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» 2008年01月25日 11時00分 公開

「失敗学」から生まれた成功シナリオ(6):過負荷による破損を防ぐカラクリは、IT不要!? (2/2)

[中尾 政之,MONOist]
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ぼんやりした瞬間、工具が「ガツーン!!」

 筆者らは「フェイルセーフ機構」というのを作ったことがある。当時は切削力を測定するために工作機械に力センサを設置したが、実験中に注意力散漫な学生がテーブルに工具をぶつけて力センサを壊してしまう。あまりに多く壊すので、仕方がないから「電気ブレーカー」のようなものを作ったのである。

ALT 図4 フェイルセーフ機構

 図4に示すように、負荷が働いてもバネ力までは切片同士が接触するので剛であるが、バネ力以上になると切片が離れて柔になる機構を持つ。過負荷を除去すれば元のように接触して剛に戻る。

頭蓋骨に穴を開ける

 先月、脳外科手術を見学した。このとき、エンドミルのような平底のドリルを用いて、頭蓋骨に穴を開ける道具に感心した。頭蓋骨の下は豆腐のような軟らかい大脳であるから、ドリルが骨を貫通したら、直ちに停止させなければならない。停止できずに大脳が出血したら大騒ぎである。この機構には上述したラチェット機構の要求機能、つまり“トルクが大きくなったらタップを止めてスピンドルを空回りさせる”機能の逆の機能が必要になる。つまり、トルクが小さくなったら直ちにドリルを止めてスピンドルを空回りさせないとならない。

 お医者さんに「分解してもいいですか?」ともいえず、機構の答えは分からない。でも図5のような機構になっているのではないだろうか。

ALT 図5 頭蓋骨用スピンドル

 すなわち、切削時にトルクが働くと斜板に沿ってスピンドルが伸びるようになっている。そして貫通してトルクが小さくなるとスピンドルがバネ力で縮まり、ドリルは直ちに切削地点から避難できる。ドリルが縮むと、圧縮エアーの流れが遮断され、エアータービンの回転力がなくなると同時に、ブレーキシリンダのエアー圧力が抜けてバネ力でブレーキシューがスピンドルに接触して回転が止まる。始動時だけは手動でエアーバルブを開けて、まずはブレーキを解除してタービンを回す。



 いずれの機構でも“制御を使わない”のがミソである。コンピュータやセンサを使うとそこから壊れるかもしれないし、停電したら一巻の終わりである。カラクリを考えるのも結構、楽しい。(次回に続く

Profile

中尾政之(なかお まさゆき)

1958年生まれ。東京大学 大学院工学系研究科 産業機械工学専攻 教授。1983年、東京大学大学院工学系研究科産業機械工学専攻修士課程修了、日立金属入社。1991年、東京大学 工学博士号取得。2007年4月28日放映「世界一受けたい授業」(日本テレビ)に出演。著書に『失敗百選―41の原因から未来の失敗を予測する』(森北出版)などがある。


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