「2つの勘違い」は工程のバランス追求が発生源利益創出! TOCの基本を学ぶ(4)(1/3 ページ)

モノづくり企業が継続的に利益を創出することを“ゴール”に定め、具体的な方法論を提供するTOC(制約条件の理論)について、初学者向けに基本的な思想、用語、理論などをコンパクトに解説する。

» 2008年03月19日 00時00分 公開

 前回「工場の混乱を壊滅的に拡大させる『3つのサバ』」では、工場の能力を奪う「サバ」についてお話ししました。欠品や納期遅れは能力が足りないから起きるのではなく、要らないものを作ることによって、せっかくの生産能力が奪われる結果発生する、ということが理解いただけたでしょうか。私の経験からいえば、これらの混乱に力ずくで対処すると、工場の能力は少なくとも10%、納期が非常に厳しい環境では30%以上も損なわれているのです。TOCを上手に活用すれば、高い納期順守率を手に入れ、なおかつ15〜30%程度の生産能力向上を得ることも決して夢ではないのです。

 「ならばどうすればいいんだ? 早く結論をいってくれ!」というご意見もあるかと思いますが、残念ながら「2つの勘違い」と「3つのサバ」はいっぺんには解決できません。ものには順序があります。今回は2つの勘違いを修正して、短いリードタイムと高い生産性で工場を運営する「ドラム・バッファー・ロープ」の仕組みと構築方法について、次回は低い在庫レベルで高い納期順守率を実現する「TOC在庫補充方式」について説明します。

⇒本連載の目次はこちら

ラインバランスを追求するのは勘違い

 これまでの工場管理では、全工程の能力バランスを追求し、各工程の能力を等しくすることが最適な解を求める近道である、とされてきました。誰もが忙しく働けばよい、すなわち各工程の稼働率をどうすれば限りなく100%に近づけられるかを考えてきたのです。しかし、多くの異なった品種が混流生産される今日の生産環境では、ラインバランスを実現させることは極めて非現実的な選択です。しかし、これまで私たちはこの「アンバランス」こそが納期を遅れさせる原因だと考えてきましたが、この考え違いが大きな損失をもたらしているのです。

 小説「ザ・ゴール」で説明されているゲームを例にして説明してみましょう。少年たちが昼食のときに行った、サイコロ(ダイス)を順番に振ってマッチ棒を移動させるゲームを思い出してください。ゲームは5人で行われ、それぞれが順番にサイコロを振り、目の数だけ隣のボウルにマッチ棒を移動します(図1)。

図1 ダイスゲームによる生産活動のシミュレーション 図1 ダイスゲームによる生産活動のシミュレーション

ゲームの前提条件

  1. サイコロの目は1〜6の間で変動する。回数を重ねれば出目の平均は3.5に限りなく近づく。
  2. 移動できるマッチの数は、ボウルの中にあるマッチの数まで(多い目が出てもムダになる)。

10ラウンド終わったときに、出来上がりの数はいくつになるか? 3.5になるか?


 5人がサイコロを振り、完了品置き場まで移動できたマッチの棒の数が、工程から生み出される完成品(スループット)です。しかし出た目の数がマッチ棒の数より多くても、ボウル内のマッチ棒の数以上は移動できません。また全員が順番にサイコロを振り、1ラウンドが終わったときに、ボウルの中にはまだいくつかのマッチ棒が仕掛かりとして残っているかもしれませんが、そのまま残して次のラウンドに進みます。

 このゲームは工場の生産活動をシミュレーションしたものですから、実際の工場と同じように、工程には能力があっても(サイコロの目が大きくても)作業すべき仕掛かり(マッチ棒)がなければ作業はできませんし、工程に残った仕掛かりをリセットして生産を始めることもできないからなのです。

 最終的に10ラウンド繰り返したときに、投入数とアウトプットはどれだけになり、工程内にはどれだけ仕掛かり在庫(マッチ棒)が残っているでしょうか。

 このゲームは、ラインバランスをモデル化したものです。各人が振るサイコロの出目は、1から6まで均等に変化しますから、その能力の平均は全員等しく3.5となり、能力バランスは取れているのです。

(1+2+3+4+5+6)÷6=3.5

 では今度は全体で見たらどうなるでしょうか。平均能力が3.5といってもサイコロの目は毎回変化します。そう考えるとアウトプットも毎回変化すると考えられます。最良のシナリオは、全員が頑張って6の目を出し続けることです。そうすると1回当たり6本のマッチ棒がアウトプットされます。また最悪のシナリオは全員が1を出し続けることですが、どちらも現実にはほとんどあり得ないことは容易に理解できます。果たして10ラウンド繰り返すと、完成品置き場には何本のマッチ棒がアウトプットされたでしょうか。平均能力で考えれば、

3.5×10=35

となり、35本の完成品ができていなければなりません。

 実際にやってみるとよく分かりますが、ほとんどの場合20〜25本程度しかアウトプットされません。これが第2回「在庫がたまり納期が遅れる理由〜『2つの勘違い』」で説明したラインバランスにおける「遅れだけの伝播」なのです。このモデルでは単純化され過ぎて、実際の工場とは違うと感じるかもしれません。しかし、このゲームから分かることは、それぞれの工程に生産の揺らぎがある限り、ラインバランスを追求すればするほど遅れと混乱は加速するということなのです。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.