受注生産と見込み生産の混在を乗り切る方法こうすればうまくいく生産計画(5)(3/5 ページ)

» 2009年01月23日 00時00分 公開
[佐藤知一/日揮@IT MONOist]

受注生産=プル型生産システム、という誤解

 さて、見込み生産はプッシュ型システムで、受注生産はプル型システムなのだろうか? どうもこうした誤解が広まっているようだが、実は正しくない。

 例えば造船や航空機、産業機械などの個別受注生産を考えてみよう。これは製品在庫量ゼロのプル型であるかのように見える。しかし内部のプロセスを見ると、設計の完了が購買を指示し、原料資材が納品されたら順に加工し、組み立て、検査して製品にしていく。途中にある仕掛かりは、すべて受注にひも付けられたフロー在庫である。上流工程が完了しなければ、下流工程は着手できない。会社全体で見ればプル型に振る舞っているように見えるが、工場の中は実はプッシュ・システムで動いているのだ。

 他方、製品在庫・仕掛かり在庫を要所要所に積んでおき、工場の中をすべてプル型で動かしている企業も多い。「売れた分だけ作る」ジャスト・イン・タイム方式であるが、売れた分だけ作る、というのは、一種の在庫の定数補充である。積み上げたストック在庫には、まだ引当の予定がない。次の日からお客さんが来なくなれば、そこに積み上げた製品・仕掛かりはまったくの不良在庫となってしまう。だから、これは、ある程度平準化可能な需要の見込める、自動車・家電・日雑業界などでないと適用できない方法だ。家電や日用雑貨品などは、会社全体をマクロに見れば、典型的な見込み生産業種である。

 こうした概念の混乱は、製造工程コントロールの技法である「プッシュ」「プル」と、会社全体のマクロなスタンスである「見込み生産」(≒プロダクト・アウト)「受注生産」(≒マーケット・イン)を混同していることから生じている。

 同時に、“MRPはプッシュ型だから見込み生産にしか使えない”、“APS(生産スケジューラ)は生産オーダーがインプットだから受注生産向き”というのも誤解である。MRPのロジックは基準生産計画(MPS)が出発点だが、それは見込み需要か実需要かはまったく問わない。ただ、MRPは材料供給と同期して製造指示をリリースする考え方が根底にあるから、プル型の製造工程コントロールとは折り合いが悪いのである。また、APSは確かに生産オーダーが出発点だが、これも見込み需要でオーダーを作れば、後はまったく同じ機能動作である。納期を自分で設定したか客先から与えられたかの違いしかない。

 まとめると、マクロな生産形態としての「見込み生産 vs. 受注生産」、ミクロな工程コントロール方式としての「プッシュ型 vs. プル型」、生産計画ツールとしての「MRP vs. APS」はお互いに独立の問題であり、見込み品と受注品が混在していても、工場内の工程管理やツールがごっちゃになる必然性はないのである。

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