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» 2008年06月17日 14時32分 UPDATE

PLMは“勝ち組”製造業になる切り札か(3):日本型モノづくりの復活はiPhoneに学べ! (3/3)

[北山一真/ネクステック株式会社,@IT MONOist]
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タタ自動車の「ナノ」は、低価格自動車? 高級二輪車? 〜多国籍企業とグローバル企業の違い〜

 最後にもう1つ述べておきたいのは、グローバル市場への適応だ。インドのタタ自動車が発表した10万ルピー(日本円で約28万円)の低価格自動車「ナノ」のことをご存じだろうか。芝刈り機に毛の生えた程度の30馬力しかなく、左のドアミラーやエアコンも付いていない。安全性でも側面衝突基準はクリアしていない。日本人からするとナノはあり得ないほど低仕様の「低価格自動車」だ。

 だが、これを自動車ではなく「高級二輪車」と思えばどうだろうか。インドでは、1台の二輪車に家族4人が無理に乗車している光景を目にするという。雨に濡れず安全に移動できる、二輪車よりも高級な乗り物として、ナノは現地では評価されているのである。

 任天堂の「Wii Fit」も同じだ。技術的にはシンプルな機能しかないゲーム機だが、自宅で気軽にできるフィットネスマシーンととらえるなら、とても便利で十分な機能を備えた製品に感じられる。

 開発者は、製品を既存の位置付けでとらえて、より高度な技術を使い、高い機能を付加しようとしがちだ。だが、売れる製品を企画したいならば、あらためてユーザーに求められているものは何かを、国民性や生活スタイルをも考慮し、確認する必要がある。

 BRIC'sと呼ばれる新興国の中でも、特に急成長している中国とインドの違いを語れる人はどのくらいいるだろうか。中国とインドはともに人口が10億人を超す大国であるが、生活スタイルはまったく異なる。

 中国には、著名な一人っ子政策があり、都市部では一人暮らしの人が多い。また、大きな車を好む国民性があり、大型セダンやクーペが人気となる。アメリカ市場とよく似ているため、北米市場への依存度が高い日本の自動車メーカーは違和感なく、中国へ進出できるのである。

 逆にインドは、ほとんどの家庭は5人以上の大家族だ。平均年収は日本の10分の1以下でありながら、インドのガソリン価格は日本とあまり変わらない。そのことから燃費効率の良いコンパクトカーが主流となる。つまり欧州市場とよく似ているのだ。そのためか、スズキを除くほとんどの日本自動車メーカーは、インドへの進出が遅れているというのが現状である。

 このように売れる製品、もうかる製品を造るためには、各国の生活スタイルなどを理解することから始める必要がある。今後重要なマーケットになるであろう、南アフリカ・東欧・エジプトなどの国民性・生活スタイルなども、一度調べてみてはどうだろうか。

 各国の国民性について理解をしたうえで、さらにもう1つ、注意しておかなければならないことがある。日本のメーカーには、日本人好みの製品を追求するあまりに必要でない機能までも付加しがちということだ。

 アップルの携帯電話「iPhone」を例に取ろう。日本ではまだ発売されていないから手に取った方は少ないだろうが、iPhoneは電池パックがはんだ付けされており、電池パックを交換するにはメーカー工場に依頼しなければならない。日本メーカーの携帯電話ならば裏蓋があり、販売店で簡単に交換できる。筆者がこの話をすると、多くの人は「そんなの不便だよね。わざわざ預けるの? 不親切!」という。

 しかし、よく考えてみてもらいたい。皆さんの周りに電池パックを交換してまで同じ携帯電話を使い続けている人はどれだけいるだろうか?

 日本人は、仕様や機能が減ることに不満を感じる。実際はほとんど使用しないのに、その機能がなくなること自体を不満に思う消費者も多いだろう。しかしそんな安易な消費者の声を重んじて、電池パックの交換機能をなくすという手法を検討しないのは、メーカーとしてどうだろうか。それの削除を決断できれば、金型やコネクタなどの部品を簡単に削減し、デザインの自由度を上げ、コストを下げられるのである。

 多くの企業では、VOC(ヴォイス・オブ・カスタマー)などで顧客の声を拾う活動はしている。それ自体は良いが、安易な声に振り回されてもいけない。数の多い意見が正しいわけでもない。購入者であっても、そのスペックが真に重要か否かを正しく理解して発言しているとは限らない。使用頻度が低かったり、なくなってもさほどインパクトのない機能は、大胆に捨てる勇気を持つ必要がある。アップルが発売した超薄型ノートパソコン「MacBook Air」にLANポートが付いていないのも同様の判断だろう。

 日本人の好みに合わせて仕様や機能を追加し、多機能化を進めたために陥っているわなはもう1つある。結果として何億円ものコストを掛けた大量ページの「取扱説明書」が必要となることだ。このような現象に陥りがちなのは、世界中でも日本など数カ国だけである。ほとんどの国では、シンプルで分かりやすい製品が好まれる。日本製品をベースに少しカスタマイズした製品を各国で売る(筆者はこれを多国籍企業と呼んでいる)のではなく、各国の国民性や生活スタイルを考慮して製品開発する必要がある。それこそが真のグローバル企業だと思う。

日本型モノづくりで生き残るために

 グローバル化が進み、世界中にライバルがいる環境では、弱い企業が淘汰されていくのは仕方がない。だが、日本の技術や部品は世界中で高く評価されている。優秀な日本の中小企業の技術力なしには生まれなかった製品も多い。そのように愚直にモノづくりをしているにもかかわらず、日本のモノづくり企業が次々と倒産に追い込まれ、匠(たくみ)の技が途絶えている。

 ある家電メーカーのトップが、

家電では、垂直統合モデルは古いのですかね? やっぱり工場を持っていることが弱みなのでしょうか?

と嘆いていた。筆者はそうは思わない。垂直統合を基本とした日本型モノづくりにも優位な部分はある。しかし、ファブレスメーカーは工場や設備を持たない分、純粋に顧客視点に立ってモノを見ているのかもしれない。悔しいが、日本のモノづくり企業は過去の努力やノウハウがしがらみとなってしまっているのだ。日本には素晴らしい技術・コミュニケーション力・改善努力などがある。これにいま一度、顧客視点に立ったモノづくりを取り戻すことで、日本のモノづくりは必ず復活するに違いない。筆者はそう信じている。

◇ ◇ ◇

 スペック・仕様を管理するために最も重要なデータがBOM(Bill of Materials:部品表)となる。BOMはどの企業も必ず整備を行っているが、BOMに対しての理解が足りていないことが多い。BOMは、生産管理・MRP・発注業務のために使うもの、設計から出図される図面に付いている部品リストをデータ化するためのものと考えるのは古い。BOMこそが製品戦略そのものである。

筆者紹介

ネクステック株式会社

ビジネス変革推進部マネジャー 北山一真(きたやま かずま)

IT系のコンサルティング企業にてERP導入プロジェクトを主とした業務改革推進、システム導入などに従事。その後、大手製造業向けコンサルティングファーム、ネクステックに入社。現在、大手グローバル製造業のコストマネジメントの業務とシステム構築に関するプロジェクトに従事。製造業の業務やシステム、モジュール化に関する執筆講演活動にも精力的に取り組んでいる。


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