“空飛ぶブタ”を地上に引きずり降ろして勝利宣言ジレンマ解消! TOC思考プロセスの基本を学ぶ(6)(3/3 ページ)

» 2008年08月25日 00時00分 公開
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アクションツリー(移行ツリー)の作成

 いよいよ最後のツリーです。アクションツリー(移行ツリー)は目的を実現する実行プランを作るためのものです。ある行動を行うことにより中間目的を達成し、次のステップに確実に進むように因果関係を構築していきます(図7)。

 実はTOC思考プロセスでは問題を解決する「行動(アクション)」はこのツリーで初めて登場します。人間は問題があるとすぐに対策を考え行動したくなります。しかしここまででお分かりのように、「こうすればよい」と分かっていてもさまざまな障害や副作用が実際の行動を制約するのです。確実に解決策を実現し、未来を変化させるためには6つの抵抗の階層を1つずつ乗り超える必要があるのです。

図7 アクションツリー 図7 アクションツリー
因果のロジックを使う。もし「行動すれば」、その結果「中間目的」が達成される

 アクションツリーにはいくつかのバリエーションがありますが、ここでは一番簡単な作り方を紹介しましょう。構造はシンプルで、「中間目的」とそれを達成する「行動」の2つのボックスがあるだけです。ロジックは因果のロジックで読んでいきます。「行動」をすると「中間目的」が達成され「行動」をすれば次の「中間目的」が達成される、と読んでいきます(図8)。

図8 完成したアクションツリー 図8 完成したアクションツリー

 解決策を確実に実現するためには、これまでに検討してきたように、計画そのものを精査しなくてはいけません。アクションツリーは取ろうとしているアクションのそれぞれが、実現したい結果をもたらすのに必要かつ十分であり、適切な順序になっていることを確認するツールです。

 最後に各行動の期限・担当を決めればいよいよ離陸準備完了です。それでは、レッツ・テイクオフ! 成功を祈ります。

個別でも使える思考プロセスの各ツリー

 本連載で紹介した思考プロセスのツリーは単独でも、とてもパワフルなツールとして使えます。ツリーの単独での使い方を説明します

現状ツリー

 現状ツリーは、全体の問題構造を相手に説明するだけの目的でも使えます。特に、中核問題が現実の問題の大半を引き起こしていることを見せるには大変有効な方法です。ただし大規模なツリーは作成するのが「面倒くさい」「複雑だ」という気持ちにさせることがあるので、サマリーを別途作成して見せる方が得策です。

「雲:クラウド」

 「雲:クラウド」は最も単独で使う機会が多いツリーです。どのような問題に対しても活用できます。世の中にはさまざまな問題解決手法が存在していますが、それらと比較して雲(クラウド)は次のような強みがあります。

  • 問題が生じている背景を単純な構造で図示できる
  • 双方が満足できるウィン・ウィンとなる解決策を見つけられる

 「雲:クラウド」は、TOCを題材とした小説『ザ・ゴール 2 ― 思考プロセス』の中で“交渉テクニック”として紹介されています。その考え方は、交渉学において強い影響力を持つ米ハーバード大学が開発した原則立脚型交渉の考え方と同じものです。

 原則立脚型交渉とは、合意や勝利ではなく問題の解決を目的とし、双方が満足できるような解決策を見いだす交渉術です。この交渉術の原則の1つに、「立場ではなく利害に焦点を合わせること」があります。ここでいう立場とはそれぞれの表面上の主張であり、利害とはその主張の背後にある要望、ニーズ、期待です。つまり、お互いの主張ではなく、その背後にある要望、ニーズ、期待を満足させるように考えることにより、双方が満足できるような解決策を見いだせるということです。

未来ツリー

 未来ツリーは、あるアイデアが出てきたときに、それを実施する前にどのような問題点があるかを検証するのに使えます。このような問題点を全部出すだけで、それ以外のツリーを使わなくてもアイデアを実行できる場合もあります。

中間目的ツリー

 中間目的ツリーは、目標達成のロードマップを作るためのツリーであると説明しました。例えば、ビジョンを達成するための戦略立案は中間目的ツリーを活用して行えます。達成すべき目標を組織のビジョンとし、そのための障害を洗い出すことで、中間目的、アクションを設定していくのです。

アクションツリー

 アクションツリーは目的を実現する実行プランを作るためのものです。単独で使用する場合は、プロジェクト計画など、全員に目標を達成するためにはどのようなアクションが必要かを伝えるコミュニケーションツールとして使えます。またアクションツリーは、プロジェクト計画を効果的に立案するツールとしても大変有効です。

一歩ずつ進む歩みを止めない(継続的に改善してゆく)

 ここまで読んでいただいて、皆さんは自分で考えジレンマを認識し、解決策を考え、より良い明日をつくる道筋を確かなものにしたはずです。どうでしょうか、確かに今日から変化を実現できそうですか。

 思考プロセスの考え方を理解してみると、人間や組織の抱えるジレンマ(制約条件)を無視して行動を進めることがいかにムダであるかを明確に認識できたと思います。

 真の論理思考とは物事を分析的に見るだけではなく、全体を俯瞰(ふかん)してポイント(制約条件)をつかみ、全体を推論する中で、分析的に考え、物事の筋道を論理的に考える能力なのです。

 TOCの思考ツールは仕事や人生のさまざまな問題解決に大いに役立ちます。自らの変化を自分で納得し、そして自分の周囲の人たちを説得するという極めて質の高いコミュニケーションを実現する大変強力で柔軟な思考ツールなのです。

 しかし、どんな手法も自分の環境に当てはめようとするときには、あくまで道具と割り切って徹底的に使い倒すということをぜひ実践していただきたいのです。TOCの思考ツールは、何度も繰り返し使って慣れることが重要です。慣れてしまえば、この考え方は極めて当たり前であり、人間の思考方法(Thinking Process)そのものであることが分かります。

TOC is common sense, but not common practice.

TOCの考え方は常識なんだけど、常識を実践するのは、ものすごく難しいし、誰もがやっているわけではない。

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 また実践に当たっては、未来ツリーの「プラスのループ」を思い出してください。大切なのは「何度も続けること」です。一歩ずつ歩みながら、好循環に自分を導いていく。継続的に改善し続けることが大切なのです。

 TOC思考プロセスとは、誰もが分かってはいるが実践できずにいたことを可能にする、そんなツールなのです。(連載完、第1回に戻る

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