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» 2008年09月19日 00時00分 公開

いまさら聞けない 赤外線通信入門:iPhoneには赤外線がないけど消えゆく技術なの? (4/4)

[北角権太郎(IrDA 会長/イーグローバレッジ チーフテクノロジスト),@IT MONOist]
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(3)赤外線アプリケーション規格

 すべてのIrDAアプリケーション規格を挙げるとなると紙幅が尽きてしまいますので、ここでは現在使用されている主要なアプリケーション規格について紹介することにします。

IrCOMM(Infrared Communication Entity)規格

 この規格は、赤外線通信上で、RS-232Cやプリンタポートのエミュレーションを行うための規格として作られたものです。簡単にいえば、携帯電話やISDN公衆電話、プリンタに取り付けられた赤外線ポートを利用して、赤外線を意識せずにモデムやプリンタに接続するための環境を提供する機能です。IrCOMMプロトコルは、RS-232Cやプリンタポートにある、複数の信号ピンをそっくりそのままエミュレーションするアプリケーションであるといえます。このプロトコルは、Windows 95に実装された赤外線プリンタ印刷機能とモデム接続のために設計されました。日本の街角で見掛けるグレーの本体に濃いピンク色の帯が目印の公衆電話が、赤外線機能付きのISDN公衆電話の初号機です(最近公衆電話の数も減ってきましたが……)。NTTのICカード対応ISDN公衆電話はすべてIrCOMMに対応しています。

OBEX(Object Exchange)

 OBEXはWindows 98で実装され、赤外線通信によるファイル交換を実現するために規格化されました。その後、IrMC方式の電話帳交換やスケジュール交換機能でも採用されています。また、Bluetoothのオブジェクト交換プロファイルでもOBEXが使用されています。さらに、ドコモのiアプリやauのEzアプリ(BREW)から、OBEXの機能を呼び出すことができるので、赤外線を利用した携帯アプリケーションがいろいろと開発されています。

OBEX通信とその応用 図8 OBEX通信とその応用

 最近では、ヘルスケア製品(体重計や血圧計)などのデータを赤外線で携帯電話に送り、携帯電話から専用のインターネットサイトにそれらのデータを送ると、健康診断結果が携帯電話の液晶画面に表示されるサービスが始まりました。余談ですが、NTTコミュニケーションズは、インターネットサーバから「香り」のデータを携帯電話にダウンロードして赤外線を使用して、「香り」発生器にデータを転送する実験をしています。


IrMC(Infrared Mobile Communication)

 この規格は日本の携帯電話のほとんどに採用されており、赤外線通信機能そのものといってもいいでしょう。IrMCは、以下の3つの機能をサポートします。

  1. OBEXによる携帯電話上のデータ交換機能 
    ・電話帳、予定表、携帯メール(SMS)、そのほか(Note)などの交換
    ・携帯電話の全データのバックアップとリストア機能
    ・携帯電話とPCなどのデータ同期(シンク)機能
  2. IrCOMMによるダイヤルアップ接続機能 
    ・GPRSまたは3Gで規定したダイヤルアップ接続機能
  3. 赤外線通信によるハンズフリー機能
    ・車載クレドールとの音声データ交換と発信・着信制御機能

 このうち、2と3の機能については、Bluetoothにその座を明け渡したものの、Bluetoothの携帯電話に関するプロファイルは、IrMCをベースにしたものになっています。

IrMC対応携帯電話の進化 図9 IrMC対応携帯電話の進化

IrFM(Infrared Financial Management)

 VISAなどが中心となって開発した、クレジット決済用の通信プロトコルです。日本では、FeliCa(フェリカ)が携帯電話に搭載されて「おサイフケータイ」として使用されていますが、お隣韓国では、IrFMが搭載されているATMやPOSレジなどが活躍しています。

IrSimple(Infrared Simple Connection)

 IrDAプロトコルを最適化して、実質の通信速度を物理層の90%以上まで向上したもので、写真データを主としたファイル交換を可能とする通信規格です。

IrBurst(High-speed Information Transmission Profile)

 100Mbpsの転送速度を使用して、音楽データなどを高速に配信する端末向けのコンテンツ配信プロトコルです。音楽データだけではなく、ライナーノートやジャケット写真など、市販されるコンテンツの必要要素のデータを高速かつ確実に転送することができるプロトコルで、IrFMと組み合わせることにより、コンテンツ・デリバリ・キオスクなどの情報課金端末に使用できる通信規格です。

IrUSB(Infrared USB Emulation Entity:仮称)

 GigaIR方式とともに現在IrDAで審議中の通信規格です。高速なIrDA規格を使用して、USBや1394などの高速なワイヤードデータ通信を光無線に置き換えることを目指しています。光無線に置き換えることで、面倒なプラグを不要にし、接点の接触不良をなくし、またモバイル機器の防水やデザイン性の向上を可能とする通信環境を提供します。



 いかがでしたでしょうか? 今回の内容は「赤外線通信技術」を支えるIrDA規格に基づく通信方式について詳しく解説しました(気が付けばかなりのボリュームになってしまいました……)。

 次回は赤外線通信技術最新動向を交えつつ、IrDA規格についてさらに詳しく紹介する予定です。ご期待ください!(後編に続く)

【 筆者紹介 】
北角 権太郎(きたずみ ごんたろう)
IrDA会長/イーグローバレッジ チーフテクノロジスト

オカヤ・システムウェア、リンク・エボリューションの代表取締役、IrDA技術委員会副議長などを歴任。2006年11月IrDA会長、2007年4月イーグローバレッジ チーフテクノロジストに就任し、2008年4月からは早稲田大学大学院 国際情報通信研究科 後期博士課程に入学、現在に至る。著書「赤外線通信プロトコル−IrDA基礎編」「赤外線通信プロトコル−IrDA応用編」(トリケップス)をはじめ、数多くの学会発表や標準化規格開発に携わる。


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