モータ制御などに使われるパルス信号って何?組み込みギョーカイの常識・非常識(7)

ステッピングモータやサーボモータなどの制御に使われるPWM方式とPAM方式、デューティー比といった基本を解説する

» 2007年02月23日 00時00分 公開
[中根 隆康 フリー・アーキテクト/(株)ネクスト・ディメンション,@IT MONOist]

 今回はパルス信号(Pulse Signal)について書いてみたいと思います。

 「Pulse Signal」をそのまま訳すと「脈打つ信号」あるいは「鼓動する信号」になりますが、前回「デジタル信号、アナログ信号って何?」で述べたアナログ信号だって脈打っている信号じゃないか、といわれそうですね。では、アナログ信号とパルス信号は何が違うのでしょうか。

 家庭に供給されている電気には交流の電気が流れていますので、50Hzか60Hzで脈打っているパルス信号といえます。ここで大事なのが“50Hzか60Hzで”というところで、この周波数(1秒間に振動する回数=Hz)がいくつかという視点で見ると、交流の電気はパルス信号といえるでしょう(図1)。また、スイッチでのON/OFFも一種のパルス信号といえますが、少々分かりにくくなってしまいましたね。あまり日本語の「脈打つ」という意味を意識せず、ON/OFFを繰り返す信号だと思っていただいた方がよいでしょう。一方、アナログ信号にはON/OFFという観点はありません。

交流の電気をパルス信号と見た場合 図1 交流の電気をパルス信号と見た場合

 余談ですが、パソコンで電話回線を使ってダイヤルアップ接続(モデム接続、古いですか……)しようとするときに、コントロールパネルの「電話とモデムのオプション」の中にもダイヤル方法でトーンなのかパルスなのかを指定する個所があります。アナログ回線からデジタル回線に切り替わるころの名残がいまだに残っているようです(Windows Vistaでは残っているか不明ですが)。

パルス信号を制御するPWM方式とPAM方式

 では、実際の組み込みシステムの中でパルス信号がどんなものに使われるかですが、パルス信号を出力して何かを制御するものと、パルス信号を入力して何かを測定するものとがあります。

 パルス出力で制御する代表的なものがステッピングモータ(Stepping motor)やサーボモータ(Servo motor)などのモータ類です。そしてモータ類のパルス制御(Pulse control)によく使われる方式がパルス幅変調方式(PWM:Pulse Width Modulation)やパルス振幅変調方式(PAM:Pulse Amplitude Modulation)です。

 パルス幅変調(PWM)方式とは、名前のようにパルスの幅(パルスをONしておく時間)を長くしたり、短くしたりして流す電流や電圧を制御するものです(図2)。

PWM方式のパルス信号 図2 PWM方式のパルス信号

 PWM方式ではパルス信号をON/OFFさせるために、一定周期で動作するタイマを利用するのが一般的です。このタイマの周期がPWMキャリア(キャリア周波数)と呼ばれるものです(図3)。

PWMのキャリア(キャリア周波数) 図3 PWMのキャリア(キャリア周波数)

 このタイマにパルス信号をONする位置を与えてやってパルス幅を制御します(図4)。

PWMパルス信号 図4 PWMパルス信号

 図2と図4を比較すると、パルス信号のONしている幅は同じになっているのが分かります。PWMではパルスの幅が重要で、高さ(振幅)は意味を持ちません。ここではパルス信号を作るのにのこぎり波と呼ばれるタイマの設定を使いましたが、図5のような三角波と呼ばれるタイマの設定を使うこともあります。

三角波 図5 三角波

 のこぎり波の場合、パルス信号がOFFする位置はキャリア周期ごとに一定ですが、三角波の場合はON/OFFする位置が一定にはなりません。どちらの方式を使うのかは制御する対象によって使い分けます。

 PWM方式を使うときに必ず出てくる用語が「デューティー比」で、キャリア周期の中でONしている比率を示します。「デューティー XX%」といった使い方をします。余談ですが、PWM方式でパルス信号を作るときに結構苦労するのがデューティー0%とデューティー100%の信号を作ることです。ONさせる設定値をどのタイミングでセットするかがなかなか大変です。

 パルス振幅変調(PAM)方式はPWM方式と逆で、パルス信号の強度(振幅)で流す電流や電圧を制御するものです。詳細はPWM方式のイメージを理解していただけたら分かると思いますのでここでは説明しません。

 一時期流行していた家電品の宣伝で「パムエアコン」とか「パム冷蔵庫」なんてのが、このパルス振幅変調方式を使ったものでした(最近はあまり聞かなくなったのですが……)。PAMは「Power And Money」の意味で省エネだといっていたメーカーさんもありました。

そのほかの制御方式

 PWM方式やPAM方式とはまったく違った考え方で制御するのがステッピングモータの制御です。ステッピングモータは、その名のようにステップという考えを持っています。このステップというのは1つのパルス信号を受けるとモータがどれだけ動くかを示すものです。何パルスを与えると何回転するとか何度動くという使い方で、メカの位置決めをするときには適した制御方式だといえます。

 ステッピングモータを逆転させるには、逆転信号を別に設ける場合と逆転用のパルス信号を別に設ける場合があり、制御する対象、モータの特性、制御の容易さ、コストなどを考慮して決められます。

 ステッピングモータの制御とは逆に、位置や速度を調べるために使われるのがエンコーダ(ロータリーエンコーダ)というもので、一般にはモータ軸やシャフトにスリットの入った円盤を付けて光を当て、その光の点滅をパルス信号にします。パルス信号をカウントしたりパルス信号の間隔で、どのくらい動いたかやどのくらいのスピードで動いているかを知ることができます。

 自動車関係では車速パルスという用語がよく使われます。これはカーナビゲーションシステムで位置補正をする場合に大切な情報となります。

 そのほかにパルス信号の制御方式(変調方式)には、以下のような種類があります。

  • PDM(Pulse Density Modulation):パルス密度変調(D/Aによく使われる)
  • PPM(Pulse Position Modulation):パルス位置変調
  • PCM(Pulse Code Modulation):パルス符号変調(オーディオ関係でよく使われ、PCM音源などともいう)
  • PFM(Pulse Frequency Modulation):パルス周波数変調(最近ではあまり使われていない)

 それぞれに特徴を持っていますので、興味があったら調べてみてください。

 アナログ信号、デジタル信号、パルス信号と進めてきましたが、最近の無線LANや光通信の技術の中にもこれらの基本的な考え方が生きています。これらがミックスされたようなものと考えたらよいかもしれません。


 今回までは少しハードウェア寄りの話をしてきました。次回からはソフトウェア寄りの話をしてみたいと思います。

 ご意見、ご要望などがありましたらできる限り取り込んでいきたいと思いますので、下記までメールをお送りください。(次回に続く)


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