日常業務に隠されたムダをとことん洗い出すリーン製品開発でムダな工数を30%削減する!(1)(1/3 ページ)

製造業の利益率は米国で十数%、アジアでも10%程度あるのに、なぜ日本企業はわずか数%なのか? 設計業務のムダな作業を削減し、ぜい肉の取れた“リーン”な製品開発を目指そう。

» 2008年03月17日 00時00分 公開
[後藤智/PTCジャパン,@IT MONOist]

 皆さん、初めまして。PTCジャパンの後藤といいます。これから3回シリーズで、「リーン製品開発」についてお話しします。リーンというのは、英語の「lean」のことです。【形】ぜい肉の取れた、非常に効率の良い、という意味です。

 リーン製品開発を一言でいえば“設計業務のムダ取り”のことです。もしかしたら、「リーン生産」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。誤解を恐れずにいえば、開発設計もある意味でリーン生産のように、徹底したムダ取りをしようという発想です。

 特に、IT活用をベースとしたリーン製品開発の取り組みに軸足を置いてお話しします。今回は、日常の設計業務におけるムダの実態を、業務全般について見ていきます。第2回は、それをプロセスとITで抜本改革するための考え方をお話しします。そして第3回は、モノづくりにおけるIT活用の典型的な3つの施策と事例についてです。どうぞ、お付き合いください。

ムダ、ムリ、ムラ

 25年前、学生時代の教科書に、“ムダ、ムリ、ムラ”に関する例え話が書かれていたことを思い出しました。非常に分かりやすい説明なので、ここで紹介しておきましょう。

……例えば、5トントラックに1トンしか荷物を積まないことをムダといい、上限が5トンなのに10トンも積んで走ることをムリといい、このようなムダとムリを繰り返すことをムラという。

 一般に、ムリとムラについては、意識すればある程度見えるものです。ムリな残業や徹夜続きでは体調を壊します。中途半端でムラのある仕事をしていると、製品のクレームにすぐ表れてきます。しかし、ムダについては、なかなか外に見えてきません。

 特に設計業務は、ムダの定義が難しいです。設計とはクリエイティブな仕事だからムダがあって当然、という風潮もあります。また、多忙を言い訳に、ムダを特定することを躊躇(ちゅうちょ)しがちです。

リーン製品開発の勧め

 しかし冷静に考えれば、設計業務の80%は、明らかにルーチンワーク(定型業務)です。理想的には、同じ設計であれば、誰がやっても同じ手法と同じ作業で完成できなければなりません。

 リーン製品開発とは、この設計業務上のルーチンワークをどれだけスリムにできるかです。そのためには、業務の「現状と目標」を明らかにすることです。作業が属人的にならないようにチェックリストを作成するのは、その典型的な職場の取り組みです。そして、見える化を実践します。

 極めて当たり前の取り組みですが、それを当たり前に実践するということです。ただし、ポイントはITを徹底活用し、ムダなプロセスを抜本的に取り除きながら取り組むことが前提となります。徹底したムダ取りを実践し、どれだけ作業工数とコストを低減できるかが勝負です。

 例えば、3次元データはどうやって作成していますか。優秀なエンジニアはあっという間に形状を完成してしまいます。初心者は試行錯誤します。同じテーマを与えても、作業工数に5倍も10倍もの格差が出るのはよくあることです。

 デザインレビュー(DR)のような調整会議のルールについてはどうですか。結論が出ない過剰な試行錯誤の検討は、ムダな工数です。コンセンサスを得るまでの手順をできるだけ細分化し、ムダを発見、そして除去。設計のルーチンワークの中には、もったいないムダな作業がかなりひそんでいます。

 日本経済が低迷した1990年代から2000年代初頭の失われた10〜15年の中で、人づくりを徹底的に実践して成功した企業はともかく、ほとんどの企業では設計業務プロセスの見直しがおろそかになっています。例えが悪いかもしれませんが、メタボリックな状態です。そして、この肥大化してしまった悪性腫瘍(ムダ工数)を摘出できずにいます。設計業務のダイエット作戦です。そんなリーンな製品開発について、一緒に考えていきたいと思います。

設計業務のムダを取る

 この1年間、数多くの日本企業の設計現場回りをしました。そして、多くの設計者や設計管理職の方々から、リーン製品開発に関する貴重なご意見をいただきました。

 特に、CAD/CAM/CAE〜PDM/PLMの利用実態も含めながら、デジタルものづくりの定着状況、なくならない現場の課題、新たに発生しているグローバル化の弊害などを、調査分析しています。どうも、この10年で、設計現場はすっかり様変わりしてしまったようです。疲労困憊(こんぱい)している設計現場の実態が、そこには存在していました。その中で、明らかになったことのいくつかをご紹介します。

 設計業務といっても、本当に技術的に“設計している”という作業より、会議、出張のような調整業務、情報検索時間、資料作成、データ入力など、設計の中でも付帯的な業務が、かなりの比率で存在しています。実際に、定量的にデータサンプリングをしてみましたが、おおむねこの付帯業務は、全設計工数の70%も存在していました。

 ただし、それらの大部分は定型業務でした。もし、仕事の進め方を体系化し、仕上げる成果物の書式や、作業ルールが標準化されれば、ITによる自動化や効率化が可能なものでした。必ずしも上級技術者が行わなくても構わないというものも少なくありません。

 さらに、驚きだったのは、その付帯的業務の中で、約30%の作業は、実際にはやる必要のないものだというのです。もしくは、その段階ではもはや作業する意味がないものだというのです。設計者自らが口々にそういうのです。明らかにメタボリックな皮下脂肪です。まさに、ムダな工数です(図1)。

図1 日常の開発業務のムダ 図1 日常の開発業務のムダ プロセスを最適化し、先進技術のIT活用により開発業務を効率化した場合、年間の期待できる予想削減工数は年間付帯業務の約30%。これは設計者1人に対して、1日当たり約2時間の作業時間削減に相当する(PTCジャパンの独自調査に基づく分析結果)

 主体業務と付帯業務に正しく分類し、業務の流れを細分化し、毎日の設計作業で、いつどこで誰が何をやっているのか、皆さんもどうか一度調べてみてください。設計業務を、もっとダイエットしましょう。それが、リーン製品開発です。

 過去10年以上、設計業務のダイエットについて、社内で真剣に議論したことがなかったという企業が本当に多いのです。皆さんの職場ではどうですか。設計プロセスにどろどろ血が滞留している部分はありませんか。作成したのに何にも活用されず、皮下脂肪化してしまっているムダな資料はありませんか。メタボリックになっているのに、まだその作業と成果物を作る必要がありますか。

 一般に、設計においても業務の80%はルーチンワークだといいます。そのルーチンワークをダイエットするにはどうしたらいいか、一緒に考えていきませんか。皮下脂肪をしっかり取り除いて、リバウンドしないようにするには、やはり2〜3年はかかります。ですから、とにかくいまからでも少しずつ、製品開発のリーン化の検討を開始することをお勧めします。

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