ボディ制御と情報通信におけるエレクトロニクス知っておきたいカーエレクトロニクス基礎(8)(3/3 ページ)

» 2008年10月24日 00時00分 公開
[河合寿(元 デンソー) (株)ワールドテック,@IT MONOist]
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カーナビゲーションシステム

 カーナビは、初めて行くような土地でも迷わず目的地に誘導してくれることから、いまや多くの自動車に装着されています(いまさら説明する必要はありませんね)。

 世界初のカーナビ搭載車は1981年にホンダ技研から発売されました(アコードに搭載されたそうです)。透明なプラスチックフィルムに印刷した地図をCRT上に載せ、ジャイロセンサにより車両の進行方向を、車輪回転センサにより走行距離を割り出し、CRT上に現在位置を表示するというものでした。当時はまだ自動車に搭載できるジャイロセンサはほかに存在していなかったのでホンダ技研の発表には驚かされました。しかし、このチャレンジングな取り組みは、走行中に地図を置き換えなければならないという煩雑さから普及には至りませんでした。

 また、車輪速度センサからの信号を積算して距離を出し、ジャイロセンサにより車両のヨーレイト(回転角速度)を出して、それを積算して方位を求め、現在位置を割り出していましたが(この方法を「自律航法」といいます)、誤差も積算されるために位置精度はいま一歩でした。

 こうしたカーナビの技術的な課題を解決したのが、「GPS(Global Positioning System)」、大容量メモリ(CD-ROM)、電子地図です。

 約39万個の3次メッシュ(縦横約1km)で整備されている日本全国の道路走行や道路管理に必要な基本道路地図は電子化され、CD-ROMでほぼ全国の道路地図データが格納できるようになり、よりきめ細やかな地図表示が実現可能になりました。

 GPSは地球から約2万kmの上空にある人工衛星からの電波の到達時間を計測して、人工衛星からの距離を計算して自動車の現在位置を測定するシステムです。GPSは当初、米国の軍事目的で使用されていましたので、送信される電波には一般用と軍事用の情報がそれぞれ含まれていました。また、「SA(Selective Availability:選択利用性)」と呼ばれる精度劣化操作が施されており、一般用の位置精度は約100m程度でした。その後、SAは解除され(2000年5月)、単独測位でも約10mの位置精度が得られるようになりました。

 GPSによる自動車の現在位置の算出は、“3次元の三角測量の原理”により求められます。衛星からは衛星の現在位置とその電波が送信された時刻などの情報が送られてきます。受信側では、送信された時刻を読み、受信した時刻との差を求めることで衛星から受信器までのかかった時間が分かります。この時間に電波速度(約30万km/秒)を乗算することで、自動車から衛星までの距離が求められます。しかし、受信器の時計は衛星の時計ほど正確ではありません。例えば、1μ秒誤差があれば300mもずれてしまいます。誤差をtdとして、自動車の現在位置の座標を(x、y、z)としますと、未知数が4つになりますから、衛星は4つ必要になります。自動車と4つの各衛星との距離とかかった時間から4元連立方程式が成立し、この方程式を解くことで自動車の現在位置(x、y、z)と誤差(td)が求められます。

 以下にカーナビの例を示します(図6)

図6 カーナビゲーションシステム

 近年のカーナビは、GPSにより現在位置を測定する電波(他律)航法と、車輪速センサやジャイロセンサなどにより移動距離および進行方向を検出する自律航法を組み合わせることでさらに精度を高め、DVD-ROMやHDDにより大量の地図データや付近情報が収録可能となり、より高度で便利な表示を実現しています。また、最近では傾斜角センサを搭載することで道路勾配の検出が可能なもの(例えば高速道路から並走する一般道に降りた際の表示不具合が解消される)、視認性やより現在地を把握しやすくするために地図を3D表示にしたもの、渋滞情報を受信して最適経路を算出したりするものまで登場しています。

 今回は、“ボディ制御と情報通信におけるエレクトロニクス”をテーマに、エアコンとメーター、多重通信とカーナビについて解説しました。いかがでしたか? 次回は、「自動車における利便性」「電源系とエレクトロニクス」について紹介する予定です。ご期待ください。(次回に続く)

【参考文献】
(1)「カーエレクトロニクス」 志賀 拡、水谷 集治/山海堂
(2)「自動車の電子システム」 荒井 宏/理工学社
(3)「クラウン新型車解説書・修理書・配線図集」 トヨタ自動車
(4)「セルシオ新型車解説書・修理書・配線図集」 トヨタ自動車
(5)「自動車メカ入門―エンジン編」 GP企画センター/グランプリ出版
(6)「図解 これでわかったGPS―ユビキタス時代の位置情報」 ITS情報通信システム推進会議/森北出版

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