プロセス管理ツールで失敗する人しない人プロセス改善のセキララ告白(3)(3/3 ページ)

» 2006年05月23日 00時00分 公開
[中山司郎 横河ディジタルコンピュータEPS事業センタ,@IT MONOist]
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ツールを生かすも殺すも自分たち次第

 ツールでの運用を開始してから約半年、トライアルプロジェクトは終了しました。別のプロジェクトでも同様の運用が動きだし、後発のプロジェクトでは、すでに効果が出始めました。

成果

立場に応じた「見たい進ちょく」が見えるようになった
進ちょく状況の確認については、ツールのビューを切り替えることで、部門長、リーダー、開発者といったそれぞれの立場に応じた粒度で状況を見ることができるようになりました。以前のように、リーダーが手作業で集計する必要もなくなり、ツールを囲んで進ちょく会議を行うスタイルが可能となっています。

個人のばらつきがなくなり、自由度が増えた
また、WBSを3階層まで共通化したことにより、それより細かい粒度の部分については開発者にある程度任されることになりました。結果的に、個人によるばらつきがなくなったと同時に、自由度も広がり、開発者の意識も向上していきました。

後工程の予測が立つようになった
さらに運用が進んでいくと、不具合や要件変更の件数を測定したことにより、予測が立つようになってきました。1段階目のテストの状況から、最終テストではどの程度で収束するかを想定することができ、どれくらいの工数が必要かをある程度予測できるようになったのです。

プロジェクト立ち上げ時の工数が減った
計画のテンプレートやWBSの共通化などにより、プロジェクト初期に掛かる工数が大幅に削減できました。また誰が見ても、どういうプロジェクトがどんな状況かを知ることができるようになり、リソースの配分や計画変更のための情報としても役立っています。

プロセス改善、今回の教訓

 さて、この現場がもう一歩先へ進むことができた理由は何でしょう。

 何といっても、ツールの選び方と、使いこなし方が大きな理由といえるでしょう。どう使うか、何を目的とするかが明確でないままにツールを購入してしまい、「使えないツール」としてキャビネットの肥やしになっている例は少なくありません。ツールベンダのカタログやプレゼンテーションでは、明るい未来が待っているかのように見えるかもしれませんが、やはり選ぶ方が目的意識を持っていないと、上手な運用は難しいようです。

 一方、いろいろなツールに対して「この機能がないと使い物にならない」という評価を時々聞きます。しかし、本当にそうでしょうか。何を目的としているのかに立ち返って考えると、案外、使い物になるか否かの評価は変わるような気がします。もし、それでも使い物にならないツールなら、選ぶべきではないでしょう。

 この現場では、まず目的に合ったツールを見付けたところがスタートでした。常に目的を見失わずにいたことで、ツール導入の効果を得ることができたのです。

 同時に、ツールにすべてを期待しないことも、うまくいった秘訣でしょう。市販されているツールが、開発現場の期待に100%応えられることは、まずありません。仮にすべての要求をツールに展開したとしても、一見完全な環境のように見えて、操作が複雑になり過ぎたり、かえって管理の工数が掛かったりするものです。例えば、「あったら便利」といった時々使う機能を実装したがために、毎日使う機能が使いにくいというような事態にも陥りかねません。

 この現場でも、ツールへの要求が拡散しそうになったときが、1つの曲がり角でした。そのときも、ツールに何を期待するのかを考えて必要な機能だけに割り切ったことで、壁を乗り切っていったのです。

 ツールを使う以上はすべてツールで運用しよう、機能を使い倒してやろうと、あまり硬く考えすぎない方がいいのです。むしろ、人間の頭で考える要素が多い部分や、ホワイトボードを囲んで話をした方が分かりやすい部分などは、無理してツールに展開しなくてもいいのです。この辺の見極め方に、ツールとの上手な付き合い方の鍵がありそうです。



 現在は、A氏の部門だけでなく、別の部署や海外でも、可視化と標準化のために共通のツールを提供する取り組みを展開しています。初期段階の工数が減ったことや、状況把握や予測が可能になったことで、最近のプロジェクトでは、開発期間を15〜25%程度短縮することができたという実績も上がっています。

 今回は、管理ツールと奮闘した現場をご紹介しました。ツールは文字通り「道具」です。A氏の部門でも、ツールの提供している機能をすべて使っているわけではありませんし、過負荷な運用をしているわけでもありません。目的に合った機能を、現場に合わせて運用することこそ、本当の意味で道具を使いこなしているといえるでしょう。

「目的を見失うな」

「道具は使いよう」

 今回は、これにつきますね。


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