連載
» 2008年01月28日 00時00分 公開

“日本型モノづくり礼賛論”に死角はないのか?モノづくり最前線レポート(3)(2/2 ページ)

[上島康夫,@IT MONOist]
前のページへ 1|2       

ドイツ、韓国が日本の刺客か?

―― アメリカ以外の製造業メーカーも日本にとって脅威となりつつあります。

三澤 日本と海外(韓国、アメリカ、ドイツ、イギリス、フランス)の製品開発に従事する経営者・管理職に、ナレッジマネジメント活用に関するアンケートを取ったことがあるのですが(日本経済新聞、2006年8月1日、『経済教室』参照)、日本は情報を共有するITの仕組みの導入が最も低いという結果が出ました。日本は人材の流動性が低く、モノづくりの現場では互いに気心が知れた仲間が面と向かってコミュニケーションを図っているのですから、ITによるナレッジマネジメントのように面倒な仕組みは必要ない、と考えるのも無理はないでしょう。

 逆にITの重要性を強く認識しているのはドイツと韓国でした。ドイツはBMWを筆頭に、日本の自動車メーカー、特にトヨタ生産方式を徹底してベンチマークしてきました。そこで彼らが気付いたのは、日本のモノづくりでは現場の人間同士が非常に良くコミュニケーションを図っている、つまり人間系のモノづくりだと認識したのです。「とてもじゃないが、自分たちドイツ人は日本人のように濃い人間関係を築くのは無理である」。そう悟ったから、ITシステムで不足分を補おうとしたと思われます。

 一方、韓国は国民性としては日本に近いといわれていますが、最も異なるのは韓国の国内市場が小さ過ぎて商売が成立しない。彼らは海外に進出せざるを得ないという宿命を背負っているのです。サムスンしかり、ヒュンダイしかり、グローバルに生産拠点を展開する以上、日本のように対面コミュニケーションは不可能ですから、PLM(Product Lifecycle Management:プロダクトライフサイクル・マネジメント/製品ライフサイクル管理)のようなITシステムの力を借りた情報共有の仕組みを導入するのです。

 eラーニングについても韓国では導入が進んでいますが、日本人は「そんなもので仕事を教えられるわけはない」と考える人が多いようです。ですから、今後のeラーニング導入計画でも、日本は最も消極的というデータが出ています。日本は面と向かって話をしなくちゃダメだ、コンピュータなんか役に立たないんだという意識が強過ぎます。これは「摺り合わせ型モノづくり」の負の側面だと考えています。国際競争を考えれば、こういう状況を放置するのは問題でしょう。自動車でいえばBMWやヒュンダイ、エレクトロニクスではサムスンに日本企業は追い越され、引き離されていくかもしれません。

 韓国企業はITに対する感度が非常に高いですね。それに加えて、マネジメント手法は完全なトップダウン型です。国民性は間違いなく日本人と同じアジアの血が流れていますが、経営スタイルは典型的なアメリカ型なのです。そしてトップダウンの企業文化に、ITは相性が非常にいいのです。日本のようにボトムアップというか、ミドルアップというか、現場の意見を尊重する企業文化にITを導入するのは時間がかかるといわれています。この差が、日本と韓国の現状に表れていると思いますね。

―― 日本の製造業は、ボトムアップ式モノづくりからくるITアレルギーをどうやって乗り超えたらいいのでしょうか。

三澤 モノづくり文化が違いますから、韓国やドイツで普及しているPLMをそのまま日本に持ってきても、うまく根付かないだろうと感じています。やはり日本式のモノづくりに合ったPLMの利用・導入の仕方を考えていくべきでしょう。そのための第一歩は、日本と海外のモノづくりを比較した客観的なデータを用意して、ITを利用しないと外国メーカーに負けますよと警鐘を鳴らす。また、日本の就労者数が確実に減っていくというデータも再認識してもらう。そういった、地道な活動を通して、意識改革を進めていくことになるでしょう。

 こういったことに対する感度の非常に高いトヨタでは、すでに少子化対策の準備を進めているようです。これからのトヨタは低価格の小型車をたくさん造らなければ国際競争に勝てないのですが、日本では技術者が不足して対応し切れない。そこで外国人の力を借りて、どこの国の出身者であってもトヨタ品質の車を造ってもらえるような仕組みを作らないといけない。これまで営業系部門の現地採用やノウハウの海外移植はかなり進んでいて、日本から派遣された営業や生産系の人が現地の方を教育し、その現地の方がさらに現地の方を教育するという良い流れができつつあります。

 しかしモノづくりの上流部分、つまり設計や解析などはまだまだ外国の方に教育するところまでは至っていません。日本自動車メーカーを調べたデータでは、設計業務の90%はまだ国内で行っています。これに対してGMなどでは60〜70%、つまり30〜40%は中国やインドといった海外企業に設計を委託しています。モノづくりはそれを消費する国で作る方が良いといわれています。まず、現地の人が設計をすれば現地のニーズを取り込める。そして現地でモノづくりをすれば為替リスクを負わずに済む、という現実的なメリットもあります。こういったことを自動車メーカー各社は頭では分かっているはずですが、R&Dの国際化について日本メーカーは若干立ち遅れている感がありますね。

―― モノづくりのアウトソース戦略でも、日本メーカーは独自路線に固執しているようです。

三澤 日本メーカーがR&Dの国際化に消極的である最大の原因は、技術流出への警戒が強いからです。海外メーカーでR&Dをアウトソースして技術流出が起こり、失敗した例も実際にあります。日本では長い期間、人材の流動性が低い環境でモノづくりを進めてきましたから、まさかこの社員は辞めないだろう、まさかライバル企業に引き抜かれたりしないだろうと安心していたわけですが、最近になってその「まさか」が頻繁に起こるようになりました。これはメーカーにとっては脅威ですね。海外の企業は、その「まさか」には慣れているのですが、日本は全然免疫ができていない状態です。そこで必要以上に日本人で固めたり、自前主義に走ってしまう傾向にあります。

 技術流出に対抗する手段として、海外ではブラックボックス化から標準化へと流れが変わってきています。技術を業界標準に押し上げて、自分たちがそのパイオニアになる。すると、先行者利益を得られるわけです。これを狙って、複数の企業が共同で特許を出願するという動きが、海外では広まっています。これは「デファクトスタンダード戦略」などと呼ばれていますね。カーエレクトロニクスに関して、ヨーロッパ勢にこの戦略が見られます。本来、敵同士であるメルセデス、BMW、フォルクスワーゲン、プジョーなどが共同で特許を出願しているのです。日本企業ではライバル企業が共同で特許を出願することはまず考えにくい。それほど日本は自前主義が強いのですが、今後もこのやり方を固持していくのには無理がある、と感じます。

次世代の経営者は君たち若手エンジニアだ

―― 日本のモノづくりを取り巻く環境が変化している中、次世代の経営層、つまり現在30〜40代のエンジニアたちは、どのようなビジョンを持って次の10年を乗り切ったらよいとお考えですか。

三澤 日本の今後のモノづくりをどうしたらいいのか、これについて多くの企業で真剣な議論が行われています。私の立場から申し上げれば、人間系とIT系のバランスをもう一度見直すべきだろうと思うのです。

 日本では人間系の意識が非常に強くて、「どうせITなんて役に立たない」「どうせ社外の技術者なんて使えない」という不文律みたいなものが企業文化の中に根付いてしまっています。一方で、人手不足や新製品の投入サイクルが短縮する、海外のライバルたちはIT化を進めて低コストの製品をどんどん投入してくる、といった現実は迫っているのです。ですから若手エンジニアの方は、まず伝統的な日本型モノづくりの良い部分と悪い部分を客観的に評価する態度を持ってほしいのです。

 おそらく彼らの上司である部長や本部長クラスの人たちは、こういった危機意識に欠けていることが多いかもしれません。幹部社員はかつての成功体験が邪魔をして、なかなか新しい手法を受け入れようとはしませんから。若手がこの壁を打ち壊すのは容易ではありませんが、参考にすべき事例として、日産を再生させたカルロス・ゴーン氏のマネジメント手法「クロスファンクショナルチーム」(以下、CFT)を挙げてみたいと思います。

 ゴーン氏は、古い考えを捨て切れない幹部社員が改革に向けて積極的に動かないことを見て取ると、この古い層を中抜きにして、新しい考え方に順応できる若手を集めたチームを作ったのです。若手の登用に加えて、CFTは複数の部署を横断的に編成したチームです。こうやって新しい発想で生まれた企画を手に入れたゴーン氏は、それを古い層の幹部社員にぶつけて「若手はこんなことを考えているけれど、君たちはどう思う」と問い掛ける。そうやって、古い層の意識改革を進めていったといわれています。これによって日産は急ピッチの改革を成功させました。

 名称は異なりますが、トヨタでも「BR(ビジネス・リフォーム)」という同じようなアプローチを導入して、組織の硬直化を防ぐ努力を続けています。こういった取り組みは日産の復活やトヨタの好調を支える原動力となっています。古い考え方が壁となっているような会社では、トップにCFTやBRの導入を提案してみるのも1つの方法でしょう。やはり若手のエンジニアがいくら頑張ったところで、影響力が及ぶ範囲は限られてしまいますから、トップを巻き込んだ議論に持っていくことが大事です。

 もう一つの方法としては、IT系の重要性を再認識することです。サプライヤを含めた業務プロセスの効率化を目指すなら、PLMシステムなどITの力は必要です。伝統的な日本型モノづくりを肯定的にとらえる議論では、どちらかというとITの導入に消極的で、人間系を信じて突き進めば大丈夫という主張に偏りがちですし、一方でIT系のベンダはITシステムを導入すればすべて解決といった極論に走りがちです。どちらの論調も偏っていて、現実をうまくとらえていないと思いますね。日本のこれからのモノづくりは、伝統的な人間系を生かしつつ、IT系の仕組みもバランスよく取り入れていく必要があるでしょう。

◇◇◇

 本稿では、自動車業界の動向を中心とした議論から、日本型モノづくり礼賛論を相対化する「人間系」対「IT系」という新しい視点をお届けした。モノづくりの中心にある自動車業界の取り組みは、多くのMONOist(モノづくりに携わる人)たちの参考になるだろう。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.