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» 2005年11月29日 00時00分 公開

組み込み企業最前線 − ウインドリバー −:組み込み分野のソフトウェア・クライシスを防ぐ (1/2)

米ウインドリバー・システムズが「VxWorks」に代わり「DSO(Device Software Optimization:デバイス・ソフトウェアの最適化)」という看板を掲げて1年半がたつ。そこには、組み込み分野に忍び寄るソフトウェア・クライシスを回避するという壮大な狙いが込められている。

[石田 己津人,@IT MONOist]

脱「VxWorksのウインドリバー」

 ウインドリバーの「VxWorks」が、最も成功した商用リアルタイムOS(RTOS)の1つであることは間違いないだろう。

 VxWorksは、特に高い信頼性が要求される産業用通信機器や航空宇宙機器などで広く利用されている。例えば、米ボーイング社の次期主力旅客機「7E7」の制御システムへの採用が決まった。また、自動車レース「フォーミュラ・ワン(F1)」で唯一、F1カーへの搭載が公認されているRTOSだともいう。日本でも、デジタルテレビなどのコンシューマ・デジタル機器、プリンタ/複合機などのオフィス情報機器といった分野で高いシェアを獲得している。最近では、ロボット制御など国産RTOS「ITORN」が担っていた分野へもジワジワと入り始めている。あのホンダの二足歩行ロボット「ASIMO」の制御ソフトウェア基盤もVxWorksである。

ウインドリバー 代表取締役社長 藤吉実知和氏 ウインドリバー 代表取締役社長 藤吉実知和氏

 これらの実績により、同社は「VxWorksのウインドリバー」として知られてきた。その同社が、最近は「デバイス・ソフトウェアの最適化」(DSO)というテクノロジ・コンセプトを前面に打ち出すようになった。DSOの概念は広いが、ウインドリバーが目指すのは、組み込みソフトウェア開発を最適化する標準的な開発プラットフォーム――OS、ミドルウェア、開発環境などを支援サービスとともに一体的に提供するという意味だろう。ウインドリバー日本法人の藤吉実知和社長は次のように話す。「いまの組み込み分野を例えるなら、六本木ヒルズを大工の棟梁が建てているようなもの。これでは急増するソフトウェア開発に追い付かず、『ソフトウェア・クライシス』が起こりかねない。それを防ぐ、今後のデバイス・ソフトウェア開発テクノロジがDSO」。

※編注
DSOについては、「組み込み分野を最適化するDSOという考え方」も参照。

 ハードウェアの進化によって、ソフトウェア開発に需給ギャップが起こる「ソフトウェア・クライシス」は、過去にも起こっている。メインフレームによる大規模システム開発が盛んになった60年代後半、80年代後半から90年代にかけてはクライアント/サーバシステムの普及により、国内でも50万人規模のプログラマ不足が叫ばれた。その状況に、組み込み分野も陥りつつあるというのだ。いまは8/16bitのプロセッサを搭載する組み込み機器も高性能な(より規模の大きいソフトウェアを搭載できる)32bitへアップグレードしてゆく。ウインドリバーによれば、2006年には140億個の機器がネットワークにつながるという。テレビのように、従来ならチューナとブラウン管が技術の根幹だった分野でも、ソフトウェアの開発力が製品を左右する時代なのである。

関連リンク:
ウインドリバー
DSO.com

DSO戦略の発端は日本から

 ウインドリバーが本格的にDSO戦略を打ち出したのは2004年春だが、2002年末からその前身となる「プラットフォーム化」を進めていた。VxWorksにプロトコルスタックやミドルウェアを統合し、開発ツールやリファレンス用ハードウェアとともに産業別に最適化した「ソフトウェア統合開発プラットフォーム」を提供するものだ(注)。

※注
現在、同社のプラットフォーム製品は「General Purpose Platform」「Platform for Automotive/Consumer/Industrial Devices」「Network Equipment」「Safety Critical」などと表記される。

 実は、このプラットフォーム化を提案し、米本社を決断させたのは日本法人だった。「日本では当時から欧米に先駆けて携帯電話やデジタル家電の高度化が進んでおり、デバイス・ソフトウェアの開発量が急増していた。従来のように、OSとミドルウェアをバラバラに売るビジネスモデルでは、ユーザーの開発効率もわれわれのビジネス効率も良くないことに気付いた」(藤吉氏)。

 日本発のプラットフォーム化は、製品リリースから1四半期で1000ライセンス以上を売り上げる結果となった。そして、このプラットフォーム化に真っ先に飛び付いたのは、意外にもルーセントやモトローラなど海外の通信機器ベンダだった。90年代末のネットバブル崩壊の痛手から製品開発コストの抜本的な削減を迫られていた彼らには、変化を受け入れやすい土壌が形成されていた。逆に「抵抗したのは国内ユーザーだった」という。ミドルウェアの開発や統合作業こそ組み込みエンジニアの腕の見せ所。「職域を脅かされる」と受け取られたのだ。だがいまや、開発プラットフォームの必要性を否定する声はほとんどないという。エンタープライズ系と同じく、内製していたものを外部から調達する流れは、ますます強まっている。

 ウインドリバーは、プラットフォーム化とともにライセンス制度も変えた。「ものは良いが、コストも高いVxWorks」という評判をぬぐい去るため、サブスクリプション(購読型)ライセンス制度を導入したのだ。開発ライセンスとロイヤルティの料金を大幅に下げて、さらに複数の開発プロジェクトで使用可能とした一方で、開発プロジェクトが存在する限り、プラットフォーム製品のユーザー数に応じて毎年継続してサブスクリプション・ライセンスを払ってもらうというものである。「競争の激しいコンシューマ機器は、最初は何社もプレーヤが参加するが、生き残れるのは数社。初期コストを小さくして製品開発の敷居を下げる代わりに、成功したプレーヤからのみ毎年フィーをいただくライセンス制度の方が合っている」(藤吉氏)。ここでも、組み込みOSとしてITRONの牙城が固く、新興のLinuxが台頭しつつあった国内市場を意識していたことが分かる。

 日本発のプラットフォーム化が現在のDSO戦略に発展したことはいうまでもないだろう。その中でも大きな決断は、実績のあったVxWorks向け統合開発環境を「Tornado」からEclipseベースの「Wind River Workbench」(以下Workbench)に切り替えたこと。そして、今後VxWorksにとって最大のライバルとなる可能性を秘めるLinuxのサポートである。


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