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» 2008年03月21日 00時00分 公開

組み込み業界今昔モノがたり(6):技術伝承の現状とモノづくり大国ニッポンの明日 (2/2)

[吉田育代,@IT MONOist]
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組み込みほど日本人に向いた仕事はない、放り出すのはもったいない……

 一方で、“もう明日はなくてもいい”という極論的な考え方もある。今日はアジア諸国の台頭があり、仮に日本が作らなくなってもほかの国々でいくらでも作ってくれる。それも日本が作るのと同レベルのものができるようになってきた。ならば、もうそれでいいではないか。日本は別の世界に生きる道を見いだせばいい

 しかし、中根さんは首を横に振る。「組み込みの世界は日本に合っている。放り出してしまうのはあまりにももったいない」というのがその論である。なぜ合っているといえるのか? それは“日本人の国民性に起因する”という。

 「日本人は、突飛(とっぴ)なものとか、すごく個性の強いものを生み出すのは苦手です。イタリアの車や家具のデザインなどを見ると、あれを日本人が思い付くのは難しいなと思います。しかし、まじめだから地味な仕事をコツコツやるのには向いています。それはアジア全体を見渡しても、日本人が一番だと思います。粘り強く、しつこく仕事ができる。知恵を出すこともできる。そうしたことを考え合わせると、日本はまだまだ組み込みの世界で強みを発揮し続けることができるのではないかと思いますね」(中根氏)。日本人特有のコミュニケーションをあいまいにする性質がモノづくりを複雑化させる危険性がある半面、まじめでコツコツ仕事ができる国民性がモノづくりに向いているというのだから、面白いではないか。

 私も、この中根さんの指摘で1つ思い出したことがある。それは、“日本人は合格基準点を100%に設定する傾向がある”ということだ。どこの国とはいえないが、海外では合格基準点を設定するというとき、パーフェクトといえる状態の70%ぐらいにそれを置くという。レベルがそこまで達すれば、それ以上のレベルに引き上げるような努力はもうしない。あくまで70%がゴールなのである。しかし、日本人は違う。目指すのはあくまで100%だ。結果として100%には達しないかもしれないが、決して“これでいい”と満足することをよしとしない。製造業におけるカイゼン活動などというのは、まさにその象徴といえるだろう。

 「そして」と中根さんはさらに付け加えた。「日本人には農耕民族としてのDNAがあるから」と。日本人は伝統的に米を作って生きてきた。米は1人では作れない。チームを組んでともに助け合い、それで長い工程を乗り切って確かな収穫を得る。中根さんによれば、ある一定のレベルのものを組織的に作るということに、これほど向いた国民はないのだそうだ。モノづくりができる、それもいいものが作れる人種や国民はほかにもあるが、個人主義やスタンドプレーに走りがちで、自らを押し殺して組織を優先させるという考え方が根付かないという。

万能でなくてもいい。強みを再確認してプライドを取り戻そう

 年度末ということがあるのかもしれないが、このところ、製造業の事業再編関連のニュースが続いている。三洋電機は携帯端末事業を京セラに売却することを決定し、三菱電機も同じく携帯端末事業から完全撤退することを決定した。理由は、低収益部門を閉じ、経営資源をより収益力の高い部門に集中するためであるという。一方、パイオニアは、プラズマディスプレイパネル事業について今後の事業規模でコスト競争力を維持することは難しいと判断、次期新製品に搭載するパネルで自社生産を終了することを決定した。これにより、今後は設備投資型の垂直統合ビジネスモデルから、付加価値提案型のビジネスモデルへ転換していくという。

 こうしたニュースは、“万能であろうとすることをもうやめます”というメーカーの宣言と受け止めることができ、モノづくりの品質を維持するうえで歓迎すべき判断なのではないかと思う。

フリー・アーキテクト 中根隆康氏

 「脇目も振らず走り続けるだけが、拡大し続けるだけが生き方ではない。一度立ち止まってもいい、しばらくは歩いてもいいから、自社とは何者か、何を強みとして生きていくべきか、じっくり考え抜いたうえで、長期的視野に立って前進していってもいいのではないだろうか

 「かつて私たちにはプライドがありました。そのプライドはどこかに消えてしまったわけではありません。忙しさに取り紛れて、ちょっと忘れてしまっただけです。日本には、日本人にしか作れないモノがあります。それは確かです。それをいまこそ思い出して、再び“モノづくりの日本”を世界に誇りたい。それがいまの私の夢であり、目標ですね

 中根さんは力を込めてインタビューをこう結んだ。



 本連載は今回で最終回を迎える。これまでの内容を見てお分かりのとおり、モノづくり大国ニッポンと呼ばれた栄光の時代を駆け抜け、いまなお組み込み業界で生きている中根さんならではのメッセージが数多く込められている。「昔はこうだったのに」「若手が育たない」「時間がない」などと嘆く前に、その原因は何かを再認識することから始めてはどうだろうか。そして、しっかりと地に足を着けて“いま自分たちで自信を持ってできることは何か?”をぜひ現場で話し合ってみてほしい。その積み重ねこそが、日本の組み込み業界をかつての栄光へと導く一番の近道と信じて。(連載完)


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