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» 2008年12月18日 00時00分 公開

iPhoneヒットの秘密は設計思想にありきメカ設計 イベントレポート(5)(2/2 ページ)

[小林由美,@IT MONOist]
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意味的価値とは何か?

 一昔前なら、高い性能のものを安く買うのが市場におけるトレンドだった。例えば一昔前の携帯電話の市場では、軽薄短小が好まれ、機能的価値そのものにフォーカスされた。しかし現在の市場は、性能や品質だけに投資をしないのだという。性能の組み合わせによって創造された付加価値に投資するのである。「(いまの市場の顧客は)携帯のサイズがかつてと比べて2分の1になったとしても、2倍のお金を払って購入しないでしょう」と上野氏は説明する。

 これからは、いいものを安く作り、高く売る時代だと上野氏はいう。ここでいういいものとは、当然、高性能であることだけではなく、意味的価値も高いものを指している。意味的価値とは、先述の「企業の独自性」へとつながる。

 ここでいう「意味的価値」とは何か。上野氏はアップル社のiPodやiPhoneを挙げた。iPodは、今日の経済不況の中でも順調に市場を伸ばし、いまや1兆円のマーケットレベルだといわれる。また今年の夏、日本にもiPhoneが上陸した。モバイル機器や携帯電話は本来、日本の得意分野といわれていたはずだった。しかし日本企業の携帯電話の収益は落ち込んでいて、携帯電話産業から撤退をする企業も見られる現状である。

 かくいう上野氏もiPhoneを購入した1人である。上野氏は「iPhoneは、かゆいところに手が届く商品だと思います」と説明する。「それに使う楽しみと見せびらかす楽しみも持っています」。また「iPhoneを持っている」というステータスによる満足感も得られるという。これらがすなわち、意味的価値である。

 「バッテリーの持ちは、(日本で売られているほかのモバイルと比べて)正直いいとはいえないのに、お金を払ってしまうんです。価格もなかなか落ちません」(上野氏)。iPhoneやiPotは、ハードウェアやネットの技術そのものが世界で一番優れているわけではない。部品や機能の1つ1つが高性能なわけではなく、それらが複雑に絡み合うことによる相乗効果で製品の魅力を生み出し、収益を上げる。標準化された部品を単に組み合わせるだけのモジュラ型の製品では融通が利かず、それが実現しづらい。モジュラ型が有利である部分は残しながら、意味的価値を追求したい部分ではユニークな部品を採用する必要がある。

 同様の例として、キーエンスやマイクロソフト、インテルの製品も挙げられると上野氏はいう。性能的にずばぬけて優れている製品を売っているわけではないのに、収益と大きなシェアを長年維持している。長きにわたり高シェアを継続しているような企業は、意味的価値を持った製品を持っているのだという。

 機能的価値だけではなく意味的価値も持っている製品を早く市場へ投入することが肝要である(図4)。

図4 価値創造と価値獲得(図研 プレゼンテーション資料より) ※参考資料:延岡健太郎 著「MOT(技術経営)入門」(日本経済新聞社)

付加価値アップを実現させる環境

 自動車メーカーと電気機器メーカーとではフロントローディングの目的が異なる。部品コストが大きい自動車ではフロントローディングによる試作コストの削減が大事である。一方電気機器は早い市場投入が大事である。いずれにしても製品の付加価値アップの鍵の1つが、フロントローディングだという点が共通している。

 また経営面の改革は、どこも打ち手に大差がなく、直接的な効果も薄いと上野氏はいう。それよりも着目したいのは、R&D部門の改革であるという。R&Dとは、メカ設計、エレキ設計、ソフトウェア開発のことを指す。他社との差別化のためには、いかに効率よくR&Dのテーマをプロジェクト化し、実行できるかに掛かっていると上野氏は説明した。

 実装部品の小型化、高速化、省電力化が市場から要求され、回路設計はどんどん複雑化している。そして自動車にしても電気機器にしても、製品の中で重要な機能を担う電装部品の比率が増えてきている。ただ、部品は今後もどんどん電装部品に取って代わられていくだろうが、機構部品が一切消えるわけではないだろう。それらは相互で複雑に絡み合う。さらに、そこにはソフトウェアも絡んでくる。この3者を切り離して考えず、三つ巴(みつどもえ)で考えていくべきであるという。

 さらにここへ環境への配慮が加わる。R&DのQCDよりも優先される。しかしながらコンプライアンス意識が過度に先行し、技術要件の規制が過度に厳しくなってしまうのも問題だという。あくまでもQCDとのバランスも考慮されなければならない。

 上記のようなことをうまく解決するには、製品内の部品を徹底的に3次元モデル化することだと上野氏はいう。それにより、機構部品や電装部品などあらゆる設計要素の定義のあいまいさを排除しやすくする。あいまいさにより発生したミスはなくなり、ミスのフォローで割かれていた工数が減る。減った分の工数を製品の意味的価値を高めるための検討へ当てることもできる。

 また3次元モデルはRP(Rapid Prototyping)にも利用でき、これは開発コストの削減に効く。先行営業提案の資料作成も容易となるが、こちらは市場ニーズをいち早く設計部門へフィードバックするための大事なポイントとなる。

 書面の文章や2次元の図面よりも3次元モデルの方が、誰もが分かりやすい。そして設計データがデジタル化されればデータベース化が容易にでき、GUIを利用して設計全体を楽に見渡すこともできる。それは、QCDと環境への配慮とのバランスを考えるときに役に立つ。またフロントローディング化を進めるうえでも、組織能力を高めるうえでも有効である。

 機構部品の3次元モデル化は多くの企業で進んでいるが、電装部品はあまり進んでいない現状だと上野氏はいう。電装部品の3次元モデル化を妨げる原因としては、カタログの仕様情報をそろえるのに労力が要ることや、部品点数が膨大で3次元モデル化の工数もかさんでしまうことなどが挙げられる。

 経営者は、技術革新が早過ぎて開発部門の課題が正確に把握できない。設計者は、日々の開発が忙し過ぎて、課題の絞込みができない。情報管理者は、ビジネスからエンジニアリング系まで、幅が広過ぎて的確な提案ができない。メーカーにとっては、悩ましい問題ばかりのように感じられる……。だが、それを打開をしなければいけないときは確実に来ていて、何とか奮い立たなければならない。確かに、それは一朝一夕でなせることではないだろう。だがまずは、駄目だと決め付けないこと、自ら問題を強く意識することを日頃から継続することが大事ではないだろうか。

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