まだ自己流の「勘・経験・度胸」を振り回す気?失われた現場改善力を再生させるヒント(3)(2/2 ページ)

» 2008年03月28日 00時00分 公開
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問題解決アプローチの“定石”を覚えよう

 「いざ改善リーダーに任命されて現場改善活動に当たることになったものの、どうやって取り組めばいいものか」、そんな悩みに直面したあなたには、まず問題解決の“定石”、つまり典型的なアプローチ方法の体得をお勧めします。難しく考える必要はまったくありませんが、いままでの自分流の進め方から脱却する必要があるかもしれません。

 これまで皆さんは、日常業務の問題解決にどのようなアプローチを使ってきましたか。前回の診断結果で「タイプX」に分類された方の中には、「勘、経験、度胸」(注3)や「勘、コツ、経験」(注4)頼みという方もいるのではないでしょうか。


注3:勘、経験、度胸 頭文字を取ってKKDともいう。
注4:勘、コツ、経験 頭文字を取ってKKKともいう。


 経験則を否定するつもりは毛頭ありませんが、経験則だけに頼り過ぎた思い込みは禁物です。まして根本原因を差し置いた対症療法だけの「もぐらたたき」では、いつまでたっても問題は解決しません(図1上)。

 時間や人手に余裕がない中で、じっくりと原因究明に取り組むのは難しい相談かもしれません。しかし現場の問題に対しておざなりに対処することは、結果としてお客さまのためにも、会社のためにも、自分たちのためにもなりません。昨今メディアをにぎわしている企業不祥事も、その多くは燃え広がる前に現場でしっかりと対応できたはずです。目前の問題が、もしかすると自分の職場を失うほどの不祥事に発展するリスクがあるかもしれません。

 では、現場の問題にはどのように対応したらよいのでしょうか? その答えは、問題解決の「スモールステップ化」です(図1下)。問題解決の定石では、解決策にすぐ飛び付くのではなく、決められたステップに従って段階的に進めていきます。少しでも登りやすいようにステップを小さく刻んでおくことにより、確実に手戻りを防ぐことができ、たとえ戻るにしても1ステップだけ戻れば済むことが大きな利点となります。こうすれば成功か失敗の二者択一である「もぐらたたき」手法と比べて、はるかに安全に進められます。

図1 もぐらたたき的な問題解決からスモールステップ化へ 図1 もぐらたたき的な問題解決からスモールステップ化へ(© GENEX Partners)

 さらに生産現場の問題解決に向けたアプローチは、大きく2つあります(図2)。ここで改善の対象となる作業や品質の「ムダ」と「バラツキ」は、いずれも「もうかるモノづくり」を阻害するものです。“もうかる”という表現は露骨に聞こえるかもしれませんが、皆さんが汗水たらして捻出(ねんしゅつ)したもうけを「ムダ」と「バラツキ」が食いつぶしているといっても過言ではありません。せっかくのコストダウンや品質向上の努力がいつの間にか消滅してしまうのです。

図2 問題解決の2つのアプローチ 図2 問題解決の2つのアプローチ(© GENEX Partners)

 なぜモノづくりの現場で「ムダ」や「バラツキ」が発生するのでしょうか? その理由を単刀直入にいえば、“安易”で“安直”な作業意識に起因します。

 現場では誰しも安全で楽に作業を進めたいと考えますが、それはやすきに流れる「安易安直」とは違います。ムダ削減の手法として一般的なIE(注5)では「動作経済の原則」(注6)という思想が提唱されています。そこでは「身体使用において楽な作業は経済的である」と明記されています。つまり合理的な作業は、本来“安全で楽な”動作に基づくのです。


注5:IE(インダストリアル・エンジニアリング:Industrial Engineeringの頭文字)。 20世紀初頭から提唱されてきた作業の「ムリ・ムダ・ムラ」をなくす科学的管理手法の1つ。
注6:動作経済の原則  生産作業を「動作方法の原則」「作業場所の原則」「治工具および機械の原則」という3つの側面での経済的な観点で提唱している。


 例えば、作業バッファのつもりでライン内に持っている仕掛かり品の適正な数量はどうやって求めたらよいのでしょうか。あるいは、合格基準の厳しい製品検査では、どこが厳密な合格判定基準になるのでしょうか。いずれの場合も、極端にやり過ぎるとムダが多くなり、何も考えず安易に行ってもムダやクレームが増える原因となってしまいます。もうけを最大化するためには、こうしたバランスをどう導くのかが、まさに現場が直面する課題となります。

 皆さんがこれらの問題をうまく解決していくためにも、ぜひ“定石”アプローチを習得してください。目を付けるべき「ムダ」や「バラツキ」とは何か、その悪さ加減をどのように見える化し、減らしてしていくのか。ある程度のアプローチパターンを理解したら、後は実際に自分たちでやってみることが一番です。失敗してもやり直せばいいし、必ず何かを学べるのですから、楽しむつもりで挑戦してみましょう。

 次回以降は、現場改善力を基礎から身に付けるために、具体的な問題解決のステップとアプローチをご紹介していきます。


筆者紹介

眞木和俊(まき かずとし)

株式会社ジェネックスパートナーズ
代表パートナー

GEでシックスシグマによる全社業務改革運動に、改革リーダーのブラックベルトとして参加後、経営コンサルタントに転身。2002年11月ジェネックスパートナーズを設立。日本企業再生を目指して企業変革活動の支援を推進している。著書に『図解コレならわかるシックスシグマ』(ダイヤモンド社)、『これまでのシックスシグマは忘れなさい』(ダイヤモンド社)などがあり、中国、韓国、台湾などでも翻訳出版されている。

 ジェネックスパートナーズ
お客さまとともに考え、ともに行動するパートナーとしての視点から「成果を創出できるマネジメント手法の導入」および「人材を競争力の源泉にするためのリーダー育成支援」を行うプロフェッショナルファーム。国内外を問わず幅広い企業、公共団体に対して、数多くの企業変革、人材教育の実績を持つ。



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