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» 2008年03月28日 00時00分 公開

製作不可能なステキ意匠を機構に押し付けないで龍菜の3次元CAD活用相談室(4)(1/3 ページ)

デザイナーが伝えてくる抽象的な表現やスケッチを設計形状へ具体的に反映するのが機構設計者の仕事だが、これが結構面倒くさい

[西川@龍菜,@IT MONOist]

 2人がその席に着いてから、喫茶店内にいた人々の姿もすっかり入れ替わり、壁際のテーブルだけが別の時間に支配されているかのようだ。

 頭を使う会話のせいか、脳が糖分を要求するみたいだ。デジタルカメラメーカーの設計アシスタント ゆみさんは、運ばれてきたケーキのひと切れを紅茶で流し込みながら、「デザイナー“さん”の気持ちが分からないです」とつぶやいた。

デザイナー“さん”の仕事

 デザイナー“さん”だって? 職業を「さん」付けで呼ぶのは別段おかしなことではないけれど、彼女の口調からは上位のデザイナー“さん”と下位の設計者、みたいな違和感を覚えた。

龍菜「どうしてそんな表現をするの?」

ゆみ「ついつい……。うちの会社では、なぜだかデザイナー“さん”なんですよ」

龍菜「つい呼んでしまうの?」

ゆみ「製造とか資材は呼び捨てなんですが、なぜでしょうね」

龍菜「さて、そのデザイナー“さん”はどういう仕事をしているのかい?」

ゆみ「デジタルカメラ本体の形や意匠を決めています。私たちの設計部門では、その中身となる機構を詰め込みます」

龍菜「じゃ、ステキな形や意匠を設計しているわけだ」

ゆみ「デザインも『設計』なんですか?」

龍菜「そうだよ。『デザイン(Design)』という言葉を造形することだけに結び付けてしまいがちだけど、それは“かなり狭い意味”でのデザインだ」

ゆみ「まあ確かに、そうなんですが……」

 チョイと消化不良のゆみさんに構わず、開発のプロセスという視点からデザインを説明することにしよう。

龍菜「新しいデジタルカメラを開発する場合を考えてみようか。まずは企画コンセプトを決めるところからね」

ゆみ「私たちが細かな設計作業を始めるころには、すでに『雲の上で決まっている』って感じですが」

龍菜「うん。大きな会社だと開発目的ともいうべきコンセプトを決めるのは設計部門とは別になっている場合が多いから」

ゆみ「うちの場合は、商品企画部門がコンセプトを決めています」

龍菜「設計者が目にするのは、コンセプトの実現に必要な機能ごとに詳細な目標値を列挙した『設計仕様書』というやつだな」

ゆみ「でも、数値の羅列ばかりで意味が理解できない個所もあります」

龍菜「設計仕様書の書き方が良くないんだろうね。決定した数値の理由が書いていなかったら理解できないと思うよ」

ゆみ「そうなんです。誰かに聞いても、商品企画“さん”が決めた仕様だからとか、デザイナー“さん”が決めた形状だからとか」

龍菜「ははあ! そこで“さん”が出てきたわけや。どうも、嫌味な響きを感じるなぁ」

ゆみ「だって、中身の機構とか構造とかを無視したデザインスケッチや意匠指示図面だけを描いて『ハイ、後はよろしくネッ!』って感じなんですもの」

龍菜「実際には、指示どおりに造形できないものも多いでしょう。3次元CADを使っていれば、なおさら2次元の意匠指示図面との矛盾が分かるよね?」

ゆみ「そうだからといって、形状の変更を“お願い”しても、分かってくれない頑固なデザイナー“さん”も多いんですよ!」

龍菜「『シャッターボタン周りはもっと滑らかにぼかした方がいい』とか、『グリップの部分をもう少し優しい感じに変更して』とか、しかもかなり設計が進んでしまってから変更を強要されたりとか?」

ゆみ「そうそう。よくご存じで」

龍菜「製品のコンセプトが決まったら、『まずデザインスケッチを描いて具現化してみる』という手順が多いと思うんだけど」

ゆみ「うちでも、まずはデザイン、デザインって叫んでいますね」

龍菜「そのせいか、『デザインがコンセプトを決める』と勘違いしているようなところもあると思うよ」

ゆみ「先ほど、デザインも設計だといわれましたが?」

龍菜「素敵な形や意匠にも『仕様』という目標値があるということなんだよ」

ゆみ「仕様を目標に設計するという意味では同じですね」

龍菜「例えば『女性向けのデジタルカメラ』というコンセプトがあったとしよう」

ゆみ「龍菜さん、いまどきそんなの古っ! 女性でも男性でも良い商品は良いんだから」

龍菜「コリャ厳しい! まあまあ、仮定の話やから……」

ゆみ「許してあげますから、続きをお願いします」

龍菜「コンセプトは目的だから、実際に設計するための具体的な目標が必要だね。例えば、シャツの胸ポケットに入れても違和感のない大きさや重さにしなければならない、故に『外形寸法は ○○mm×○○mm×○○mm、質量 ○○g とするべきである』とか」

ゆみ「化粧ポーチに入れることを想定したら、レンズも汚れないようにしてほしいです」

龍菜「それなら『あらゆる方向に○○N(ニュートン)の力が加わってもレンズが露出しないこと』みたいな目標値も必要だ」

ゆみ「そういう仕様って、形や意匠のデザインにも関係するし、構造や機構設計にも関係しますね」

龍菜「そういうことをすべて解決し、具現化していく作業がデザインだね。だから、ゆみさんも『デザイナー“さん”』なんだ」

ゆみ「はいー」

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