生産性を1000倍にするのは現実的な課題である先進企業が目指すグローバル成長期のPLM(5)(2/2 ページ)

» 2008年01月18日 00時00分 公開
[近藤敬/アビーム コンサルティング,@IT MONOist]
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情報処理量が100倍に増えても対応できる業務設計

 「手作りのシステムながら、一応のことはできているのに、なぜさらにシステム投資しなくてはいけないかを、経営陣に説明しなくてはならないのです」と嘆くシステム部門長の話はよく耳にする。

 ここで、もう一度、グーグルの質問に戻るべきだと思う。

 現状課題をつぶしていくだけでは、システム導入効果には限界があるし、グローバル競争では勝てない。各社が直面する将来の課題に対して、何ができるかを考えるべきである。1つの例として、

「1000倍とはいわずとも、100倍に情報処理量が増えても対応できる業務設計ができているか」

に答えられるだろうか?

 競争が激化する中、開発件数、市場投入商品数が増え、商品の部品点数が増える。それに伴い、部品調達先も増える。製造、販売拠点が増えると関連する部門も増える。管理サイクルを月から週、週から日に細かくすると取り扱いデータも増える。このように、いまから情報処理量が100倍に増えたと想定し、業務が回るかどうか確認する必要があるだろう。

 今後の製造業では、情報処理量が爆発的に増えるのは目に見えている。情報処理ができなければ、先進企業に対し、先進商品で立ち向かえない。その場合、よりニッチな市場で生きるか、より“安かろう”で、低コストの製造拠点を求めて海外流浪を始めるか……。

ITの情報処理能力を最大限に生かすために

 人間の会議は1日6件が限界としても、メール処理なら60件は不可能ではないはずである。業務量が増大し複雑化しないうちに、情報処理プロセスを整流化しておき、その処理をシステム化し、アップグレードしていけば、事務処理能力はシステム能力に同調して、累乗で効率化するだろう。

 従って、システム投資効果を発揮させるためのプロセス改革が大前提となる。システム投資効果を発揮させるためには、情報処理のプロセス間で、いかに人手の確認を省いた業務フロー設計をするかである。

 このためには、まず最終的に求める情報処理結果に行き着くようなロジックの組み立てを行い、データ提供先との協力関係を洗い直す必要がある。部品の発注先や、物流業者などバリューチェーン上の協力会社各社とのコラボレーションによる、リアルタイムに更新される情報のやりとりや、共同データベースの作成が必要だ。さらに、こちらの商品コードに連動したデータ連携ができないと、情報のやりとりがブツ切れになってしまう。

 PLMは商品軸で情報を管理していく。すると、これらの情報連携の基盤になるのは、商品コード体系に沿った部品表である。品番体系が全社で一元化できるかどうかで、どれだけ広い対応能力が構築できるかが決定されてしまう。

 そして、一連の業務設計ができたときに、どれだけの効果が生まれるかを検証すべきである。単なる業務効率化コストだけでなく、生産性の向上に基づく、設計指示書(ECO)対応サイクルタイムの短縮による試作コストの低減、設計・開発期間の短縮化、1モデル当たりの必要工数の削減、新モデル作成件数増に基づく売り上げ機会の向上など、経営課題に即した効果の数々を積み上げていくと、その大きさに驚くはずである。

 これまで、PLMは設計・開発プロセスの改革手段としてとらえられがちで、狭義には3次元CADの導入など、設計現場に対するソリューション色が強かった。製品ライフサイクルというより広義な位置付けで、商品開発からアフターサービスまで、そして新たな商品開発へと、まさに一連のサイクルを一元的にプロセス、コストを管理し、接点も社内からグループや協力会社へと広げることにより、初めてITの進化に応じた効果を享受できる。このPLMに秘められた真の能力を再認識し、グローバル競争に立ち向かっていただきたいと思う。(連載完)

筆者紹介

近藤敬(こんどうたかし)

アビーム コンサルティング株式会社

戦略事業部プリンシパル

ペンシルバニア大学ウォートンスクール(MBA)卒。政府系特殊法人、外資系メーカーマーケティング部、戦略コンサルティングファームを経て現職。各社の新規事業・新製品開発、マーケティング戦略、グローバルサプライチェーン構築、全社生産性向上などのプロジェクトに従事。主な著書(共著)に「サプライチェーン理論と戦略」(ダイヤモンド社刊)、「成功するeサプライチェーンマネジメント」(実業之日本社刊)、「CRM、SCMに続く新経営手法 PLM入門」(日本能率協会マネジメントセンター刊)など多数。


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