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» 2008年03月31日 00時00分 公開

アナログ感覚の数値化が肝心な自転車のメカ隣のメカ設計事情レポート(1)(3/3 ページ)

[斉藤円華,@IT MONOist]
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バイオメカニクス解析

 中西氏はアンカー・ラボの技術責任者として、バイオメカニクスを駆使して選手の動きを分析する。

 研究室には自転車用ローラーや、ぺダリング時のトルク分布や脚の動きを解析する装置や各種機材などが所狭しと並ぶ。変わったところでは背骨の骨格模型なども置いてある(体の動きを具体的に伝えるためのもの)。

 「自転車メーカーでバイオメカニクスに取り組んでいるのは、国内では(ブリヂストンサイクルが)ほぼ随一のはず」と中西氏はいう。

 自転車用ローラーではこう配を20%まで設定でき、選手への負荷量を変化させながら酸素消費量を計測することが可能だ。

 また、ペダリング解析時には4方向から赤外線による高速度カメラで撮影した画像をPC上で3次元画像として合成して処理する。これによって選手のペダリングの癖などを数値として定量的に把握することが可能となる。「ペダルを踏み込む時間が短い場合は短時間に大きな力で踏む場合が多く、われわれは『切れのある』ペダリングと呼んでいる。そういう選手の『脚質』を見極める上でも、こうした解析は有効」と中西氏はいう。

3次元動画計測ソフト「Move-tr/3D」の画面:選手の関節に取り付けた発光塗料付きの球を高速度カメラがキャプチャーし、解析ソフトへ送る

 しかし選手をよく知るためにはさらに踏み込んで、レースや合宿に同行してレース運びを観察したり現場で話をしたりすることが欠かせないという。それにしても、選手が発する自転車への要求はどこまで解析できているのだろうか?

 「まだまだ選手のフィーリングに頼る面が大きい。解析し数値化できているのは、全体の半分程度だ。選手の言葉を数値へと翻訳する作業はいまだ途上にあるというのが実情」(中西氏)。

 やはり選手の感覚の方が敏感である。ひずみゲージを張るより選手に聞いた方が早いときもある。「声を拾う作業はこれからもなくならない」と中西氏はいう。また磯田氏も「例えばイタリアは日本以上に自転車競技が盛んだが、どんなにデジタル技術で解析しても『最後は人』という傾向が強いようだ。最後に自分(開発者)が乗ってからでないと量産GOのOKを出さないとか」と話した。

 それでもバイオメカニクス解析や数値の規格化を重視するのは、技術の次代継承という意味もある。「経験と勘だけではどうしても限界がある。そうした領域を最終的には数値化・標準化して目に見える形で残すのが私の役目」と中西氏は話した。

 自転車は部品点数も少なく、構造もシンプルだ。しかし……いや、だからこそというべきか、人間がエンジンの機械だけにそこには奥深い設計と解析の世界が広がっているようだ。

 「アメリカやヨーロッパの方が日本より自転車文化が進んでいる。日本でも『ツール・ド・フランス』のような競技が盛んになれば、開発にさらに費用を掛けられるだろう」というのは、中西氏と磯田氏の一致した意見だ。チーム ブリヂストン・アンカーの監督や選手もそれは同じ考えだろう。

ペダリングの分析について説明する中西氏

 最近は自転車、わけてもスポーツサイクルと呼ばれる自転車が人気だ。健康に良いうえにCO2削減にも貢献する自転車は今どきのトレンドなのである。中でも特に人気なのが、タイヤが細く、スピードの出るロードバイクだ。アマチュアレーサーとして競技を楽しむだけでなく、散歩やツーリング、果ては自転車通勤に使う人もいる。婦人用自転車やマウンテンバイクとは異次元の軽さと加速感が、新鮮な驚きをもって受け入れられている。

 現在の自転車ブームが一過性のものでなく「文化」として根付いてほしい、と自転車好きの1人として願わずにはいられない。

Profile

斉藤円華(さいとう まどか)

1973年生まれ。旧車、自転車に強いライター。現在Webサイト「エンスーの杜」で連載コーナーを持つほか、「東京IT新聞」「バイシクルナビ」「サイクルスポーツ」「オールドタイマー」などで執筆中。



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