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» 2008年11月06日 00時00分 公開

ボールの運動軌跡が簡単に計算できるの?ピタゴラスイッチの計算書を作ろう(3)(3/4 ページ)

[岩淵 正幸/技術士(機械部門),@IT MONOist]

反発係数

草太「おぉ! やっとΩo,cが出てきた! しかし、衝突直前のボールの速度vB,bは分かっても、衝突直後の速度vB,cが分からへん!」

銀二「どーこーのだーれだーかしーらなーいけーれどー」

草太「なにそれ?」

銀二「月光仮面の主題歌。どこの誰だか知りませんが、反発係数ってやつを考えた人がいてね……。あ、ちなみに月光仮面は私がまだ小さいころに……」

草太「そうや、そうや。反発係数eを使えばいいんや。これは分かるもんね」

図3.8 衝突前後の速度

 分母はゲート衝突面から見た衝突前のボールの衝突方向の速度で、分子はゲートから見た衝突後のボールの跳ね返り方向の速度です。反発係数eというのは、衝突面と垂直方向の速度変化に対して定義しています。

草太「マイナスが付いているのは衝突後には速度が反転するからだ。いずれにせよ、反発係数というのは、衝突前後の衝突物体間の相対速度比だね」

銀二「月光仮面、無視されてもうた(ショボン……)」

草太「(3-29)と(3-31)を整理して書きそろえるよ」

草太「Ωo,cとvB,cの2元連立方程式となり、そしてこの解は?」

草太「やったね! これで衝突直前のボールの速度vB,bから、衝突直後のボールの速度vB,cとゲートの角速度Ωo,cが計算できる! じゃあ、早速衝突直後の速度を求めてみようか」

条件

  • ゲートの材質→ポリカーボネート製。質量は8.5g
  • ヒートンの質量は1個0.9g
  • ゲートとヒートン2個の合計は、mG 。つまり、mG=10.3 g
  • 寸法は高さH=42mm、厚さt=4mm


草太「まず、幅方向を回転軸とした矩形物であるゲートの重心周りの慣性モーメントは、設計実用便覧に載っている公式だね」

  JG=10.3×(422+42)/12=1.53×103(g−mm2

草太「ただし、回転軸からのモーメントは平行軸の定理を使う」

  ≪J0=JG+mG・LG2=1.53×103+10.3×292=1.02×104(g−mm2

草太「反発係数はe=0.83としてみよう。速度vB,bは494から972 mm/s。cos(5°)=0.996として、これらを(3-33)に代入する」

図3.9 ゲートの寸法

 (3-35)のΩo,cを(3-19)に代入すれば 、

  cos(θmax)=0.768〜0.102

だから……

  θmax=39.8〜84.2 度

図3.10 ゲート最大開

草太「図に描くと図3.10のようになるね」

銀二「84.2°はいいけど、39.8°は角度が小さくて不安だね。衝突後のボールの速度も遅くなっているし、跳ね返って戻ってきたゲートとボールが再衝突してボールが止まるってことはないかな?」

草太「いわれてみればそんな気もするね。じゃあ、どうするの」

銀二「そうなるか確認してみよう」

草太「どうやって?」

銀二「2つの方法がある。1つは、手計算による近似計算で確認する方法。もう1つはシミュレーションでの確認。シミュレーションをする前に近似計算してごらん」

草太「計算してみろといわれてもな……」

 ゲートと衝突した後、ボールは直線スロープ1の端に来るまではスロープの上を直線的に移動しますね。走り出す速度は、衝突直後の速度で、重力加速度gによる力の傾斜分力が作用するので、g・sin(5°)の加速度が作用している場合と同じです。

草太「ふむふむ。だからボールが斜面に沿って動く距離をsとする」

*gは重力加速度で9810mm/s2。sinの( )内の単位はラジアン

草太「一方ゲートとの衝突点から直線スロープ1の端までの距離sを出す」

草太「だから、(3-35)のvB,c=17.9 mm/sの場合、(3-36)と(3-37)から、t=0.156secでは、ボールは端から落ち始めることが分かる。このときにゲートはどの位置にあるか?」

 銀二叔父さんが助け舟を出そうかと思ったところ……。

草太「あ。ゲートの運動は振り子だといっていたよな。じゃあ、振り子の周期は?」

 そうだそうだ。銀二叔父さんは心の中でうなずきました。ゲートが最大開度に達して元の位置に戻るまでには周期の半分の0.17secということになるわけです。

草太「衝突後0.156secのゲートの位置が分かればいいのにな」

草太「t=0.156secのときのゲートの角度はこうなるね」

図3.11 衝突後、0.148sec後のゲート開度とボール位置の予測

草太「衝突後、ボールがスロープの端に来る時刻のゲートの位置を描いた図3.11を見れば、ボールが落下する前にゲートと再衝突することが分かる」

銀二「お見事! よく分かったじゃないか」

 草太がゲートの材料に使おうとしていたポリカーボネート製のネームプレートでは、ボールがサブ・システム1の曲線スロープからサブ・システム2の直線スロープ1へギリギリの速度で移る場合には、ボールがゲートで止まってしまう可能性があるということが分かりました。

 もちろん、曲線スロープから直線スロープへは、実際にはある程度の速度で入ってくるので、絶対にゲートでボールが止まるとは限りません。しかし、限界状態で考えた場合その危険があります。

銀二「そこで、別の材料でゲートを作るという選択も出てくるわけだ」

草太「ベニヤ板の切れ端があるから、それで作ろうかな。密度もポリカ(PC:ポリカーボネート)の半分程度だしね。でも、この計算をまたやるのは面倒だなぁ」

銀二「Excelを使えばいいじゃないか」

草太「あ、そうね」

 ボールがゲートと衝突するときの速度vB,bをパラメータとして、ゲートの質量mGを変数とした場合の最大開度θmaxは(3-33)と(3-19)を使えば簡単に計算できます。ただし、戻ってきたゲートとボールとの再衝突によってボールがゲートを通過できなくなるかどうかまでは判断できません。

 それに、これまでの計算はあくまで近似計算です。衝突時のボールの回転の影響は考慮に入れてないので、衝突後のボールの運動については若干精度を欠いているわけです。

銀二「じゃあ、シミュレーションでもやってみようか。もっともシミュレーションも近似計算だけど手計算よりは精度がはるかに高いからね」

 銀二叔父さんは草太のパソコンにソフトをインストールして、シミュレーションを始めました。

 その結果を図3.12と図3.13に示します。シミュレーションのアニメーションを動画3.1に示します

図3.12 ゲート質量と衝突後のボール速度との関係(シミュレーション
図3.13 ゲート質量とゲート最大開度との関係(シミュレーション)
動画3.1 ネームプレートを使ったゲートのシミュレーション

 手計算とシミュレーションの傾向は非常によく似ています。ただし手計算の結果からは、衝突後ボールがゲートを通過せずゲートの前で停止してしまうかどうかは直接分かりません。グラフから推定するしかありません。しかしシミュレーションでは9g以上の質量を持つゲートではボールが通過せず停止してしまうことがアニメーションから簡単に分かります。

銀二「やっぱりネームプレートを使うのはやめておいた方がいいな」

草太「そうだね。板の切れ端で作ってみるよ」

実験検証

 1週間後、銀二叔父さんは草太からこんなメールを受け取りました。

シミュレーション:ネームプレート(プラスチック)
シミュレーション:ベニヤ板(ウッド)
実験:ベニヤ板(ウッド)
実験:ベニヤ板(ウッド)

銀二叔父さんから2つの宿題

 銀二叔父さんは、また以下のような宿題を2つ置いていきました。

問題1

 前回の問題1のように曲線スロープでの転がり摩擦係数を0.05とした場合、ボールとゲートが衝突したときのゲートの最大開度θmax、衝突後のボールの速度の速度vB,c、衝突後、ボールが直線スロープ1の端に到達するまでの時間、その時間におけるゲートの開度を求めよ。

 ただし、直線スロープ1でのボール運動エネルギーの損失は無視し、ボールとゲートの特性値はそれぞれ下記の値とする。

  • ボールとゲート間の反発係数e=0.83
  • ボールの質量mB=6.7g
  • ゲートの質量mG=10.3g
  • ゲートの回転軸回りの慣性モーメントJo=10200g・mm2
  • 回転軸から衝突点までの距離Lc=36.9 mm
  • 回転軸からゲート重心までの距離LG=29 mm
  • 直線スロープ1傾斜角α=5°

問題2

動画3.2 反発係数の実験

 動画3.2のボールの反発係数eを求めよ。

回答は、4ページ目にあります。

 さて、次回はいよいよ、台車と台車のロック機構の設計です。ご期待を!(次回に続く)

Profile

岩淵正幸(いわぶち まさゆき)

1953年生。技術士(機械部門)。日本セメント(現太平洋セメント)、川崎重工業精機事業部(現カワサキプレシジョンマシナリ)を経て、現在事務処理機器メーカーでシミュレーションを活用した設計方法の開発および設計コンサルティング業務を担当。川崎重工では、油圧制御システム設計、旧石油公団(現石油天然ガス・金属鉱物資源機構)委託研究による圧力波通信システムの開発研究、対戦車用ミサイル操舵装置の開発に従事。



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