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» 2007年08月23日 00時00分 公開

3次元CADをめぐる夢と現実を見極めようPLMは“勝ち組”製造業になる切り札か(2)(2/3 ページ)

[北山一真/ネクステック株式会社,@IT MONOist]

3次元CADはどのような業務プロセスに適応しやすいか【業務】

 3次元CADを検討する場合には、製品開発プロセスを大きく2つに分けると理解しやすい。

企画〜製品設計 顧客(ユーザー)のニーズや仕様を機能に落とし込み、それを構造として表現するまで。図面や3次元データを作り込む部分

試作評価〜製造 設計した構造の成立性や生産性の評価を行う。また、設計の意図を反映し、治工具・金型・ライン設計など実際のモノ作りの準備を行うまで。設計データが3次元であることを活用していく部分

 製品開発における業務を概要レベルで示した図2を参照してもらいたい。まず、1の「企画〜製品設計」の部分について見ていく。

図2 製品開発の概要プロセス 図2 製品開発の概要プロセス

 設計業務の中でも、「構想設計」「詳細設計」では、顧客のニーズや仕様に対して機能を設定し、それを実現するためにモノとしての構造へ変換していく作業を行う。製品の価値を作り込んでいくのがこの作業となる。

 製品価値(Value)とは、一般的に製品機能(Function)と原価(Cost)のバランスで表現される。そこに販売価格(Price)を入れることで、「顧客にとっての魅力」と「自社にとっての魅力」に分解できる(図3)。この双方を追求するために、設計者のアイデアと創造性の下、VE(Value Engineering)やコストシミュレーションを駆使しながら「売れる、もうかる」製品へと進化させていくことが設計の本分である(図3)。

図3 設計における製品価値の向上 図3 設計における製品価値の向上

 しかしながら、製品価値向上のための創造的な作業に対して、3次元CADが寄与する部分はほとんどない。部品表(BOM)や部品ごとの原価情報/環境属性情報を利用することで、環境負荷物質やコストのシミュレーションは実現される。また、仕様と構成(BOM)をひもとくデータモデリングにより、安定した製品設計のベースが生まれてくるのである。

 では、どの部分で3次元CADは有効となってくるのだろうか。冒頭のファクト情報でも示されているが、設計業務の中でも「デザイン」の部分と「製図」の部分では効果が見られる。

 「デザイン」は、設計者が意図することをモノの形態・意匠として作り込み、限られたスペースの中に部品を収めていく作業となる。いままでは、3次元の物体をいったん2次元の図面として表現し、それを頭の中で3次元に戻して、物体としてのイメージを共有していた。非常に無駄な作業である。3次元CADの導入により、本来3次元の形状を持つ部品を3次元で表現でき、直感的に物体のイメージを共有できる。併せて、スペースや部品間の干渉も即座に認識でき、無駄なスペースの除去が簡易にできる。結果として製品の小型化が促進されることとなった(最近は多少改善されているとは思うが、自動車において設計変更の約70%が部品干渉にかかわるものだといわれている)。

 そして「製図」では、設計の結果や設計意図を後工程の人へ伝達するために、図面を作成する。以前は、ドラフターを使い手書きで行っていた作業は、3次元CADツールによって効率化できたのである。

 次に、2の「試作評価〜製造」の部分について見ていく。1でも述べたが、製品を3次元として直感的に理解できるというのは、設計以降の工程の人とのコミュニケーションで効果がある。後工程(生産設計・調達・製造など)に関与する人数は、設計段階の約20〜30倍である。社外の関係者を入れると約200〜300倍ともいわれている。これほど多くの関係者全員が、2次元図面を見て3次元の物体をイメージできる能力を持っているわけではない。関係者が多くなればなるほど誤解も生じやすい。それを3次元の直感的なイメージで理解できることは非常に大きな意味を持つ。

 この3次元データを利用し、デザインレビューを行う企業が増えている。製品イメージをより早期に把握し、懸念点や改良点を早期に出せる利点があるからだ。トヨタはいち早くバーチャルデザインレビューに着手し効果を上げた企業の1つである。しかしながら、3次元データを見るにはCADもしくはViewerが必要となるため、いままでパソコンすら置いていなかった現場では、新たにパソコンを購入しネットワーク回線を引くなど、大掛かりな投資にもなりかねない。この点には注意が必要だ。

 また3次元CADデータがあることで、評価・テスト・生産設計で実施する衝撃解析・構造解析・応力解析・流体解析・EMC/EMIなどのノイズ検証・組み立て性検証などについて、設計段階でCAEを用いてシミュレーションできる。これによりDFT(Design for Test)・DFM(Design for Manufacturing)の実現が可能となる。しかし、CAEの処理速度を上げるために、3次元CADデータをCAE用に加工する手間(Rや微小な形状の削除など)が掛かることも忘れてはならない。

 ところで、設計以降の後工程がすべて3次元CADによって実施できるわけではない。3次元の図面やデータでは、設計意図や注釈を反映できないという機能的な制約が存在する。具体的には、

製品特性 寸法公差・幾何公差・材質など

管理情報 部品名称・部品番号・使用個数・設変履歴・バリエーションなど

これらの情報がないため、多くの業務はいまだに2次元の図面中心にならざるを得ないのが現実である。

 以上のように、3次元CADは製品開発プロセスの中において、最も重要な製品設計での製品価値の作り込み作業には、まったくといっていいほど寄与していない。しかし、他部門とのコミュニケーションツールとしての位置付けや、評価・テストといった後工程作業を事前にシミュレーションするのには有効である。

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