車載用半導体トップメーカーの強みとは?組み込み企業最前線 − フリースケール・セミコンダクタ・ジャパン −(2/2 ページ)

» 2007年02月06日 00時00分 公開
[石田 己津人,@IT MONOist]
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車の安全技術を支える3要素を網羅

 車載分野は、特にソリューションが必要とされている。「高級車になると100個以上のチップを積む車載分野は、マルチメディア、通信、センシング、制御など半導体のあらゆるアプリケーション要素が集約しており、それらの要素を組み合わせて組み込みシステムを実現する。われわれが持つ幅広いポートフォリオが生きる分野」(友部氏)。

車載向け組み込みシステムは、センサ、プロセッサ、コントロールの3要素が不可欠 図1 車載向け組み込みシステムは、センサ、プロセッサ、コントロールの3要素が不可欠。フリースケールは、3要素とも業界ポジションが高く、車載用半導体トータルではトップ(順位は同社資料より)

 自動車メーカーが技術開発にしのぎを削る各種セーフティシステムでは、センシング、プロセッシング、コントロールの組み合わせが必須になるという。確かにフリースケールは、この3つの分野を満遍なく押さえている。センサでは、前述したMEMSセンサが強みだ。例えば、エアバッグなどで使用される加速度センサの出荷実績は1億5000万個以上(2006年までの累計)。センサが収集した情報を高速処理するプロセッサは、8〜32bitまで車載向けMCUを取りそろえる。特にPower Architectureベースの32bit製品は1999年の発売以来、2006年末で出荷金額が10億ドルを突破するなど勢いがよく(注)、高信頼性が求められる駆動系用途でも使われていることを意味する。コントロールとは主に、エアバッグの点火装置や各種モーターなどの制御用ICのこと。高精度なアナログ部品が不可欠なので、SMARTMOSプロセスのミックスドシグナルが使える。

※注
米Strategy Analyticsの調査によれば、車載用半導体市場は2005年で160億ドル強。

「車載はわれわれが持つ幅広いポートフォリオが生きる分野」 「車載はわれわれが持つ幅広いポートフォリオが生きる分野」

 ほかの分野で培った技術を車載分野で生かしている面もある。将来、多くの車種で一般化するとみられる衝突回避システム。車間距離測定にはミリ波レーダを使うが、フリースケールはネットワーク、ワイヤレスの分野でRF技術を磨いてきた。また、同社は「distributed system interface(DSI)」と呼ぶエアバックシステム向け独自通信プロトコルを持つ。衝突を感知するセンサ群を効率よくバス接続するのが特徴(一般にはスター接続のため配線が複雑)で、すでにDSI通信機能を内蔵した加速度センサも製品化している。エアバッグシステム向けには、汎用車内LANのCAN/FlexRayと比べて高速でより高信頼なネットワークが求められるが、そこに同社が得意とする通信技術が反映されているわけだ。

 「『このプロセッサはこんなに高性能です』という提案では、自動車メーカーや電装メーカーは見向きもしてくれない。彼らの関心は、いかにして環境に優しく、安全な車を造るか。われわれが持つIPを組み合わせたソリューションで支援してゆく」(友部氏)。フリースケールが今後も車載用半導体でトップの地位を守れるかどうか、日本での活躍がカギを握りそうだ。

次のターゲットはホームネットワーク

 日本市場では、携帯電話以外のコンシューマ機器にも力を入れてゆく構えだ。フォーカスの1つが家庭向けネットワーク機器。友部氏は「公衆網や家庭内を映像コンテンツが飛び交う時代になり、一方でDLNA(注)の標準化により家庭向けのメディアサーバやゲートウェイなどが今後増えくる。そうした家庭向け機器では、25Mbit/sのHD映像を何本も同時伝送できるぐらいの高品位でQoS(Quality of Service)機能を持った通信プロセッサが求められるはず。われわれの技術を生かせる領域となってきた」という。業務向け通信機器で高いシェアを持つPowerQUICCの技術を家庭向け機器にも応用するわけである。

※注
次世代ホームネットワークの標準化団体「DLNA(Digital Living Network Alliance)」が定めるガイドライン。異メーカー間でもDLNA対応機器同士なら相互接続が可能。

 フリースケールが2006年末に発売した「MPC8349E PowerQUICC II Pro」は、まさに家庭を狙った戦略デバイスである。最大4本のHD映像を同時伝送できる処理能力を持つPower Architectureコアe300(266〜533MHz)を持ち、ギガビットイーサ×2、32bit PCIバス×2(もしくは64bit×1)、USB 2.0コントローラを標準搭載する。AES(Advanced Encryption Standard)といった暗号化アルゴリズムにも対応し、ハードウェアで高速処理する。

家庭向けネットワーク機器での採用を目指すMPC8349Eのシステム構成 図2 家庭向けネットワーク機器での採用を目指すMPC8349Eのシステム構成
MPC8349Eのリファレンス・プラットフォーム 図3 MPC8349Eのリファレンス・プラットフォーム。業務向けで使われる高性能プロセッサを搭載し、最大4本のHD映像を同時伝送できる

 DTCP-IP(注)対応のDLNAミドルウェアを手掛けるデジオンが早くもMPC8349Eをサポートし始めたので、デジタル放送コンテンツの伝送も可能だ。フリースケールはMPC8349Eのリファレンス・プラットフォームも提供しており、力の入れようが分かる。

※注
IP伝送するデジタルコンテンツの著作権を保護するための規格。電波産業会がデジタル放送のDTCP-IP出力を認めたため、家庭ネットワーク上でデジタル放送のコンテンツをやりとりできる。DTCP-IP対応のテレビPCなどが登場し始めた。



ポータブル機器向けキラー技術も

 家庭ネットワークでいえば、短距離無線通信技術「ZigBee」もフリースケールのIPを生かせる分野だ(同社はZigBeeアライアンスの推進企業)。ZigBeeの特徴は、無線LANの1万分の1という圧倒的な低消費電力。それでデータ通信速度は最大250kbit/s、通信距離は最大100mほど。最大6万5000ものノード(端末)からなるアドホックなメッシュ型ネットワークを組めるため、家庭内のあらゆる“モノ”を結ぶ無線通信となる可能性もある。「ZigBeeの用途としては、例えばセキュリティがある。窓ガラスにセンサ付きZigBeeチップを装着し、異常があれば警告を携帯電話に自動メール送信するといった使い方も考えられる」(友部氏)。ここでも同社は、RF技術や低消費電力のMCU、センサなどを適切に組み合わせて提供できるわけだ。実際、シャープが2006年9月から発売している「リビングドアスコープ」(注)には、フリースケールのデバイスが採用されている。

※注
玄関ドアに2.4GHz無線機能付きドアスコープを装着し、来訪者をカメラ撮影、専用モニタへ無線伝送するシステム。

http://www.sharp.co.jp/corporate/news/060731-a.html


 個人向けポータブル機器では、ARM系のアプリケーションプロセッサ「i.MXシリーズ」が国内でも大きな成果を上げ始めている。例えば、東芝のワンセグ放送に対応したデジタル音楽プレーヤ「gigabeat V30T」、ソニーのコミュニケーション端末「mylo」がARMコアを持つi.MXを搭載する。多くの半導体ベンダがアプリケーションプロセッサを提供している中でi.MXが選ばれているのは、i.MXと組み合わせる電源管理ICが差別化ポイントになってからだ。電源管理機能のみならずオーディオ機能も集約し、システムの動作状況に応じて動的に電圧を制御する電源管理ICであり、これもSMARTMOSプロセスのミックスドシグナルだ。

アプリケーションプロセッサのi.MXと電源管理ICを組み合わせ、高性能なマルチメディア処理と低消費電力を両立させる 図4 アプリケーションプロセッサのi.MXと電源管理ICを組み合わせ、高性能なマルチメディア処理と低消費電力を両立させる。電源管理ICは、デジタル回路とアナログ回路を混載したミックスドシグナル

 さらに、SMARTMOSプロセスにより、電源管理ICへ周辺システムの制御用MPUを組み込んでしまうこともできるという。つまり、アプリケーションプロセッサのi.MXと電源管理ICの2チップで組み込みシステムを構成してしまうことも可能なのだ。

 それ以外でも、フリースケールは業界に先駆けて“究極の不揮発性メモリ”といわれるMRAM(注)の量産を2006年夏から開始している(4Mbytesの単品)。フラッシュメモリの10分の1ともいわれる低消費電力のMRAMは近い将来、特にポータブル機器向けでキラー技術となりそうだ。

※注
Magnetoresistive RAM。ハードディスクと同じく記憶媒体に磁性体を用いた不揮発性メモリ。低消費電力で集積度が高いうえに書き込み速度はSRAMと同等。

 以上のように、フリースケールはコンシューマ機器分野でも潜在力を秘めていることが分かる。外資系としては珍しく、本格的なR&D拠点を国内にも構えている点は、国内の機器メーカーへアプローチする際に有利だろう。「本社から製品を持ってくるだけでなく、ユーザーに近いところで、ユーザーが求めているものを開発する」(友部氏)。実際、前述した電源管理ICなどは、日本法人がリードして開発したものだ。

 市場全体では総合型半導体ベンダが苦しんでいる中で、フリースケールは今後、総合力をどのように生かしていくのか、興味深いところだ。

関連リンク:
i.MX
Memory (MRAM)(英語)

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