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» 2008年10月16日 11時00分 公開

いまさら聞けない エンジン設計入門(9):「バルブタイミング=0°」とはどういう状態 (2/3)

[カーライフプロデューサー テル,MONOist]

上死点では、どうなっている?

 ここまで説明した中で、何か1つ、気が付いたことはありませんか?

 排気行程と吸気行程との切り替えタイミングである上死点付近の吸気バルブと排気バルブの開閉状態に注目してみてください。

  • 吸気バルブは上死点“前”に開く
  • 排気バルブは上死点“後”に閉じる

 つまり上死点付近だと、吸気バルブと排気バルブの双方が少し開いています。この状態を「バルブオーバーラップ」といいます(以下、「オーバーラップ」とします)。

 オーバーラップには先ほど説明した以外にもさまざまなメリットがあります。例えばピストン下降時では、抵抗の軽減をします。

 「早いタイミングで吸気バルブを開く」とはいっても、バルブが全開状態になるわけではなく、ピストン下降時の抵抗に若干なっていることは否めません。しかしオーバーラップにより排気バルブが少し開いていることで、その抵抗は軽減されています。

 ほかには「残留燃焼ガスの掃気」です。排気行程後のピストン上死点位置では燃焼ガスがまだ残った状態なため、排気バルブを少し開けた状態にしておくことを前ページで説明しました。ただし、燃焼ガス自身が持つ圧力だけで自然に排気されるのを待っている余裕があるほど、ピストンスピードは遅くありません。そこで、上死点後にピストンが下降することで吸気口より新気を入り込ませ、残留している燃焼ガスを追い出す役割(「掃気」、図1)を果たすのです。

掃気 図1 掃気

 オーバーラップによるメリットを全て得ることができれば非常に効率が良いのですが、実際のエンジンは、回転数の変動パターンが複数あるため、なかなか思うようにはいきません。

 例えば低回転域(アイドリングなど)のようにピストンスピードが遅く、かつ吸気圧が低いという条件で、ピストン上死点付近の状態をもう少し詳しく説明します。

 「新気を導入することによって上死点後の残留燃焼ガスを追い出そう」という目的でオーバーラップを設定していたはずが、吸気圧が低いために燃焼ガスの圧力に負けて吸気口へと燃焼ガスが逆流してしまう現象が起こってしまうのです。これだと燃焼時に新鮮な新気だけではなく、一度燃焼している排ガスが混在してしまうので、正常な燃焼ができなくなり燃焼効率が低下します。逆流しなかったとしても、燃焼ガスをしっかりと排気できなければ燃焼効率の低下に結び付くという結果に変わりはありません。つまりエンジンが安定して回転しなくなることで、せっかくエンジン性能向上のために設定したオーバーラップの意味がなく、本末転倒となってしまうのです。

 それを踏まえて、できるだけオーバーラップを狭い状態に設定してみましょう。すると低回転域では燃焼ガスの逆流は起こらないため、エンジンは安定します。しかし高回転域になってくると、今回の冒頭で説明したようなピストン下降時の抵抗や残留燃焼ガスによる燃焼効率の低下などが影響して、高回転での出力を思いのままに引き出すことができません。

 つまり低回転域を優先すれば高回転域が犠牲となり、逆に高回転域を優先すれば低回転域が犠牲になる、といったバルブタイミングの特徴が見えてきます。ちなみに、この双方を両立させる機構が「可変バルブタイミング機構」です。

 これらをまとめると、

  • 低回転域〜中回転域を多用する場合はオーバーラップを狭く設定する。
  • 高回転域を多用する場合(レースなど)はオーバーラップを広く設定する。

 というバルブタイミングにおけるセオリーが成り立つことが分かりますね。

 ただしあくまでこれは一般的な考え方です。エンジンの仕様によっては逆の結果が出てしまう場合もまれにあります。この場合、原因の特定は非常に難しくなります。まあ、このバルブタイミングの問題に限らず、人間が事前に予想できる範囲を超えた現象が起こることは多々ありますから、メカニックを飽きさせませんね(笑)。

では、下死点だと?

 ここまで説明してきた内容では、排気行程から吸気行程へと移行する上死点付近のバルブタイミング(オーバーラップ)に限定しました。上死点付近に限定しても、これほどたくさんの試行錯誤が必要となります。また正反対である下死点付近でも、いろいろと工夫が必要です。

 下死点における工夫にも少しだけ触れておきましょう。まず吸気行程後の吸気バルブの閉じるタイミングですが、下死点後もある期間だけ開いたままにしておき、吸気の慣性を利用することで吸入量が多くなるようにしています。

 ただしピストンは下死点を過ぎた時点で圧縮行程へと移って上昇しているので、吸気バルブが開いている、ということはつまり、吸入した新気を押し戻す方向になっているわけです。高回転域などの吸気慣性力が強いときなら押し戻されることはありませんが、そうでないときはその可能性があります。「どの期間だけ開いたままにしておくか」というのは非常に重要になります。

 次に燃焼行程後の排気バルブの開くタイミングですが、こちらは下死点前に開くことで燃焼ガス自身の圧力で排気口より排出するようにしています。しかし排気効率を優先し、燃焼行程によって取り出された爆発力をピストンへ十分に伝える前に排気バルブを開いてしまうと、燃焼効率が低下します。ここでも「燃焼効率と排気効率とのバランスを考慮した排気バルブを開くタイミング」を十分に検討することが重要になります。

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