません。DSOでは、複数の異なるOSを採用するソリューションを提供することができ、1つの製品の中に複数のOSを混在させることも可能です。

ハードウェアとソフトウェアのパートナー・エコシステム

複雑なデバイスを開発して実行するために、必要なすべての能力を提供できる企業はありません。専門性が高い技術やスキルは、分散しています。DSOでは、製品に活用できる最善の技術をそろえるためにパートナー企業の連合体を形成して、ソリューションを提供します。DSOでは、パートナー・エコシステムに効果を発揮させるために、パートナー企業の技術とビジネスモデルを互いに密接に統合できるようにします。そうすることにより、必要なときに必要な技術をすぐに使うことができ、顧客の時間とコストを節約して品質の向上を可能にします。

世界中の各地で同じサービスとサポートを提供

プロフェッショナル・サービスと技術サポートは、顧客のプロジェクトが危機的状況や遅れの原因となる問題に直面したときに頼ることができる資源です。これらにより、デバイスを製造する企業は開発プロセスを最適化できるだけでなく、デバイスを購入する消費者にも優れたサポートを提供できるようになります。DSOでは、安定したサービスとサポート、そして拡張可能なサービスとサポートの提供を約束します。製品設計、実行環境の移行、技術教育、問題に対する迅速な対処などを提供するサービスとサポートは、掛け替えのない秘密兵器になります。

全社を対象にした柔軟なライセンス・モデル

デバイス・ソフトウェアの開発は事業であり、1つのソフトウェアとして機能する必要があります。ベンダとの関係もシンプルで、予算編成に柔軟な選択肢を持つライセンス・モデルが望まれます。従来のライセンス方式は、最適化された企業や成熟した産業には適さなくなりました。

DSO導入がもたらすもの

 以上の7つの考え方をチェックリストにして、自社の状況を診断してみてください。すべての項目にチェックマークが入った企業は、デバイス・ソフトウェア開発のリーダー企業としての道を歩んでいます。その企業の経営者は、製品が市場にインパクトを与えポジショニングを獲得するまでにかかる時間と予算を、効率的に把握して計画を立案できます。その企業のエンジニアは、開発生産性を向上させて、成功を繰り返し体験するでしょう。彼らが製品開発を始めるときには、実行環境も開発ツールも、ハードウェア・アーキテクチャもミドルウェアもネットワーキングとセキュリティのプロトコルもすべて正しいものがそろっているのです。彼らには、仕事に最も適した技術を選ぶ自由があり、オープンソース・コミュニティのイノベーションを戦力化することができます。DSOによって獲得できる人的な効率向上は経済効率を伴うので、開発者は優れた製品を低コストで実現するという幸運を手にすることができます。

 DSOをトップダウンで導入することにより、経営者は健全な意思決定と効果的な投資を行えるようになります。エンジニアリングの管理者のレベルでは、人材の配備とスケジュールを自信を持って行えます。現場の開発者にとって、DSOは同じ問題に何度も対処する労苦を除去し、開発生産性の向上によって創造性を発揮しやすくなります。

 DSOは、全社的に開発されるアプリケーションの資源に特化したソリューションです。そして、アプリケーションこそが、エンジニアリングの技術革新によって偉大な製品を生み出す領域なのです。

DSO関連オンライン資料
DSO.com
CMP MediaのWebサイトです。デバイス・ソフトウェアの最適化に関するニュースや意見が閲覧できるインダストリ・センターです。
http://www.dso.com/
DSO Joins the Gartner Application Development Hype Cycle
DSO.comのインタビューで、ガートナー・グループのリサーチ・ディレクタ、テレサ・ラノウィッツがDSOをGartner Hype Cycleに加え、成長著しいDSO産業の方向性を語っています。
http://dso.com/analysis/showArticle.jhtml;jsessionid=
WV2ALLCFQJ3VYQSNDBGCKH0CJUMEKJVN?articleID=169600106
Five Things You Can Do to Avoid Becoming Roadkill
エンベデッド・システム・カンファレンスの基調講演で、ウインドリバーの社長兼CEOのケン・クラインがデバイス・ソフトウェアの開発者にDSOの意義を語っています。
http://www.linuxdevices.com/sponsors/SP3516988452-AT9560688601.html
Optimizing Technology Choices for Device Software
ダウンロード可能なホワイトペーパーです。Embedded Market Forcastersのジェリー・クラスナーが、米国政府の規定など新しい標準に準拠したソフトウェア開発で、DSOがスケジュール、予算、要件を満たすうえで鍵を握ることを説明しています。
http://www.windriver.com/cgi-bin/corporate/webmaster/wrtalkb.pl?id=198
Is DSO for Real?
DSO.comのインタビューで、ジェリー・クラスナーが開発者のアンケート調査で収集したデータに基づき、産業としてのDSOについて語っています。
http://dso.com/analysis/showArticle.jhtml;jsessionid=
WV2ALLCFQJ3VYQSNDBGCKH0CJUMEKJVN?articleID=164903567
DSO Modernizes Complex Embedded Development Practices
ダウンロード可能なホワイトペーパーです。ヤンキー・グループでアプリケーション・インフラストラクチャとソフトウェア・プラットフォーム・デシジョン・サービスを担当しているシニア・アナリスト、ダナ・ガードナーが、開発業務慣行を刷新するうえでDSOが果たす役割を説明しています。この文献にアクセスするには、読者登録(無償)が必要です。
http://dso.com/whitepaper/;jsessionid=WV2ALLCFQJ3VYQSNDBGCKH0CJUMEKJVN

 筆者紹介
ジョン・ブルッグマン(John Bruggeman)
ウインドリバー・システムズ
最高マーケティング責任者

コネティカット大学で理学修士号を取得。アメリカンオンライン(AOL)、ネットスケープ、ルーセント・テクノロジーなどでマーケティング業務を歴任。マーキュリー・インタラクティブ マーケティング担当副社長を経て、2004年2月ウインドリバー入社。同社のプロダクトマーケティング、マネジメント、コーポレートマーケティングおよびフィールドマーケティングに対して責任を担っている。



前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.