カーエレの発展に欠かせない“5つのエポック”知っておきたいカーエレクトロニクス基礎(2)(1/4 ページ)

カーエレは一日にして成らず。真空管カーラジオから始まったカーエレクトロニクスの歴史をひも解き、その発展の道のりを紹介。

» 2008年04月25日 00時00分 公開
[河合寿(元 デンソー) (株)ワールドテック,@IT MONOist]

 『温故知新』という言葉があるように、事柄を深く理解するためにはその事柄の歴史を学ぶことが重要です。

 そこで、今回はカーエレクトロニクスの理解をより深めるために「カーエレクトロニクスの道のり」、つまりカーエレクトロニクスの発展の歴史について解説していこうと思います。

 ガソリン自動車が世に誕生した当初、電気系統といえば“点火装置”のみでしたが、その後ヘッドライトやスタータモータなどの“電気装置”が登場し、自動車に搭載されるようになりました。そしてさらに時が流れ、1930年代に入ると“真空管のカーラジオ”が登場するわけですが、実はこの真空管のカーラジオこそが、自動車における“最初のエレクトロニクス化”といわれています。

 こうして、最初のカーエレクトロニクスという称号を得た真空管のカーラジオですが、真空管は振動に弱い、設置に大きなスペースが必要、電力消費も大きい、などの理由から自動車に搭載するにはあまりにも不向きなものと判断され、実はあまり普及しませんでした……。このように真空管のカーラジオは残念な結果に終わりましたが、それ以降、自動車のエレクトロニクス化に必要不可欠な“真空管のようにアクティブに動作する固体素子”の登場が当時の自動車メーカーから強く望まれるようになりました。

 ここで挙げた「真空管のカーラジオの登場」のように、カーエレクトロニクスの発展にはいくつかの“エポック(起点となる出来事)”が存在すると筆者は考えます。以降では、筆者が考えるカーエレクトロニクスの発展に欠かせないエポックについて紹介することにします。

第1のエポック 〜トランジスタの出現〜

 筆者が考える第1のエポックは「トランジスタ(Transistor)の出現」です。

 トランジスタが世に公表されたのは1948年のこと。米国ベル研究所のウィリアム・ショックレー(William Bradford Shockley)氏らによって発明されました。当時はまだ真空管が全盛で、“電子は真空の中だけしか制御できない”と考えられていましたが、ショックレーらは「固体の中の電子も制御できますよ」と発表したものですから、当時の人たちは大変“ショック(レー)”を受けました(くだらない冗談ですみません……)。ちなみに、トランジスタの名称は「Transfer Resistor」の略称から名付けられました。また、当初発明されたトランジスタは“ゲルマニウムトランジスタ”と呼ばれるものでした。

 前述したとおり、当時はまだ真空管がバリバリの現役で、1950年代まで使用され続けました。戦前の真空管は、単一乾電池2個分ほどの大きさでしたが、その後、改良されて“MT管(ミニチュア管)”と呼ばれる単3乾電池より1回り大きな真空管も登場しました。ちなみに、筆者が小学生だったころ、寝る前に兄が製作した真空管ラジオをよく聴いていました。スイッチを入れると真っ暗な部屋に真空管のほのかな灯りがともり、何ともいえない神秘的な気持ちになったことをいまでも鮮明に覚えています。

関連リンク:
真空管 - Wikipedia

 この神秘的で心温まる真空管ですが、いざこれを自動車に搭載するとなると、前述(真空管のカーラジオの例)のとおりいろいろな問題点が浮き彫りになりました。ここでは、その問題点についてもう少し詳しく説明することにします。

 まずは、“消費電力”の問題です。真空管は真空中に電子を放射しますが、電子を放射するためにはヒータ(傍熱型陰極をいう。ちなみに、直熱型陰極はフィラメントという)が必要となります(注)。このヒータの消費電力ですが、ヒータ自身(電圧6.3V、電流1.2〜1.5A)の電力(約8W)に加えて、制御するための電力も必要としますので、真空管1本でもかなりの消費電力となりますし、当然、発熱もします。

※注:真空管には、熱電子を放射する陰極にタングステン線を使用しただけの「直熱形陰極(フィラメント)」とニッケルの表面に酸化バリウムや酸化ストロンチウムを塗布した金属製で筒状(カソードでフィラメントを覆ったもの)の「傍熱型陰極(ヒータ)」の2種類がある。なお、近年の真空管のほとんどは“ヒータ”である。


 次に、“寿命”と“サイズ”の問題です。ヒータは電灯のフィラメントと同様に寿命があります。さらには、陽極(プレート)の寿命や真空中に不純物が混入して特性が劣化したりしますので、真空管はおよそ1000〜2000時間くらいの寿命といわれています。真空管に寿命があるとなると当然、交換が必要になります。メンテナンス性を考えると交換しやすいようにソケットも必要……。こうして、あれやこれやと自動車の制御回路としてまとめ上げてみると相当な大きさになってしまい、とても自動車には搭載できません。

 そこで登場したのが、トランジスタです。

 トランジスタは小さくて(外径10mm以下、高さ10mm以下)、ヒータやソケットが不要で、真空管のような動作が可能です。「これでラジオだけでなく、制御回路としても自動車に使えるぞ!」と当時の技術屋さんは大いに喜びました。当初発売されていたゲルマニウムトランジスタは高周波特性が悪く、低周波増幅にしか使えないと考えられていましたが、これを日本の半導体メーカーが改良したことにより、ラジオでも使えるようになったのです。そして、1955年には“ゲルマニウムトランジスタによるカーラジオ”が登場しました。

 筆者がこの「トランジスタの出現」を第1エポックとしたのは、ゲルマニウム半導体が固体素子としての立場を確立したからです。また、半導体素子を改良していけば、いつかは自動車にも使用できる!? という夢を当時の技術者たちに与えたことも大きなポイントです。

 しかし、自動車の機構部品(車を動かす部品)にゲルマニウムトランジスタを使うにはまだ問題がありました。その一番の問題というのは“温度”です。ゲルマニウム半導体は、周囲温度が60℃以上になると動作が狂ってしまうのです……。(第2のエポックへ)


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