動力を断続するクラッチは回転してアッチッチいまさら聞けない シャシー設計入門(2)(1/3 ページ)

運転ビギナーを悩ませるクラッチには、超過酷な動作に耐えるための工夫がたくさんだ。機能と耐久性、どちらも譲れないぞ。

» 2009年04月23日 11時00分 公開

 今回は、エンジンの動力を必要に応じて断続する「クラッチ」について解説します。

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 「断続」という表現はあまり聞き慣れないと思いますが、クラッチは前回解説した「トランスミッション」へエンジンの動力を伝えたり伝えなかったりすることができることから、「断続」という特殊な表現を用います。

 クラッチといえば、その操作はやはりMT車の運転での鬼門の1つとして、多くの方が自動車免許取得の際に苦労した部分ではないでしょうか。クラッチ操作で難しいのはやはり「半クラッチ」ですが、その構造さえ分かってしまえば意外と簡単に操作できるのです。

 自動車で頻繁に用いられるクラッチには、大きく分けて以下の4種類があります。

  1. 乾式、湿式クラッチ
  2. 遠心クラッチ
  3. 電磁クラッチ
  4. 流体クラッチ(トルクコンバータ)

 その中で今回は、主に「乾式クラッチ(MT車、油圧)」について解説していきます。

動力の遮断

 ギアのシフトチェンジの際はエンジンの動力が遮断している必要があります。前回解説したマニュアルトランスミッションと大きく関係しているためです。

*クラッチ操作なしでのギアチェンジも可能ですが、ここでは無視します。


 動力を遮断する手段としては「瞬間的に動力源を停止する」という方法も考えられます。しかし内燃機関であるエンジンをシフトチェンジに要する時間だけ瞬間的に停止&再始動することは非常に困難です。よって、エンジン回転を維持しながら動力を断続するために最も有効な手段が現時点では乾式クラッチ(以下、「クラッチ」)だと考えられます。

*2輪車はスペースが限られているため、主に湿式多板クラッチを用います。


 クラッチはエンジンとトランスミッションとの間に設けられており、普段はエンジンの動力をトランスミッションへ伝える状態(クラッチがつながっている状態)になっています。この状態からクラッチペダルを踏み込む(クラッチを切る)ことで、エンジンの動力がトランスミッションに伝わらなくなりシフトチェンジを行うことができます。

クラッチの全体構成

 では、まずクラッチの構成部品を作動の流れに沿って説明していきましょう。

クラッチの構成部品全体図 図1 クラッチの構成部品全体図

 まずは運転する人が踏み込む「クラッチペダル」がありますね。これに関しては特に説明は必要ないでしょう。

クラッチマスタシリンダ

 「クラッチマスタシリンダ」とは、クラッチペダルを踏み込む際発生する踏力を油圧に変えるためのものです。これはブレーキマスタシリンダとほぼ同じ原理で、シリンダ内部に設けられたピストンにゴムのシール(カップ)が組み込まれており、注射器と同じ原理でシリンダ内に満たされているクラッチフルード(ブレーキフルード)を押し出します。

 クラッチペダルとピストンは、「プッシュロッド」によって連結されていますので、つまり、

  「クラッチペダルを踏み込む」=「ピストンを押す」=「油圧が発生する」

ということになります。

クラッチマスタシリンダピストン 写真1 クラッチマスタシリンダピストン クラッチマスタシリンダ内部のピストン。クラッチペダルから足を離すと、リターンスプリングによって元の位置に戻り、油圧が抜ける

 そしてマスタシリンダからの油圧は「レリーズシリンダ(スレーブシリンダ)」へ導かれます。レリーズシリンダは非常に単純な構造です。油圧が掛かることでプッシュロッドが飛び出し、油圧がなくなれば(クラッチペダルから足を離せば)内部に設けられているリターンスプリングの作用によりプッシュロッドが元に戻ります。これで、次に説明する「レリーズフォーク」を押し引きする役割を果たすのです。

レリーズシリンダ 写真2 レリーズシリンダ(スレーブシリンダ) 通常は、異物混入を防ぐためにダストブーツで覆われている。写真の状態を目視確認することはできない

レリーズフォーク

 レリーズフォークはトランスミッションケースに設けられたブラケットに取り付けられており、先ほど出てきたレリーズシリンダのプッシュロッドによって押されることで、支点を中心にテコの原理によって「レリーズベアリング」という部品を引き上げます。

レリーズフォーク 写真3 レリーズフォーク 支点はミッションケースのブラケットに保持される
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