連載
» 2009年02月19日 00時00分 UPDATE

マイケル・ポーター教授のものづくり競争戦略(2):ビジネスの競争に勝つ戦略はたった2つしかない (3/3)

[上島康夫,@IT MONOist]
前のページへ 1|2|3       

競争に勝つための2つの戦略とは?

 ある業界において、非常に優れた結果を残すための機会とは何でしょうか。経済的な基礎要因はもちろん根本的に重要ですが、明確に理解するべきは、優れた収益性を獲得するには2つの方法しかないということです。

 1つは高い価格を顧客に要求できる能力です。これができれば、競争力を持ちます。高い価格を要求できるということは、顧客がより高い価格を払いたいと思える商品を提供できるということです。これを実現する方法はたくさんあります。高い価格を獲得し、コストをうまく管理できれば、素晴らしい収益性を得られるでしょう。競争における大変魅力的なポジションですね。

 もう1つの方法は、低いコストを獲得して圧倒的なポジションを築くことです。そのうえで非常に品質の良い製品を平均的な価格で市場に投入できれば、そのときのコストは業界平均より低いわけですから、非常に高い収益性を手に入れられます。

 ビジネスの戦略は、短期的な尺度ではなく、長期にわたって持続される構造的な優位性を獲得しているかによって評価すべきです。戦略の面からいえば、たまたま低い価格で原材料を調達できたというケースは、短期的には優位性を生み出しますが、持続するのは困難です。だからそれは戦術(タクティックス)ではあれ、戦略(ストラテジー)ではありません。戦略を検討するときには、より高い収益性を持続的にもたらしてくれる本当に根元的な競争優位を見つけなければなりません。それは総コストを上回る価格で売れる商品です。

 大事なのは目標を明確にすることです。業界標準より高い価格を獲得するプレミアム戦術を採用するのか、それとも構造的な低コスト体制を獲得して競争を仕掛けていくのか。企業の中でその目標を明確にし、全員で共有していくことが戦略を成功に導くうえで重要です。

 そして競争優位とはすべて、価値連鎖(バリューチェーン)の中から生み出されます。業界内の競争に参加する企業はすべて価値連鎖を持っています。この基本的な考え方は、多くの方がご存じでしょう。

図 一般的な価値連鎖 図 一般的な価値連鎖
(『競争優位の戦略』ダイヤモンド社刊の図を参考に作成)

 価値連鎖とは、ある業界でビジネスを展開するために行うさまざまな活動をまとめた概念です。業務プロセスは価値連鎖に比べて、もう少し狭い範囲の活動を指す概念だと考えてください。競争戦略を考える際には、業務プロセスよりも大きな枠組みで活動をとらえる方がいいのです。ビジネスの競争に勝つために、価値連鎖のそれぞれの活動をシリーズで行う必要があります。マーケティング活動、出荷物流活動、購買活動、製品開発活動など、価値連鎖に含まれるこれらの活動それぞれが価値を生み出します。

 そして、すべての優位性は価値連鎖の中の活動から生み出されます。プレミア価格を獲得するには、設計やサポート、販売、マーケティングなどの中で何かを行った結果であるはずです。そしてすべての優位性は、価値連鎖に強く関連しています。コスト優位性も同じく、価値連鎖から生まれます。低いコストを獲得するには、価値連鎖の中を効率的にする必要があります。

 あらゆる戦略は、価値連鎖に存在する他社との差異を反映しています。ですから企業の戦略には価値連鎖が不可欠なのです。競合企業と競争する際は、価値連鎖の重要性を本当に理解し、他社に対する優位を実現する効果的な戦略を立てる必要があるのです。

ベストプラクティスは戦略ではない

 戦略の概念について重要な点を理解する必要があります。戦略はある部分を指すものであって、企業活動のすべてではないということです。戦略と、いわゆる「業務効の率化」の違いについて理解してください。業務の効率化は、業務活動においてベストプラクティスを達成することです。あらゆる業界で、たくさんのベストプラクティスが知られていますね。長年企業を経営してこられた皆さんは、多くのベストプラクティスを学んできたことでしょう。

 企業が成功するために必要な要素の1つには、ベストプラクティスを模倣し習得することがあります。そして業務の効率化とは、個々の作業についてどうすればよいかをベストプラクティスから学ぶことです。それは戦略とは、まったく別のものです。

 戦略とは、競合他社と同じことを、他社より上手にするといったことではないのです。戦略とはあることについて、他社とは異なる方法を選択することなのです。それが競争優位を生み出すのであって、ベストプラクティスの習得から優位性は生まれません。なぜなら、各企業はそれぞれ異なった顧客ニーズに対応しているのですし、企業ごとに目的は異なっているはずです。

 どの企業でも、業務の効率化と戦略的ポジショニングの2つは同時に実行されるべきです。日々、あらゆる業務に関してもっと効率化しようと努力することや、業界を広く見渡して、他社と同じようなアイデアを模倣するのは、確かに重要な業務です。それと同時にやらなければならないのは、自分たちの戦略とは何かを明確に意識して、どうやったら他社と違ったやり方ができるかと日々考えることです。

 他社と同じ方法は採用しないという原則は、実行するのが非常に難しいものです。多くの経営者は、ベストプラクティスを追いかけて業務を効率化しようとする罠に落ちるのです。ベストプラクティスを模倣するのに毎日とても忙しく、戦略のことをすっかり忘れてしまいます。そういった企業は、競合同士にもかかわらず皆同じように見えてしまいます。競合他社のやっていることを、一生懸命にコピーしているだけだからです。その結果、企業間の差異は消滅してしまいます。業務の効率化に励みさえすればいいんだという間違いを犯してはいけません。経営者は、業務の効率化と、他社と違ったポジションを獲得するという2つの職務を明確に識別し、両者を実践しなければなりません。両方必要なのです。

 もしベストプラクティスを社内に導入することのみの経営をすれば、競争優位を獲得するのは至難の業です。なぜなら、競合する企業だって、同じようなベストプラクティスを取り入れているはずだからです。仮にこの方法で他社に対して若干の優位性を確保できたとしても、それはわずかな期間しか続かないでしょう。大きな優位性は、他社と同じことをよりよく行うことからではなく、他社と違う何かを獲得するという戦略的な選択からしか生まれません。あなたの会社は市場におけるポジションとして、他社と違った目標を持っているのですし、それは最高を目指しているわけではなく、ユニークな方法で競争しているからです(次回へ続く)。

前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.