スキル基準で技術者の技能をまるっと“見える化”組込みスキル標準(ETSS)入門(2)(3/4 ページ)

» 2006年02月24日 00時00分 公開
[渡辺 登 独立行政法人 情報処理推進機構 ソフトウェア・エンジニアリング・センター,@IT MONOist]

技術要素:組み込みシステムの構成要素を見える化

 技術要素は、技術要素スキルカテゴリの第1階層として、

  1. 通信
  2. 情報処理
  3. マルチメディア
  4. ユーザーインターフェイス
  5. ストレージ
  6. 計測・制御
  7. プラットフォーム

の7つが定義されています。


技術要素は「論理−物理」と「入力→出力」 図6 技術要素は「論理−物理」と「入力→出力」

 開発技術や管理技術については、開発経験者であれば要求されるスキルをイメージでき、相場観が大きくブレることはありません。しかし、技術要素に関しては、既存の知識体系が存在しないことから、分類方法などにブレが生じる可能性があります。

 ETSSスキル基準策定に当たり、学会や教育向けの知識分類を調査し適用を検討したところ、開発の現場感にシックリ来るものがありませんでした。そこで「組込みソフトウェア開発力強化推進委員会」の部会でブレーンストーミング的に項目を抽出し、定義したのがこの技術要素です。

 スキル粒度として第2階層を整理する際は、組み込みシステムをモデル化し、そのモデルから導き出されたポリシーに従いました。そのポリシーとは、「入力→出力構造」と、「論理−物理のレイヤ構造」の2つです。

通信

 通信は、“論理−物理レイヤ構造”を適用しています。物理レイヤとして有線、無線、放送を配置し、その上にインターネットプロトコルを定義しています。インターネットプロトコルはさらに透過的データ転送やアプリケーションに分類できますが、これは第3階層での定義と考えて割愛しています。

 このように定義することで、単なる「通信」ではなくどの媒体、どのレイヤに関するスキルを保有しているか、またはスキルを求めているかが見える化できるようになります。

技術要素−通信はOSI参照レイヤをイメージ 図7 技術要素−通信はOSI参照レイヤをイメージ

情報処理

 情報処理は、“入力→処理→出力構造”を適用しています。情報入力、情報出力に加え、セキュリティとデータ処理を第2階層として定義しました。以前は「制御システム」や「制御プログラム」と呼ばれるほど、組み込みシステムの目的は計測・制御が中心でした。近年は、携帯電話機やDVD/ハードディスクレコーダといった機器で情報処理機能の重要性が増してきています。ユーザーに対する利便性の提供という点でインパクトが大きいことが原因と考えられます。

 例えば携帯電話機は、10キーによる文字入力機能やセキュリティ機能、アドレス帳管理などの情報処理機能、文書ビューアなどの情報出力機能を備えています。これら汎用コンピュータ育ちの技術を、限られたリソースで高品質に実装するスキルが求められます。

マルチメディア

 マルチメディアもまた、“入力→処理→出力構造”です。ある意味、「情報処理クラス」を使った「マルチメディアインスタンス」とも考えられます。情報処理の対象が、テキストや数値から音声や画像などに変わったというイメージです。また、単なる処理対象の変更ではない点として、音声や動画などを統合して表示する技術が要求されます。これは情報処理には含まれない技術といえます。

ユーザーインターフェイス

 ユーザーインターフェイスは、“入力→出力構造”です。ここではユーザーインターフェイスのすべてが対象ではなく、ユーザーインターフェイスに関する対人デバイス(マウスやキーボード、液晶や音源デバイスなど)の制御を想定しています。入出力デバイスの制御という観点では、計測・制御のクラスを利用しているイメージです。

 「ユーザーインターフェイス」という概念にはソフトウェアによるウィンドウやボタン表示といった機能も含まれますが、スキル基準においては情報処理の情報入出力に分類しています。

ストレージ

 ストレージは、“論理−物理レイヤ構造”を適用しています。物理レイヤに記録メディアの制御を配置し、インターフェイス、ファイルシステムを論理的なレイヤとしてその上にスタックします。イメージとしては通信と同じで、下位レイヤが変わってもインターフェイスで吸収し、ファイルシステムとして同じサービスをアプリケーションに提供するという構造です。ここでいうアプリケーションはファイルシステムを利用する機能であり、情報処理やプラットフォームのロギング機能などを想定しています。

計測・制御

 計測・制御は“入力→処理→出力構造”です。ユーザーインターフェイスが対象とする対人系以外のデバイス制御が対象であり、ここではあえて「理化学系入出力」と表現しています。具体的には、センサやアクチュエータなど、外界とのインターフェイスを実現するデバイスです。例えば、ETロボコンで使用するライントレーサの場合、光センサによる光量のデータ化が挙げられます。また、データ化した情報を基にした制御も対象です。ETロボコンで使用するライントレーサは数値の意味を判断し、ハンドルやモータを制御します。

プラットフォーム

 プラットフォームは、“論理−物理レイヤ構造”です。最下層にプロセッサなどのハードウェアを置き、その上に基本ソフトウェアや支援機能をスタックしています。マイコンの制御スキルや基本ソフトウェアとしてのRTOS実装・利用スキル、ロギング機能やデバッグ機能などの支援機能に関するスキルが定義されています。

 技術要素はまだまだリファクタリングが必要であると認識しており、今後の実証実験や開発現場の声を反映していきたいと考えています。よく混同されるのですが、製品や応用ドメイン(運輸、家電、FAなど)に関するスキルとの峻別、もしくは整合を図る必要もあります。また、一言に通信といっても、信頼性が求められるキャリア向け機器とコンシューマ機器の通信機能とでは、求められるスキルが異なります。画像処理も医療機器向けとコンシューマ向けでは大きく異なります。こうした差異をどのように表現すれば技術者の得意技が表現できるのか。今後最適な方法を提示したいと考えています。

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