PDCAサイクルに潜むプロジェクト管理の問題点TOC流の開発型プロジェクト管理術「CCPM」(2)(1/3 ページ)

量産型工場の生産管理手法として生まれたTOCは、そのエッセンスを拡張させて設計開発型業務のマネジメントにも応用されている。TOCの最新ツール「クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント」を紹介しよう。

» 2009年01月05日 00時00分 公開
[村上悟, 西原隆/ゴール・システム・コンサルティング,@IT MONOist]

 前回の「なぜプロジェクトの進行計画はいつも壊れるの?」では、プロジェクトを成功させるためにはPDCAサイクルを回すことが重要だけれど、多くの場合計画(Plan)段階からつまずいてしまうという話をしました。さて今回はPDCAサイクルの実行(Do)段階以降に潜む問題点について考えていきましょう。

実行段階(Do)に潜む問題

 多くの困難を克服してプロジェクト計画を立案しても、実行段階には計画達成を阻む多くの問題が存在しています。

1. 遅れだけの伝播

 前の仕事が終了しなければ次の仕事が開始できないという従属事象は、工場の生産業務やプロジェクト業務に限らず、ごく一般的に存在します。TOCを題材にした小説『ザ・ゴール』に出てくる少年たちのハイキングもその一例です。自分が前に進むためには、自分の前にいる少年が前に進まなければならないのです。しかし少年たちの速さは一定ではなく、速くなったり遅くなったりします。これが統計的変動(バラツキ)です。従属事象がバラツキの影響を受けると全体の効率は大幅に低下します。これがプロジェクトが遅れる第一の理由です(詳しくは「利益創出! TOCの基本を学ぶ」の第2回『在庫がたまり納期が遅れる理由〜「2つの勘違い」』を参照してください)。

2. 早期完了の未報告

 また、心理的な要素も大きな影響を与えます。これは、いかに早く作業を完了しても、担当した本人にメリットがないことに起因しています。つまり、プロジェクトでは作業が予定どおりできるのが当たり前で、遅れたらそれこそ袋だたきに遭ってしまいます。これでは早めに終わっても、次回の日程をカットされないように、黙っている方がよいということになり、遅れのみが伝播し、早まった分は決して表面化しないのが世のプロジェクトの常となってしまうわけです。

3. 学生シンドローム

 これは、納期ぎりぎりにならないと作業を開始しないという性癖です。論文やテスト勉強をする学生が一夜漬けに追い込まれる様子からこの呼び名が付きました。もちろん開発や研究などのプロジェクトの実行段階で、エンジニアは学生のように遊びほうけているわけではなく、多くの仕事を掛け持ちしてやらなければならないために、こういった状況に追い込まれます。着手日が来ても、より優先順位が高い仕事があれば、その仕事を優先せざるを得ないのです。

4. 悪いマルチタスク

 いわゆるエースと呼ばれるスキルの高い人物は複数のプロジェクトを掛け持ちでやらざるを得なくなり、並行作業を余儀なくされます。プレッシャーを掛けられると、火の付いた部分から片付けざるを得なくなり、時間刻みであれこれの処理をやることになります。

 とりわけ、3つ以上の仕事を同時に担当したときなどは顕著に問題が出ます。あれこれ切替えながら仕事を実行するために、思考の段取り替えが発生し、一定のアイドル時間が必要になります。また作業Aを一気に初めから終わりまで担当した場合は作業速度に加速が掛かる可能性があります。いわゆる学習曲線です。従って作業A、B、Cという3つの仕事を同時に進めると、シングルタスクで実行するときよりは長い時間が必要になる可能性が高いのです。

 またマルチタスクを強いられるリソースはそれだけ負荷が高く、いくら日程的な安全余裕を確保してもしょせんは何の役にも立たない場合が多いのです。

5. ボトルネックリソース

 複数のプロジェクトが恒常的に動いている開発部門などでは、試験装置などの特定のリソースがボトルネック状態になって、その影響で全体の計画が遅れることがたびたびあります。しかし実際に試験装置の稼働内容を分析してみると、それぞれの開発プロジェクトが実際に試験に必要な時間よりも大幅に長い時間試験機を予約しています。これは自分の仕事が試験機の影響を受けて遅れたり、予期せぬトラブルで大幅に試験項目が増えたときのために、余裕を見てリソースを確保するということです。これが恒常的に起こると、いくら試験装置があっても足らず、担当者はますます多くの余裕を見てリソースを確保することになります。

6. パーキンソンの法則

 パーキンソンの法則は、イギリスの政治学者シリル・ノースコート・パーキンソンが提唱した「仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する」という法則です。これと同様に、プロジェクトの作業でも担当者が予定されている日数を必ず使い切ってしまう特性を指しています。

 結論からいえば、これまで説明してきたようにプロジェクトにおいては予定より早く終わるタスクはほとんどない。しかし多くのタスクはあらかじめ織り込まれた安全余裕を使い切って期限どおりに完了します。ようするに各タスクに割り当てられた安全余裕は各タスクを期限どおりに完了させることにのみ費やされ、たった1つのタスクが遅れただけでプロジェクト全体が遅れるのが現在のプロジェクト管理の実態なのです。

 次は確認段階(Check)に潜む問題を見ていきましょう。計画立案に困難を極め、実行段階で遅れを回避できないプロジェクト管理を何とか完了に導くためには、遅れや問題に対して素早く対策しなければならないのですが、実態はどうでしょうか?

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