いまさら聞けない 車載ネットワーク入門カーエレクトロニクス技術解説(3/3 ページ)

» 2007年03月07日 00時00分 公開
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制御系ネットワーク

 ここで説明する制御系とは、2ページ目の図1で示した分類のボディ電装系、(狭義の)制御系、X-by-wire系を含む、広義の制御系とします。ボディ電装系は、ボディ電装部品周りの機器です。代表例はパワーウィンドウやドアロック、バックミラー、イグニッション、ライトなどです。狭義の制御系とは、自動車の基本機能制御をつかさどる部品です。代表例は、エンジン、トランスミッション、ステアリング周りです。X-by-wire系は、次世代車両での利用が検討されているX-by-wireシステムに関する装置です。用途としては、ステアリング、ブレーキ、スロットルなどが想定されています。

CAN(Controller Area Network)

 CANは1986年、ドイツRobert Boschにより仕様公開されたプロトコルです。後に、CANプロトコルは国際標準化機構であるISO(International Organization for Standardization)により標準規格化(ISO11898/ISO11519)されました。現在ではほぼすべての自動車に採用され、さらにFA(Factory Automation)、産業機器など広く利用されています。

マルチマスタ
CANプロトコルは「マルチマスタ方式」であり、バスが空いているときに最初に送信を開始したノードが送信権を得ます。送信したいノードが複数ある場合はメッセージの衝突などが考えられるため、衝突回避策が必要となります。また、ネットワーク管理は各ECUが個別に行っており、動的なノードの追加や削除が可能です(図2)。

マルチマスタ方式によるネットワーク管理 図2 マルチマスタ方式によるネットワーク管理。CANに接続されている各ECUは個別にネットワークの状況を監視しているため、ECUの動的な追加、離脱が可能。初出:Interface 2005/4号「LINによるリモコン制御モデルを使ったLIN通信ドライバによるTOPPERS/OSEKでの制御の実例」

メッセージ送信優先順位 (アービトレーション)
CANは「イベントドリブン方式」による通信を行います。この方式では、メッセージ送信時の衝突を避けることができません。このような場合、各メッセージの識別子(メッセージID部)を基にアービトレーションが行われます。結果として、優先順位の高いIDを送信しているノードが送信権を獲得します。一方、優先順位が低いメッセージはいつまでに送信されるかを保証するのが難しくなります。このため、時間保証が必要なシステムでは、利用が制限される場合が予想できます。

通信速度
CANについて、SAE(Society of Automotive Engineers)が表2のように分類しています。なお、CANでは最大1Mbit/sまで利用できます。

クラス 通信速度 用途
クラスA 〜10kbit/s ランプ、ライト類、パワーウィンドウ、ドアロック、パワーシートなど
クラスB 10k〜125kbit/s ステータス情報系(電子メータ、ドライブ・インフォメーション、オートエアコン、故障診断など)
クラスC 125k〜1Mbit/s リアルタイム制御系(エンジン、トランスミッション、ブレーキ、サスペンション制御など)
クラスD 5Mbit/s〜 マルチメディア(カーナビ、オーディオなど)
表2 SAEの通信速度分類/出典:「車載LANとその応用」(トリケップス)

LIN(Local Interconnect Network)

 LINは1999年に「LINコンソーシアム」が公開した車載ネットワーク規格で、主にCANのサブネットとしての利用を想定しています。CANを利用するにはマイコンにCAN通信コントローラが内蔵されていなければなりませんが、LINの場合はほぼすべてのマイコンに内蔵されているシリアル通信(UART)で実現可能です。また、LINはCANほどの通信速度を必要としないため、低コストに実現できます。

シングルマスタ
LINは「シングルマスタ方式」を採用しています。ネットワーク内の1ノードだけがマスタノードとなり、通信スケジュールを管理します。そのほかのノードはスレーブノードとなり、マスタノードの要求に従いレスポンスを返します。例えば、1つのマスタECUとセンサとの接続への利用が挙げられます。LIN通信を用いない場合は専用ハーネスで行い、LIN通信の場合はバス接続となるためワイヤハーネスの削減に貢献します。

なお、シングルマスタであるため、管理外のスレーブが接続されても送信スケジュールされず、自由なノードの脱着はできません(図3)。

シングルマスタによるネットワーク管理 図3 シングルマスタによるネットワーク管理。初出:Interface 2005/4号「LINによるリモコン制御モデルを使ったLIN通信ドライバによるTOPPERS/OSEKでの制御の実例」

仕様
通信スケジュールはマスタノードが管理します。そのため、送信タイミングの衝突はあり得ません。接続ノードは最大16ノード、バスはシングルワイヤ方式で、多くのシステムは12V電圧のバスとなっています。バスの最長は40mです。通信速度は、UARTなどで設定できる通信速度が利用できますが、おおよそ2400〜19200bit/sが使われています。

FlexRay

 FlexRayは、X-by-wireを実現する最有力のプロトコル仕様で、主にパワートレインなどの制御装置での利用が想定されています。

 FlexRayは1998年ごろから仕様の検討が開始され、2000年に「FlexRayコンソーシアム」が組織されました。一方で、FlexRayと利用目的が競合するプロトコル「TTP/C(Time Triggered Protocol class C)」がありましたが、2003年にTTP/Cの主要メンバーがFlexRayコンソーシアムに加盟したことにより、実質的にFlexRayに統一されました。

X-by-wire向けの車載ネットワーク
X-by-wireは、従来機械で接続されていた機能をコンピュータおよびネットワークを用いて実現します。そのため、機械接続と同等の信頼性と反応速度が要求されます。このような要求を受け、FlexRayは「タイムトリガ方式」の通信と高信頼プロトコルを採用しています。

タイムトリガ方式
現在の車載システムは個々のECUに制御され、送信タイミングなどの通信処理はECUごとのイベントが通信開始トリガとなります。これが、CANのところで説明したイベントドリブン方式です。送信権は優先順位によるため、応答性の問題からX-by-wireへの利用は難しくなります。

一方、タイムトリガ方式は、同一ネットワークバスに接続されているすべてのノードでネットワーク時間を共有します。すなわち、ネットワーク上で基準となる時間が管理されます。一定期間ごとに期間開始信号が配達され、各ノードがその開始信号に同期して処理をすると考えればよいでしょう。各ECUノードは、開始信号からオフセット時間経過後に自分が管理するメッセージを送信したり、受信したりすればよいことになります(図4)。

イベントドリブン方式とタイムトリガ方式 図4 イベントドリブン方式とタイムトリガ方式。初出:Design Wave Magazine 2006/4号「FlexRayの実現に向けた時間駆動型通信リアルタイムOSを開発」

高信頼プロトコル
FlexRayでは、デバイスレベルでの通信二重化が可能です。アプリケーションのデータは、デバイスでAチャネルとBチャネルの2経路を使って送信できます。また、受信側は、2経路から同時に受信し、正常受信されたデータを利用します。片方のチャネルで通信断が発生しても問題とはなりません。

ノードの故障診断も実現しています。FlexRayコントローラには、バスドライバとバスガーディアンと呼ばれるデバイスが用意されています。バスドライバは通信処理を実施し、バスガーディアンは通信スケジュール情報とバスドライバの送信タイミングを確認し、不正タイミング送信をした場合に送信を止める処理をします。

車載ネットワークの動向

 車載ネットワークは、新しいサービスや自動車の固定観念を変える技術として利用されつつあります。いまは車両内でのみ情報を共有していますが、ITS(Intelligent Transport System:高度道路交通システム)などが進化すると車車間通信や路車間通信なども広く利用されると思います。すなわち、車載ネットワーク技術はいま以上に重要になると考えられます。

 国内の車両ソフトウェア標準化団体JasPar(Japan Automotive Software Platform Architecture)では、FlexRayなどの次世代通信技術に関する検討と車両メーカー間の相互協力関係の構築を模索しています。またJasParはAUTOSARと相互協力することを目的としており、相互分担での仕様検討や国内意見を取りまとめ、国際規格へのワンボイス化を狙っています。

 国内メーカーが系列の壁を乗り越えて統一思想として協力できるのは、特定メーカーの思想が入っていないオープンソースかもしれません。すでに国内でもオープンソースを共通仕様のたたき台として検討しているとうわさされています。車載ネットワーク仕様が日本から提案される日を信じたいと思っています。

関連リンク:
JasPar
AUTOSAR

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