運転支援システム向け画像処理技術の発表相次ぐ

 自動車を安全に運転するための技術として、車載カメラやレーダーを利用した運転支援システムの需要が世界中で高まっている。

» 2009年01月01日 00時00分 公開
[Automotive Electronics]

 自動車を安全に運転するための技術として、車載カメラやレーダーを利用した運転支援システムの需要が世界中で高まっている。駐車時や走行中の安全性を確保するため、法制化によって運転支援システムの搭載を義務づける国や地域も増えている。今後は高級車だけでなく大衆車への搭載も進むとみられている。こうした中で、安全性のさらなる向上を目指し、新しい画像処理技術や新型プロセッサの発表が相次いでいる。


自動車の全周囲を見やすく表示

写真1a 車両の周囲を自由な視点で表示した映像の例 全周囲が1つの画面に表示される 写真1a 車両の周囲を自由な視点で表示した映像の例 全周囲が1つの画面に表示される 
写真1b 車両の周囲に人がいることも映像で確認できる 写真1b 車両の周囲に人がいることも映像で確認できる 

 富士通研究所は2008年11月、自動車の運転支援技術の1つとして、車両の全周囲を見やすく、リアルタイムに表示する映像処理技術を開発したと発表した。2〜3年後の商品化を目指している。従来の一般的な車載カメラシステムが車両の真上からの俯瞰(ふかん)映像を中心に表示していたのに対して、今回開発した技術を使えば、車両の回りの映像を自由な視点からモニターに表示することができるという。

 従来の技術では、4台の車載カメラからの映像を真上からの映像に視点変換し、仮想的な路面映像上にカメラからの映像を投影していた。このため、モニターに表示される映像は車両の真上から見た2次元的な映像で、バックモニターの補助的な役割を果たすにとどまっていた。

 これに対して、新たに富士通研究所が開発したのは、車両の前後、左右に取り付けた4台のカメラからの映像を仮想的な3次元の立体曲面に投影し、その立体曲面の映像を任意の視点からの映像に変換する技術(3次元仮想投影視点変換技術)である(写真1a)。4台の車載カメラで撮影した映像は従来と同じだが、視点変換を行った後、自由な視点から見たい映像を表示できる点が従来とは大きく異なる。その上、視点を切り替える際にその前後の視点や視線、視界を補完する映像を連続的に生成する技術を開発した。この補完技術により、視線を移動させる場合でも滑らかに映像を表示することができるようになった。

 例えば、従来の技術では車両の周囲にいる人間やほかの車両は表示できなかったが、富士通研究所が開発した技術を使えば、周囲にいる人間や車両を表示することが可能だという(写真1b)。このため、バックモニター機能に必要な俯瞰映像に加えて、交差点を左折するときの左後方確認用の映像や、高速道路などで車線変更する場合に後方から接近してくる車両を確認するための映像なども表示することができる。映像処理用ハードウエアとしては、富士通マイクロエレクトロニクス製の車載向けグラフィックス用SoC「MB86R01」を用いた。 「今後は、運転者の視界補助システムとしての適用性を検証し、製品化を検討していく」(同社)予定である。

昼間の歩行者認識が可能に

写真2 IMAPCAR2-300を実装した評価ボード 写真2 IMAPCAR2-300を実装した評価ボード 

 一方、NECエレクトロニクスは2008年10月、画像認識用の並列処理プロセッサ「IMAPCAR2」4品種を開発したと発表した。2009年上期より順次サンプル出荷を始める。第1世代の「IMAPCAR」に比べて、高速品の「IMAPCAR2-300」(写真2)は処理性能を約3倍に向上し、普及品の「IMAPCAR2-100」は価格を1/5に抑えた。自動車の運転支援システムなどの用途に向ける。

 IMAPCAR2-300は、プロセッサエレメント(PE)と同社が呼ぶ演算ユニットを128個内蔵し、昼間の歩行者認識を1個のチップで行える。IMAPCAR 2-100は、ナイトビジョンの用途に適した製品である。これらに加え、ナイトビジョンと標識認識の処理に対応できる「IMAPCAR2-200」、先行車認識とレーン逸脱警報などの処理能力を備えた「IMAPCAR2-50」を用意した。

 IMAPCAR2は、IMAPCARとのソフトウエア互換性を保ちながら、実効性能を大幅に向上した。例えば、PEが一度に処理可能なデータ量を、従来の8ビットから16ビットに拡大している。また、PEが同時に実行できる最大命令数は4命令から5命令に増やした。さらに、内部メモリーとの間のデータ転送速度を従来の8倍とした。

 それ以外に、複数のPEを制御するコントロールプロセッサ(CP)では、浮動小数点ユニット(FPU)の追加や、同時実行命令数を従来の1命令から6命令に増やすなどの工夫も行っている。さらに、従来のSIMD(Single Instruction Multiple Data)モードに加えて、マルチプロセッサ(MP)モードも新たに用意した。これにより、異なる複数のタスクを異なる演算ユニットでそれぞれ並列に実行することができる。

 なお、生産は、IMAPCAR2-200、IMAP CAR2-100、IMAPCAR2-50の3製品を最先端の55nmプロセスで行う。IMAPCAR2-300は90nmプロセスでの量産立ち上げとなる。

 同社は、2006年8月に第1世代のIMAP CARを発売し、ピーク時には月間1000個を出荷した。自動車システム事業部長の金子博昭氏は「第1世代品は高級車を狙って開発した。しかし、リアビューモニターの標準装備など、世界中で運転支援システムに対する需要が高まっており、大衆車でもこの種のシステムに対するニーズがある」と述べた。すなわち、高速品から普及品まで幅広い製品群を用意して、多様な用途に対応していく方針だ。特に、第1世代品は当時のサンプル価格が2万円だったが、それと同等の性能を持つIMAPCAR2-100は4000円と大幅にサンプル価格を下げた。低価格のチップを用意することで、安価な運転支援システムの商品化が可能となり、軽自動車を含めた大衆車への搭載に弾みを付けたい考えだ。

(馬本 隆綱)

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