学生のうちに、ものづくり即戦力アップシーメンスPLMソフトウェアのアカデミック・パートナーシップ

» 2007年10月31日 00時00分 公開
[小林由美,@IT MONOist]

 シーメンスPLMソフトウェアは、2007年10月30日、日本国内の高等学校や大学、専門学校など教育機関へのソフトウェアの提供が、ライセンス正価換算にて7億2500万ドル相当を超えたことを発表した。なお、393の教育機関に対し、同社の3次元製品を提供したという。

 同社は、1997年から「GO PLM(Global Opportunities in Product Lifecycle Management)」というアカデミック・パートナーシップ・プログラムを実施し、技術者教育支援を行っている。2007年現在で、同プログラムのパートナー数は9000を超えたという。

 同社の3次元CADを工学部の機械系学科の教育現場に投入し、授業における設計作業を自動化することによって従来のカリキュラムを短縮し、その空いた時間を社会に出てから役に立つ教育に充てるなどが可能だという。

 シーメンスPLMソフトウェア シニア・バイスプレジデントのハンス・カート・ルベルステッド(Hans-Kurt Lubberstedt)氏は「社会に出る前に、最先端のITテクノロジーに触れられるということは重要だ。ものづくりの技能を身に付けた人材を育成 し、製造業に数多く供給して欲しいというのが世界的なニーズだ」と話した。

東京大学におけるGO PLM

 GO PLMの参加校である東京大学 大学院工学系研究科 産業機械工学専攻の教授 村上 存氏は、同校の工学部機械系3学科の3次元CAD(Solid Edge)活用状況について講演した。

 現在の同学科では、2年の後期から手描き製図と平行して3次元CADを用いた教育を行っている。

東京大学 大学院工学系研究科 産業機械工学専攻 教授 村上 存氏

 同学科の生徒たちは、2年生の後期時点では、機械要素や加工法についての詳細を「これから学ぶ」段階なので、指定された課題のモデリングやアセンブリ、組立図作成などを通して、3次元CADのオペレーションを覚えてしまう。部品設計や部品図の書き方は3年生で習得する。

 3年生になると、生徒が4〜5名でチームを組み、3次元CADを使って、簡易な油圧シリンダなどの設計作業を共同で行う。村上氏が、わざと矛盾が生じやすい設計変更を指示する。そしてチームのみんなで協力しながら、次々と生じる問題に対してどう対処していくかを体験する。それを通して、打ち合わせ不足やコミュニケーション不足によってトラブルが起こるということを理解できるようにしているという。

 部品設計の学習では、製図するだけではなく、生徒自らか加工したり、加工業者に図面を持ち込んだりして、誰にでも伝わりやすく正確な図面を書くことの大切さを学んでいく。従来のカリキュラムだと、このような時間を取るのは難しかったという。

ユレーヌ選手権で、生徒たちのモチベーション・アップだ!

 「手描き製図中心だった従来の授業より、3次元CADを用いたCG的な表示や動きのあるシミュレーションを行った授業の方が、生徒たちが面白がって取り組んでくれる」と村上氏はいう。

ユレーヌ選手権 A2017部門 結果

 その一環が村上氏の考案した「ユレーヌ選手権」だ。「ユレーヌ」とは、「揺れぬ」の意味。これは、生徒たちに片持ち梁(ばり)を設計させ(材質別で、A2017とABSの2つの部門がある)、「誰の片持ち梁が一番揺れないか」を競わせるという、競技式の授業である。

 生徒が自ら設計・製作した片持ち梁を治具(じぐ)に固定し、そこにドップラ振動計を取り付け、振動周波数に対するゲイン(どれくらい揺れたか)を計測する。

 生徒たちは、「測定ポイントさえ大きく揺れなければいい」ような構造にしたり、梁にスリットを入れて粘性流体を流し込んでおいて振動を吸収するなど、さまざまな工夫をこらす。

 競技に勝つためには、3次元CADやCAEをフル活用しなければならない。また、競技は現物の測定結果なので、現物を使った実験も合わせて行わなければならない。

 このように、生徒の学習意欲をそそりながら、効果的にものづくり技術を習得させることができるというわけだ。

東京大学フォーミュラファクトリー(UTFF)

 フォーミュラスタイルといわれる小型車両を設計するサークル「東京大学フォーミュラファクトリー(UTFF)」は、東京大学内の有志たちの集まりだ。「ものづくりに対するモチベーションが高い生徒が自然と集まるようになっている」と村上氏は話す。また、工学部だけとは限らず、文系学部の生徒もチームに参加している。

 生徒自らの手で設計製作を行うスタイルは、このチームでも同様である。車両の設計や解析、フレームの溶接、ボディの塗装に至るまで、すべてを生徒の手で行っているという。「技術力が未熟である学生たちが、高性能な車両を設計できるのは3次元CADとCAEがあるから」と村上氏。

東京大学フォーミュラファクトリーの車両

 また、同チームは年1回行われる自動車技術会主催の「全日本 学生フォーミュラ大会」に出場している。先日行われた第5回大会の結果は4位だった。

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