羽根車の詳細設計でQ3Dを活用する実務経験者が教える! ターボ機器の設計解析の勘所(2)(3/3 ページ)

» 2009年02月04日 00時00分 公開
前のページへ 1|2|3       

(2) 羽根間負荷分布(Blade Loading)

 相対速度分布から派生する羽根間負荷分布の一例を以下の図2.10に示します。 羽根間負荷分布は、ある流管の、

  • 圧力面側相対速度Wp
  • 負圧面側相対速度Ws
  • 平均流れ面の相対速度Wm

とすると、次式で定義されます。


図2.10 羽根間負荷分布の一例

 「羽根間負荷分布の最大値」、特に「相対速度の高いシュラウド側の最大値をどの程度に抑えるか」、また「最大値の発生する位置」は、比速度の高い羽根車ほど重要な問題です。

 羽根車入口から出口に向けて羽根間負荷が大きくなるのは、羽根が流体に対して仕事を与えているので仕方ありませんが、許容値を超える場合は、その直前に短翼(Splitter)を挿入することで羽根負荷は低下し、下流に向かって再度、羽根間負荷が増加します。そこへさらに短翼を挿入するという考えもありますが、円板の強度や加工工数の増加などを考えると、通常、短翼は一列となります。羽根間負荷の最大値を いくら(0.7、0.8、0.9)に抑えるのかどうかは、性能と大いに関係しているので慎重に考えることが必要です。羽根間負荷が大きいと流路内に2次流れが発生して、それにより損失が増加します。2次流れは種々の原因で発生します(図2.11)(参考文献11)。

図2.11 羽根車流路内で想定される2次流れ

 ただし羽根間負荷が原因で2次流れが発生する場合もあります(図2.12)。効率向上のためには羽根間負荷の大きさは、ある程度の値以下に規制すべきです。

図2.12 速度分布により発生する2次流れ

(3) そのほかの評価パラメータ

 上記では、準3次元流れ解析から出力される計算結果の中で特に重要な相対速度分布と羽根間負荷分布について説明してきました。

 大切なことは「3-4 羽根車流路内の準3次元流れ解析」の項で紹介した、

「羽根出口部の羽根間負荷」は、準3次元流れ解析の段階で必ずゼロ、すなわち、羽根出口では除荷(Unloading) になるように羽根形状を設計すべきである

ということです。

CFDは、“解析ツール”ではなく、“設計ツール”

 準3次元流れ解析の羽根形状評価で、満足できる結果が出るまで羽根形状創成と計算を繰り返せば、ある程度の性能を有する羽根車を設計できます。さらなる性能向上のためには、計算流体力学(大規模流体解析:CFD)での解析結果を羽根形状へフィードバックさせます。

 最近では市販のターボ機械専用に開発された大規模流体解析ソフト(CFDソフト)を、PC上で稼働させて解析を行い、その結果を羽根形状創成工程にフィードバックすることにより、短時間で高効率羽根車の設計が可能になってきています。実際、設計現場のCFDは設計工程に組み込まれ、過去のように“解析ツール”としてではなく、 “設計ツール”として位置付けられ、高効率ターボ機械の設計者にとっては、なくてはならない存在となりつつあります。

 ターボ機械の各要素の1次元(1-D)計算式、ターボ機械内の一般3次元流れおよび熱流体全般について、さらに知識を深めたいという方にはぜひ(12)〜(14)の参考文献をご覧になることをお勧めします。

 次回以降は、計算流体力学(CFD)とは一体どのような技術か、そしてターボ機械設計にどのように利用できるか、どのようなプロセスで性能が評価されるかを順に紹介します。連載の最終回では、最近注目されているCFDによる最適化設計や逆解析などによる改良設計についても触れる予定です。

本記事の参考文献リスト

(1) "Method of Analysis for Compressible Flow Through Mixed- Flow Centrifugal Impellers of Arbitrary Design", J. T. Hamrick, A. Ginsburg, W.T. Osborn, NACA TN-2165 (1950)

(2) "A Rapid Approximate Method for the Design of Shroud Profile Centrifugal Impellers of Given Blade Shape", K.J. Smith, J.T. Hamrick, NACA TN-3399 (1955)

(3) "A Rapid Approximate Method for Determining Velocity Distribution on Impeller Blades of Centrifugal Compressors", J.T. Stanitz, V.D. Prian, NACA TN-2421 (1951)

(4) "Use of Arbitrary Quasi-Orthogonals for Calculating Flow Distribution in the Plane of a Turbomachine", T. Katsanis, NASA TN D-2546 (1964)

(5) "The Aerodynamic Design and Performance of Centrifugal & Mixed-Flow Compressors", F. Dallenbach, SAE Technical Progress Series, Vol.3 (1961)

(6) "An Analysis of Flow Through a Mixed Flow Impellers", Y. Senoo, Y. Nakase, ASME Paper 71-GT-2 (1971)

(7) "A Blade Theory of an Impeller with an Arbitrary Surface of Revolution", ASME Paper 71-GT-17 (1971)

(8) "Aerodynamic Design and Performance Characteristics of the Centrifugal Compressor for UTC Technical Education & Training", T. Yoshinaka (1993)

(9) "Specific Speed and Efficiency of Centrifugal Impeller", C. Rodgers, The 25th Annual International Gas Turbine Conference & Exhibit and the 22nd Annual Fluid Engineering Conference,

New Orleans, Louisiana, March 9-13 (1980)

(10) "Centrifugal Compressor Design and Performance", D. Japikse (1996)

(11) "流体機械の基礎", 井上雅弘、鎌田好久, 機械系 大学講義シリーズ(コロナ社) (1995)

(12) "Gas Turbine Performance", P. P .Walsh, P. Fletcher, Blackwell Science Ltd.

(13) "A General Theory of the Three Dimensional Flow in Subsonic

and Supersonic Turbomachines of Axial-, Radial-, and Mixed Flow Type", Chung-Hua Wu, NACA TN-2604 (1952)

(14) "Aero-Thermodynamics and Flow in Turbomachines", M. H. Vavra ,Robert E. Krieger Publishing Company (1974)




前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.