役割とキャリアパスを明確化するキャリア基準組込みスキル標準(ETSS)入門(3)(2/3 ページ)

» 2006年03月30日 00時00分 公開
[渡辺 登 独立行政法人 情報処理推進機構 ソフトウェア・エンジニアリング・センター,@IT MONOist]

エンジニアリングの観点で専門的な職種を定義

 キャリア基準は、エンジニアリングの観点から必要とされる役割を明確化します。スキル基準的にいえば、「技術要素を取り扱う役割」「ソフトウェア開発する役割」「管理する役割」と表現できます。「餅は餅屋」ではありませんが、それぞれの専門分野にたけた人材が集まって製品開発に取り組むことが、QCDの実現には不可欠です。

 キャリア基準では、組み込みソフトウェア開発に関係する職種を中心に定義しています。


キャリア・フレームワーク 図1 キャリア・フレームワーク

 キャリア基準では、ITスキル標準と同様のフレームワークを用いて「9つの職種」と「12の専門分野」「7段階のキャリアレベル」を定義しています。「ITスキル標準と同様のフレームワークを用いて」という部分に、IT系やエンタープライズ系の開発者との融合や相互乗り入れを実現したいという思いが込められています。

 組み込みソフトウェア開発は人材不足であり、今後は製品のインテリジェント化が進むことを考えると、IT系やエンタープライズ系の開発経験者がキーマンになることが想定されます。大規模なソフトウェアを短期間に開発する技術やスキル、ネットワーク接続を前提としたセキュアで高いユーザビリティを実現する技術やスキル、大量の情報から必要な情報を効率よく抽出する技術やスキル。こうした技術やスキルの先駆者として、IT系やエンタープライズ系の開発経験者が組み込みソフトウェア開発に参画し、貢献してくれることを願っています。これを実現しなければ、組み込み製品の高機能/多機能化や高品質・短納期などの課題をクリアすることはできません。

 キャリア基準では、前述したように組み込みソフトウェア開発に関する職種のみを定義しています。いわゆる製造業の開発工程であり、QCDの実現・確保がミッションとなります。商品企画や販売、運用などはキャリア基準の対象外です。必要であればITスキル標準などを参考に職種定義してください。

キャリア・フレームワーク 図2 キャリア・フレームワーク

キャリア基準における各職種の役割

 QCDの実現・確保のためには、以下の取り組みがあると考えています。




  • 上流工程における品質の早期作り込み
     上流工程で品質を早期に作り込むことは、「システムアーキテクト」や「ドメインスペシャリスト」によって実現されます。彼らは製品の要求仕様を明確に定義し、要求仕様を実現する方式や構造を設計します。
     システムアーキテクトは、技術に関するリーダーとしてシステムの最適解を導き出す責任を持ち、ハードウェアとソフトウェア、さらにはサービスまで含めた方式や構造を設計します。ドメインスペシャリストは、ある領域における技術の専門家としてシステムアーキテクトと協調し、該当する技術の適用について貢献する責任を有します。これらの活動によって、仕様や構造という観点で品質を確保し、製品開発全体としてのQCD実現に貢献します。
  • 実装工程付近における確実なQCDの実現
     実装工程は、「ソフトウェアエンジニア」の担当領域です。高いレベルのソフトウェアエンジニアは、上流工程からテスト・検査の工程まで幅広い開発技術が求められます。QCDを実際に作り込むのはソフトウェアエンジニアの責任といっても過言ではありません。
     また、「ブリッジエンジニア」もこの実装工程で貢献すべき人材です。組み込みソフトウェア開発では、「約8割がアウトソースを使った開発である」という調査結果があり、このような環境においてはアウトソースを使った効率的な開発が重要になります。
  • 絶対品質の確保
     絶対品質の確保は、「テストエンジニア」や「QAスペシャリスト」が実現します。必要によっては製品開発の上流工程から参画し、テストや検査の観点と項目を設計します。客観的な観点によるテストや検査はQCDの確保にとって重要です。



 上記3セグメントにおいて各種役割が確実に遂行できる環境を実現するために、管理や支援の役割が重要になります。管理は「プロダクトマネージャ」と「プロジェクトマネージャ」。支援は「サポートエンジニア」(開発環境、開発プロセス改善)の役割です。

 プロダクトマネージャは製品全体のマネジメントを行う責任者であり、組み込みソフトウェアのみならずハードウェア開発やサービス開発、生産・製造まで対象となります。プロジェクトマネージャは、現在のキャリア基準では専門分野を組み込みソフトウェアとしており、組み込みソフトウェア開発プロジェクトの責任者としてマネジメントを行います。今後、ETSSの適用分野を組み込みソフトウェア以外にも拡大した場合は、ハードウェアなどのプロジェクトマネージャが定義されることを想定しています。

 サポートエンジニアは、開発環境の構築・運用を支援します。また、開発プロセス改善を推進・支援する役割を定義しました。組み込みソフトウェア開発においては、開発環境や開発プロセスが重要であり、複数のプロジェクトに横断的に関与するポジションでの貢献が求められます。

 前出のESECにおける調査結果から、「ブリッジエンジニア」や「ドメインスペシャリスト」の必要性に関してはまだ説明不足であると認識しています。回答者の約1割が、これらについて「冗長」と答えています。現在検討中のキャリア基準 Version1.0においても、これらの職種定義を見送ってはどうかという議論もあったくらいです。しかし、開発力強化にはブリッジエンジニアやドメインスペシャリストの存在が不可欠であるという認識の下、職種定義を行うことにしています。

 開発の8割がアウトソース化している現状では、受発注の双方が満足し、かつ開発のQCDを実現するために、それを実現するブリッジエンジニア(「ブリッジSE」に変更予定)の責任と求められるスキルの明確化が必要です。それを利用することにより、契約や人材育成といった取り組みを確実に行うことが可能になります。

 組み込みソフトウェア開発に従事する開発者は、開発対象に特化した技術スキルを有し、「画像処理屋」や「交換機屋」といった技術要素や製品ドメインに関する専門家となっていることが多いようです。このような開発者は、製品開発における個々のプロジェクトにも関与しますが、プロダクトライン的に複数のプロジェクトに関与・貢献するという特徴を持っています。この「xxx屋」と呼ばれるような開発者をドメインスペシャリストと定義し、責任やスキルの明確化によって有効な人材育成と人材活用による開発力強化を実現したいと考えています。

 ドメインスペシャリストは、組み込みソフトウェアの開発者である必要性はないと考えています。ハードウェア設計や研究者など、広く開発者に適用できるイメージで職種を定義しています。

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