CANopenの“オープン”な特徴とは?CANopen入門(2)(1/2 ページ)

オープンネットワークであるCANopen規格の標準化を行う「CiA」という団体について紹介するとともに、CANopen規格の“4つ”の特徴を詳しく解説する

» 2009年03月31日 00時00分 公開
[金田大介(ベクター・ジャパン),@IT MONOist]

 連載第1回「そもそも“オープンネットワーク”とは何か?」では、「CAN(Controller Area Network)」とその上位層規格である「CANopen」を例に挙げ、オープンネットワークの一般的な特徴について説明しました。

 今回は、CANopen規格の標準化を行っている「CiA(CAN in Automation)」という団体を紹介し、さらにCANopen規格の特徴について詳しく解説していきます。

CiAの概要

 CiAはドイツに本部を構える非営利団体です。主にオートメーション分野におけるCAN対応製品のメーカーとユーザーで構成される国際的なグループとして1992年に設立されました。CiAは、CANopen規格の標準化に関する運営にはじまり、CANopenの市場や技術に関するセミナー、トレーニング、展示会などのイベントまで行っています。

 2009年1月時点で530社を超える企業がCiAにメンバー登録しています。CANopenの規格を開発したり、標準化や改定を行う場合は、その規格に関連する分野の企業や団体が集まって「SIG(Special Interest Group:分科会)」を設置します。現在では、オートメーション分野に限らず、さまざまな応用分野でCANopenが利用されています。

 また近年、日本企業や日本企業の欧州法人のメンバー登録も増えており、SIGの中心メンバーとして活躍しています。なお、CiAの活動やメンバーリスト、CANopenの規格書などはCiAのWebサイトで公開されています。

関連リンク:
CiA

メーカー非依存方針

 前述のとおり、CiAはCiAのスタッフによって非営利団体として運営されています。当たり前と思うかもしれませんが、“オープンネットワーク”の母体として、“非営利”という運営形態は重要な条件の1つといえます。

 オープンネットワークの中でも、実質的に特定のデバイスメーカーやチップメーカーが中心に協会や団体を運営している場合、結果的にそれらのメーカーの寡占的な市場になってしまう場合があります。それは営利企業が中心になっている場合には仕方がないことであり、また総合的なメーカーによるワンストップソリューションを望むユーザーにとってはメリットでもあります。

 一方でCiAは設立以来、企業規模や古参新参にかかわらず、すべてのメンバーに標準化や市場参入の機会を平等に提供し、デバイスメーカーにとってもデバイスユーザーにとっても本質的にオープンな方針を貫いています。そのため、新規のデバイスメーカーが参入しやすく、自然に多くのメーカーによる自由競争が起こり、機能や価格などのユーザーメリットが生まれます。CANopenは、そんな当たり前の市場原理が生きているオープンな規格なのです。

無料情報誌「CAN Newsletter」

CAN Newsletterとは、CiAが発行するCANやCANopenの具体的な応用事例やデバイスなどの製品情報が掲載された無料情報誌です。年に4回定期的に発行され、さらに世界的な展示会や特定のアプリケーションを特集した特別版が追加発行される場合もあります。CiAのWebサイトから購読の申し込みができ、冊子の送付、またはPDFファイルのメール配信を選択できます。

ちなみに、2008年末には読者が増えてきた中国のために中国語の特別版が発行されました。2009年1月にCiAのCEO Mr. Holger Zeltwanger(ホルガー ゼルトウァンガー)氏が来日した際に、「日本の読者が増えれば日本語版の発行を検討します」とコメントしました。



CANopen規格の特徴

 ここからは、CANopen規格の特徴を

  • オブジェクトディクショナリー
  • 通信プロファイル
  • デバイスプロファイル/アプリケーションプロファイル
  • EDS(Electronic Data Sheet)ファイル

の4つに大別し、順を追って紹介していきます。

オブジェクトディクショナリー

 CANopen規格では、図1のデバイスモデルを定義しています。

オブジェクトディクショナリーを用いたデバイスモデル 図1 オブジェクトディクショナリーを用いたデバイスモデル

 この概念がCANopenデバイスの基本となり、その中の「オブジェクトディクショナリー(Object Dictionary)」の存在がCANopenの特徴の1つです(図1の中央)。オブジェクトディクショナリーとは、通信部分とアプリケーション部分の橋渡しをするための情報テーブルです。このテーブルには、そのデバイスが扱う情報が羅列されており、デバイスそのものの仕様ともいえます。エンドユーザーがこれらの情報を書き換えることで、自分のシステムに合ったカスタマイズ(例えば、データの送信周期やトリガーなど)を行えます。

 図1の左側の通信部分(Communication)は、受信したCANメッセージのIDやデータフィールドを解釈してオブジェクトを取り出したり、送信するオブジェクトに応じてCANメッセージのIDやデータフィールドを作成したりする部分です。そして、図1の右側のアプリケーション部分(Application)は、受信オブジェクトを解釈したり、送信オブジェクトの値を設定したりする部分です。いずれの側からも、オブジェクトディクショナリーを参照したり、書き換えたりすることで、オブジェクトの受け渡しや設定を行います。

 ここでいうオブジェクトとは、CAN通信のためのパラメータや、CANopenネットワークにおけるデバイス固有のID、後述するネットワークマネジメント用パラメータ、I/Oやモーションコントローラなどデバイス固有の制御パラメータなどを指します。

 個々のオブジェクトは、オブジェクトタイプ(Variable、ARRAYなど)、データタイプ(BOOLEAN、INTEGER、UNSIGNEDなど)、アクセスタイプ(リード/ライトのアクセス権)などのパラメータを持ちます。データ構造を持たないオブジェクトは単一のエントリとしてメインインデックスで識別され、配列などデータ構造を持つオブジェクトは、メインインデックスの下にサブインデックスを設けて複数のエントリを識別します。

 具体的には、インデックス1000hにはデバイスタイプ(I/O、エンコーダ、バッテリーモジュールなどデバイスの種類)、インデックス1017hにはハートビートメッセージの送信周期、インデックス1018hのサブインデックス1にはベンダID、サブインデックス2にはプロダクトコードのように定義されます。

 オブジェクトディクショナリーは、すべてのCANopenデバイス内に実装され、システム運用時にはそのシステム要件ごとに各デバイスのオブジェクトディクショナリーを書き換えることで任意に設定できます。

通信とアプリケーションの独立性

 CANopenは、オブジェクトディクショナリーによって通信とアプリケーションの独立性を実現しています。CANopenは一般的にCANを通信メディアとして使っていますが、最近は“CANopen on Ethernet”を実現したプロトコルも標準化されています。「EtherCAT」がその代表的なプロトコルで、「EtherCAT Technology Group」によって標準化されています。

 CiAは、ほかのネットワークとの相互接続性を広げてユーザーの利便性を向上させるために、オブジェクトディクショナリーをほかのプロトコルで使用することを認めています。つまり、アプリケーション層のユーザーインターフェイスや制御プロファイルは変えずに、CANやEthernetなど異なる通信メディアによるネットワークにも対応できます。これもCANopenのオープンな特徴の1つです。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.