連載
» 2009年03月30日 00時00分 公開

磐石なものづくりの創造 ―― IE概論(1):IEとはものづくりを改善する科学的アプローチ (1/2)

本稿では、ものづくりの経営改善手法であるIE(Industrial Engineering:経営工学)の基礎知識について、その生い立ちから、基本的な手法とその用途、さらに改善実践での心構えなどを紹介する。

[福田 祐二/MIC綜合事務所所長,@IT MONOist]

 以前のIEは、ものづくり現場の作業改善を中心とした、ものの見方・考え方や科学的アプローチ手法の活用でしたが、その真価が徐々に評価されるようになり、近ごろでは、ものづくり現場のみならず、事務作業はもちろんのこと、デパート、病院、ホテル、レストランなどのあらゆる産業で広範囲に活用されるようになってきました。

 過去におけるIEは手法を中心とした活用が多く、原価低減などの経営ニーズには十分に応えられなかった歴史があります。それは、手法はあくまで手段であって目的ではないのに、手法そのものにのめり込んでしまい、目的と手段のケジメを見失っていたことにありました。その結果、IEとは面倒で手間がかかり、難解なものであると、IEを知らない人たちから敬遠されてきました。これは、IEに携わる人たちが調査結果のみを重視し、基本的な考えについての理解説明を不十分なままにしたせいだと思います。

 以上のようなIEの歴史上の経緯もあり、日本の多くの企業では、まだまだIE導入による“もうける体質”が出来上がっていないように感じられて仕方がありません。その最大の原因は、“IEは働く人の共有財産”のはずであるのに、IEが働く人に親しまれていないことにあるように思います。

 IEの実践は楽しいものであり、誰でも気楽に原価低減や生産性向上を楽しみながら行われるべきであり、その真の理解は実践を通して体で獲得するべきものだと思います。それが、IEは実学といわれるゆえんです。これからの連載は、手法中心のIEではなく、実践に即した内容を心掛けていきますので、楽しみながら身に付けていただければ幸いです。

 昨今の厳しい経済情勢の中で、各企業がこれに対処して企業競争に勝ち残っていくためには、活用資源の最少化に徹し、個々の作業効率の向上を図っていくことしかありません。この実現には、生産現場を担当する私たちが、品質、原価、工程管理などの生産条件にIEの考え方や知識を十分に活用して、いかに作業を遂行していくかにかかっているといっても過言ではないと思います。このようなメソッドの改善問題は、永久不変に基本的なIEの領域として重視されるべきものであり、ここに私たち現場を担当する者の本領と真価が発揮される独壇場があるのだと思っています。

 例えば、生産量が半減した。どうする? 実力発揮の好機到来! と考えると、どのような力を作り上げなければいけないか、興味ある問題ではありませんか。減産時は、体質転換にもってこいの時節でもあります。

IEの生い立ち

 企業活動には、加工技術などを指す「要素技術」と、活動やそのプロセスをつかさどる「管理技術」を両輪のごとく機能・向上させていかなければなりません。管理技術は“もうける技術”とも換言できます。しかしながら、いまだに「管理技術」の重要性に気付いていない人たちが多いのもまた事実のようです。ここで、IEを理解する1つの方法として、「IEの生い立ち」をひも解いてみたいと思います。

 IEは科学的管理を契機として開発された技術であるといえます。IEを始めとする、これらの経営管理技術が誕生し進歩した過程は、その国の社会的、経済的な歴史と切り離しては考えられません。この意味から、米国におけるIEを知る1つの足がかりとして、その発展過程を振り返ってみたいと思います。

科学的管理の誕生

 19世紀末から20世紀初頭の米国は、急速な経済の膨張を続けていました。工業はようやく西欧の水準に近づき、機械化も一段と進歩してきました。しかし、労使間には今日に見られるような秩序はなく、労働者はいわゆる慢性的怠業の状態にありました。

 米国のミッドベール製鋼会社の現場職長であったテーラーは、これは作業を作業者任せにしていたそれまでのやり方に起因するものと考え、課業管理ともいうべき1つの概念を確立しました。これらの研究は1911年に「科学的管理法」として発表されました。科学的管理法の4原則として挙げられている項目は、次のとおりです。

  1. 作業の各要素について科学を導入し、旧式のあて推量のやり方をやめる
  2. 科学的に作業者を選び、これを訓練し、教育し、かつ発展せしめる
  3. 科学の原理に合わせて、すべての仕事をやらせるように管理者は作業者と心から協力する
  4. 管理者と作業者の間に、仕事と責任とが、ほとんど均等に分担される(科学的:物事を実証的、論理的、体系的に考えるさま。広辞苑より)

 以上の4原則の表現は、時代の進歩によって現在では必ずしも適切でないかも知れません。しかし、当時の熟練者依存、慢性的な怠業、非科学的な経営に対し、鋭いメスを入れたことは間違いなく、この4原則の展開によって、時間研究や動作研究の手法を確立し、出来高払いの改善、スタッフ組織や原価計算制度を確立し、設備・工具、材料などの標準化を推進したなどの数々の功績を残しました。

 技術的、経済的に長足の進歩を遂げた今日でも、事実に基づいた合理的・原理的な思考を促す科学的な観察は、経営管理を発展させる中核を成しているといえるのではないでしょうか。

 また、このころ建築工事の職人であったギルブレスは、レンガ積みという一見単純に見える作業でも、職人によっていろいろなやり方があることに気付きました。そして、職人による出来高の相違は、その人の天性の器用さよりも作業のやり方、特に動作のムダに起因していることを発見し、独自の分野で動作研究を確立し、サーブリック(therblig:作業動作を18の最小単位にまとめたもの)分析やフィルム分析の手法による改善技術を考察し、今日の動作標準法の基礎を作りました。

 IE分野の先駆者として、テーラーとギルブレスの2人の存在が有名です。テーラーの研究を「時間研究(Time Study)」と呼び、ギルブレスの研究を「動作研究(Motion Study)」と呼んでいます。テーラーの時間研究の技法は、「作業研究」「作業測定の技法(Work Measurement)」として、ギルブレスの動作研究は、動作改善の技法が後に「方法改善の技法(Method Engineering)」として発展していきました。この「作業測定の技法」と「方法改善の技法」は、IEの基礎的な2本柱とされています。

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