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» 2006年05月12日 00時00分 公開

組み込み企業最前線 − イーソル −:カーナビへの採用でT-Kernel普及が加速 (1/2)

T-Kernel対Linux。プロセスモデル対応の次世代組み込みOSをめぐる争いはLinux優勢にみえるが、地殻変動が起き始めている。その震源地は、ベンダとしてT-Kernel普及を先導するイーソルだ。

[石田 己津人,@IT MONOist]

 「『T-Kernel』が本格的に普及するかしないか、今年(2006年)がポイントになる。OSはある(臨界)点を超えると雪だるま式に普及してゆくものだが、T-Kernelもそこへ着実に向かっていると感じる」。こう語るのは、イーソル エンベデッドプロダクツ事業部の取締役 事業部長 上山伸幸氏である。

 TRONプロジェクトが新プラットフォーム「T-Engine」を発表したのが2001年末。T-Engineの中核となるT-KernelはITRONの後継であり、大規模開発にも適応するリアルタイムOS(RTOS)として注目を集めた。2004年1月にはソースコードが一般公開され、誰もが無償で入手・改変できるようになった(注)。これにより、組み込み分野における膨大なITRON資産の一部でT-Kernelへの乗り換えが始まるかとみられていた。


※注
T-Licenseへの同意が必要。T-Licenseは、T-Kernel向けライセンス制度。入手したソースコードを改変できる点はGPL(General Public License)に近いが、改変したソースコードの公開義務はなく、自社の知的財産として守られる。逆に、再配布は原則として禁止されている。T-Licenseについては、「2006年、T-Kernelはこうなる!」も参照。

イーソル エンベデッドプロダクツ事業部 取締役 事業部長 上山伸幸氏 イーソル エンベデッドプロダクツ事業部 取締役 事業部長 上山伸幸氏

 華々しく登場したT-Kernelだが、これまでは鳴かず飛ばずだった感が否めない。機器ベンダで採用する動きがほとんど聞こえてこなかったからだ。その間、組み込み分野へのLinux浸透がどんどん進み、ITRONからの乗り換えも相当数起こった。だが、上山氏によれば、そうした状況が水面下で変わろうとしているという。その状況を製品・サービスでリードしているのがイーソルだ。


T-Kernel/SEを先取りで提供

 イーソルは、2005年2月からT-Kernel互換RTOS「eT-Kernel」シリーズをリリースしている。T-Kernelに独自チューニングを施し、起動時間短縮や割り込み応答性の向上などを図ったもので、「ITRONから移行しやすいつくり」であるという。カーネル機能を最低限に絞ったμITRONとほぼ同機能の「eT-Kernel/Compact」、T-Engine標準デバイスドライバを付加した「eT-Kernel/Standard」、そしてメモリ保護機能やプロセス管理機能を持つ「eT-Kernel/Extended」の3種類である。

図1 3種類のプロファイルがあるeT-Kernel。大規模組み込みシステム向けeT-Kernel/Extendedが柱となる 図1 3種類のプロファイルがあるeT-Kernel。大規模組み込みシステム向けeT-Kernel/Extendedが柱となる

 T-Kernelは誰でも無償で入手できるとはいえ、商用製品であるeT-Kernelが求められる要素はある。ITRONについては、どの機器メーカーにも長年にわたり蓄積してきた独自ノウハウがあるが、T-Kernelはできたてである。一から独自にチューニング、実装するとなると開発リスクが高い。そこでベンダサポートの付く商用品へのニーズが生まれる。さらに、イーソルにはμITRON4.0に準拠した「PrKERNELv4」などで培った実績がある。

 携帯電話や情報家電など大規模組み込みシステムに向けては、T-Kernelの機能を拡張する「T-Kernel/Standard Extension(SE)」が提供される予定だ。T-Kernel/SEは、現在T-Engineフォーラム内で評価が進められているが、イーソルのeT-Kernel/Extendedはそれを先取りしたものである。

 商用製品ならではのメリットが評価されたのか、2005年秋以降、実開発案件でeT-Kernelの引き合いが一気に出てきたという。現在では新規案件の半分以上がeT-Kernel。象徴的なのは、デンソーの次世代カーナビゲーションシステム開発で、eT-Kernel/ExtendedとT-Kernel/μITRON向け統合開発環境「eBinder」が採用されたことである。「正直な話、2005年夏まではT-Kernelへの反応が悪くて心配していたが、秋以降は状況が変わった。年末にデンソーさんの採用を発表したことで、周囲から『T-Kerneは大丈夫?』と聞かれることがなくなった」(上山氏)と、このアナウンス効果は絶大だった


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