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» 2007年12月04日 00時00分 公開

組み込み企業最前線 − ブライセン −:ケータイ標準DBに躍り出た! Linterの歩み (1/2)

組み込みDB「Linter(リンター)」を擁するブライセンは一躍、組み込み分野の有力ミドルウェアベンダとなりそうだ。本来はエンタープライズ向け汎用RDBMSでありながら組み込み用途にも適しているLinterは、組み込み機器のソフトウェア基盤を大きく変える可能性も秘めている。

[石田 己津人,@IT MONOist]

 「Linterはこれから、どんどん携帯電話に採用されていく」――取材時にブライセン 代表取締役社長 藤木優氏が強気に語っていたことが、現実となりそうな気配である。

 ブライセンは2007年11月中旬、KDDIのau端末向け統合プラットフォーム「KCP(KDDI Common Platform)+」の標準ミドルウェアの1つとして、同社が開発・販売を手掛ける組み込み向けRDBMS「Linter」が採用されたことを発表した(図1)。KDDIによれば、12月以降に発売となる東芝製「W56T」など3モデルがKCP+を使っているという。


KDDIのau端末向け統合プラットフォームにおけるLinterの適用領域 図1 KDDIのau端末向け統合プラットフォームにおけるLinterの適用領域 ※フレームワーク図はKDDIニュースリリースを基に作成したもの


ブライセン 代表取締役社長 藤木 優氏 ブライセン 代表取締役社長 藤木 優氏

 また、これに先立つ10月末にもブライセンは、NTTドコモのFOMA端末向け統合プラットフォーム「MOAP(Mobile Oriented Applications Platform)」でLinterの適用検討が始まったことを明らかにしている。NTTドコモの場合、“適用検討”と控えめな表現だが、すでに「MOAP(S)」(Symbian OSベースのMOAP)を採用するソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ(以下、ソニエリ)製端末は、2006年冬モデルの「SO903i」からLinterを搭載している。「ソニエリさんの決断が大きかった。これでキャリアや端末メーカーが本気で組み込みDBの採用を考え始めた」(藤木氏)という。

 複数のアプリケーションが複雑な排他制御の下で多種のデータを共有し、メモリ増量によりデータ件数も飛躍的に増えている携帯電話は、組み込みDBの導入が最も進む分野の1つと目されているが、ブライセンはそこへの橋頭堡(きょうとうほ)を築いた形である。

組み込み用途に適した開発思想

 ソフトウェア開発、SIサービスを手掛けるブライセンは1986年の設立時より、発電所向け制御システムの開発などで組み込み分野とかかわってきた。一方、藤木氏自身が80年代初めからDEC Rdb、Oracleでシステム開発を行ってきたDBのエキスパートであり、社内にもDB技術者が多い(90名の社員のうち50名が「ORACLE MASTER」有資格者)。ある意味、Linterと出合うのは自然な流れだったのかもしれない。

 ただ、Linterは本来、エンタープライズ向けに開発された汎用RDBMSである。ブライセンも2001年にLinterを開発したロシアのRelex社の米子会社と業務提携を果たし、アジア地区での販売権を取得した当初は、「特に組み込み用途に的を絞っていたわけではない。パッケージソフトのDBエンジンなど、いろいろな用途を想定していた」(藤木氏)という。

 そんなLinterの最初の転機は、ある家電メーカーのHDD内蔵オーディオコンポ(2004年春発売)に搭載されたことである。「HDDに保存する大量の楽曲データを管理するミドルウェアが必要になるというので、当社から派遣していた技術者がLinterを紹介したところ、興味を持ってくれた」。そしてLinterは、ほかの製品との比較検証を勝ち抜き、そのまま採用となったという。家電メーカーの評価を高めたのは、汎用RDBMSらしく機能を豊富に持ちながらも、最低限の固定メモリで稼働する点だったそうだ。

 元がエンタープライズ向けであったLinterは当然、DBサーバが独立して稼働するクライアントサーバ(C/S)型アーキテクチャだが、組み込み機器向けにポーティングした「Embedded版」「Micro版」は、かなりフットプリントが絞られている(表1)。

Linterの適用分野別 3バージョンの基本仕様 表1 Linterの適用分野別 3バージョンの基本仕様

 もちろん、組み込み向けに特化したライブラリ型(データ管理機能をライブラリとしてアプリケーションに実装)の組み込みDBと比べると相対的にサイズは大きくなるが、指定したメモリサイズ内で確実に動作する。つまり、シビアなメモリ管理が求められる組み込み機器で絶対に避けなければならないメモリリークの心配がないのである。

 この条件をクリアすると、Linterの多機能性が組み込み用途でも意味を持ってくる。動的SQLやストアド・プロシージャが使えるなどSQLサポートは幅広く、標準対応するプログラムインターフェイスやデータタイプの種類は多い。また、トランザクション制御やセキュリティ機能も本格的だ。何しろ、双方向レプリケーション機能さえ標準で持つぐらいなのだから。

 藤木氏が興味深い見方を示す。「常に最新ハードウェアを潤沢に使えた欧米と使えなかったロシアでは、ソフトウェアの開発思想が違っている。ロシア人はハードの非力さをソフトで補おうと知恵を働かせる」。つまり、Linterの開発思想は、くしくも制約条件の多い組み込み機器に向いているというのだ。Linterには電源断からデータを自動復旧する機能があるが、これなども停電が多かったり、無停電電源装置を使えない環境から生まれた機能ともいえそうだが、それが組み込みDBとしては光る機能になる。

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