危機の先を見据えたモノづくり方法論を確立せよモノづくり最前線レポート(10)(1/3 ページ)

「不況後にドラスティックな変化が起こる」と予見する三澤氏が考えるこれからのモノづくり方法論と、企業戦略のヒントとは?

» 2009年06月26日 00時00分 公開
[原田美穂,@IT MONOist]

 編集部ではシーメンスPLMソフトウェアJP 代表取締役社長 三澤一文氏からお話を伺う機会を得た。本稿ではそのインタビューの模様をお伝えする。

責めるべきはポートフォリオ管理の失敗

――前回のインタビューから1年がたちました。その間で市場動向は大きく変化し、サブプライムローン問題を端緒とした不況が、自動車業界を始めとする日本国内の製造業にも大きな影響を与えています。加えて、北米・欧州の市場が落ち込み、回復には時間がかかるといわれています。日本の製造業には、今後どのような影響があるとお考えになりますか。

シーメンスPLMソフトウェアJP 代表取締役社長 三澤 一文氏 シーメンスPLMソフトウェアJP 代表取締役社長 三澤 一文氏

三澤 この状況下では多くの企業が痛みを伴う改革を余儀なくされていることと思います。しかし、その中でも堅調に業績を伸ばしている企業が少なからず存在します。私の知っている例では、主力商品で使われる部品やノウハウを他分野に応用し、軸足を複数にすることで、うまくポートフォリオ管理を行い、不況の影響を最小限にとどめた企業があります。こうした例は不況脱出後の戦略の参考になるのではないでしょうか。

 軸足を複数持つというのは、闇雲に多角化せよ、ということではなく、自社の技術ポートフォリオについて、しっかり管理して戦略を立てるべきということです。

 われわれシーメンスPLMソフトウェアでは、こうした技術の再利用(技術転用)を「リユーザビリティ」と呼んでいます。リユーザビリティは、非常にPLM的な発想のものです。

 製造業の製品ライフサイクル曲線を考えると分かるように、新しい技術を使った製品は、まず、初期投資が必要です。新しい部品を発注し、試作を繰り返し、完成品を一定ロット生産して販売するところまでは利益が出る以前の工程です。

 経営者としては、この不採算の状態を少しでも早く脱しなくてはなりません。初期投資額を極力少なくし、なるべく早く採算分岐点を超え、息の長い商品とすること、この循環をうまく続けることが重要です。技術転用の例などは、モノづくりの側面から見たポートフォリオ経営であるといえるでしょう。

――日本企業は魅力的な技術を持っていますが、なかなかほかの分野への技術転用がうまくいっていない印象があります。

三澤 日本の組織はタテ割りの文化が根強く、現実にはうまくいっていないことがまだまだ多いようですね。タテ割りの組織であっても、ネットワーク型のつながりであっても構いませんが、その時々の目的に即した組織がきちんと作れるような体制である必要があるでしょう。それには新しいチャレンジを部門横断的に行える環境がシステムとして整っている必要があると思います。

世界的なネットワークを駆使したモノづくりと産業構造の変化

――景気回復後の世界を考えたいと思います。今回のリセッションを機軸に、市場の構造は変化していくのではないでしょうか。一部ではアジア圏の各企業が日本にとって大きな脅威になるのではないかと懸念されています。

三澤 これは個人的な見解ですが、景気回復についてはどの地域から始まるのか、どの国が強くなるか、といったことはあまり大きな問題ではないと考えています。それよりも重要なのは、モノづくりの現場が世界的なネットワークなしには成立しなくなっているという点をしっかり意識しておくことです。

 というのも、例えばどこかの地域で電気自動車が爆発的に売れるような事態が発生したとします。そのとき、その電気自動車はその地域のみの部品から造られていることはまずないでしょう。例えば、制御系の一部は日本から、バッテリはほかの国から……というように各国の企業とつながっていきます。

 逆にいうと、どこかの地域の勢いがなくなってしまえば、そこを基点に景気が悪化する可能性があります。ですから、全体が底上げできるような仕組みが必要になります。

――世界的なネットワークが必要というお話がありました。この場合、日本のモノづくりの現場も変革が必要になるのではないでしょうか?

三澤 日本の製造業は、過去、日本国内で十分に回っていた時代がありました。当時は日本に限らず、各国が同様に、国内メーカー同士での関係を築いていました。しかし、現在は状況が異なります。先ほどお話ししたように、自動車部品の主たる提供企業は数社ですが、世界中の自動車メーカーと取引を行っています。こうした状況で重要になってくるのは、世界的なネットワークを効率よく管理する技術です。

 例えば、ある国から調達している部品の原価が高騰した場合、製品価格と利益を一定に保つには、他の部品の原価を調整する必要が出てくるかもしれません。こうした調整を瞬時に、最適に判断しなければ競争には勝ち残れません。膨大な部品、取引先、市場動向などといった複雑な要素を速やかに分析して調整する必要があるのです。

 こうした作業は、いくら優秀な人材でも人力で実施するのは事実上不可能です。仮に可能だったとしても、膨大な時間がかかってしまいます。ですから、PLMソフトウェアのようなソリューションを戦略的に検討されるお客さまも多くなってきています。

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