エレクトロニクスがもたらす利便性と電源系の進化知っておきたいカーエレクトロニクス基礎(9)(2/3 ページ)

» 2008年11月25日 00時00分 公開
[河合寿(元 デンソー) (株)ワールドテック,@IT MONOist]

近接ウォーニングシステム
(クリアランスソナーシステム)

 超音波センサーを用いて狭い場所での切り返しや車庫入れの際に、フロント/リヤバンパー付近の障害物の有無および、おおよその距離を検出します。センサーはフロントバンパーとリヤバンパーの左右のコーナーに4個、フロントバンパー中央部に2個配置されているのが一般的です(左右のコーナーの4個だけの車両もあります)。図3に超音波による距離計測の原理を示します。

図3 超音波による距離計測原理

 音波は15℃の空気中を秒速約340mで伝わります。送信器から発射された音波が障害物に当たり、反射して返ってくるまでの時間を計測すれば障害物までの距離が求められます。超音波センサーは電圧を印加すると機械的なゆがみを発生するピエゾ素子が使用されています。この素子の形状で決まる固有(共振)振動数に相当する交流電圧を印加して発振させます。一般的には43kHzが使用されます。逆に、この素子は外部から音圧として機械的に加振されると、固有振動数の交流電圧を発生しますので受信器としても使用できます。検知可能エリアはフロントセンサーの場合は約100cm、フロント/リアコーナーセンサーの場合は約50cm以内です。あまり近過ぎると超音波の送信波形と受信波形が重なってしまい検知できなくなる場合があります。警報は障害物との距離が短くなるに従ってブザーの吹鳴周期を短くして危険を知らせるとともに、コンビネーションメーターに警告表示も行います。

タイヤ空気圧警報システム

 このシステムはタイヤ空気圧の点検を補助するシステムです。日常点検ではタイヤ空気圧も点検することになっておりますが、毎回空気圧をきちんと点検している人は少ないのではないでしょうか? 筆者もその1人で、ガソリンスタンドの店員さんから「タイヤの空気圧が少ないですよ〜」と指摘される始末です……。このシステムがあれば、タイヤ空気圧が低くなった段階で知らせてくれるのでとても便利です。

 では、ここでタイヤ空気圧警報システムの概要を見てみましょう。図4は検出原理を、図5はシステムを示しています。

図4 タイヤ空気圧検出原理

 検出原理はタイヤ動負荷半径が小さいほど車輪速は速くなるため、空気圧低下によるタイヤ動負荷半径の変化を4輪の車輪速センサーの車輪信号の相対差から検出します。図4のように空気圧が変化することでタイヤの回転方向のねじれ、ばね定数が変化し、共振周波数が変化します。

図5 タイヤ空気圧警報システム

 図5に示すように、走行中に検出される車速信号に含まれるタイヤの共振周波数の変化をABSコンピュータ内で演算し、空気圧低下の判定をします。セットスイッチはタイヤホイール交換時の初期設定時および警報解除時に使用します。ストップランプスイッチはストップランプON時には判定を禁止するものです。外気温センサーは演算値補正のためのセンサーです。空気圧低下の判定がなされるとコンビネーションメーターで異常をドライバに知らせます。

 このシステムは“走行中でないと検出できない”という欠点はありますが、新たなセンサーを必要とせず、ABS用の車輪速センサーの信号とABSコンピュータの演算で、タイヤ空気圧低下を検出できるというメリットがあります。

ヘッドライト制御システム

 このシステムは、ヘッドライトの「HID(High Intensity Discharge:高輝度放電灯)」を点灯するためのものです。初期の自動車のライトは灯油ランプかアセチレンランプだといわれています。そして、1912年にフィラメントの白熱電球が採用されはじめました。ちなみに、キャデラック(ゼネラルモーターズ)が初めてだといわれています。当初電球が使用されなかったのは自動車用の「ダイナモ(直流発電機)」がまだ開発されていなかったからです。その後、白熱電球からシールドビームヘッドライト、そして1965年ころからハロゲンランプが使用され、今日に至り、最近ではHIDのヘッドライトが採用されはじめています。

 図6にヘッドライト制御システムを示します。

図6 ヘッドライト制御システム

 HIDバルブはキセノンランプともいわれ、中にキセノンガスが高圧封入された放電管です。図6のようにHIDバルブの両電極に高電圧(約2万V)が印加されると、キセノンガスが電離して放電します。放電によって温度が上がり、水銀が蒸発しアーク放電します。そして、さらに温度が上がり金属ヨウ化物が蒸発して、水銀アーク内で金属原子とヨウ素原子に解離して金属原子が発光します。

 Hブリッジは、直流電圧を交流電圧に変換してHIDバルブに印加します。交流にすることにより電極の片減りをなくし、バルブの寿命を延ばします。交流の周波数は約320Hzで点灯時のちらつきをなくしています。そして、このHブリッジの制御は制御回路で行っています。HIDバルブは照度を一定に保つために電力補正が必要になります。制御回路はバルブに印加する電圧と電流を検出し、演算してPWM(注2)制御でDC−DCコンバーターの出力電圧を制御しています。制御回路はこのほかに、高電圧発生回路で高電圧を発生させたり、フェールセーフなどを行ったりしています。

注2:Pulse Width Modulation(パルス幅変調)の略。パルス変調は情報信号の一定周期ごとの瞬時振幅値を取り出し、得られた離散的な信号の振幅値によりパルス列を変調するもので、パルス幅変調(PWM)はこのパルス変調の代表例の1つである。

 HIDバルブは、高温の放電管であるため光が太陽光に近い昼光色で、前方をより広く、かつ遠方まで照射できるためドライバの視認性向上に役立ちます。また、ハロゲンランプよりも低消費電力で、フィラメントを持たないため長寿命といった特長があります。

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