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» 2009年07月03日 00時00分 公開

コンピューターの中で、羽根車を回す実務経験者が教える! ターボ機器の設計解析の勘所(4)(2/2 ページ)

[澤 芳幸/ヴァイナス,@IT MONOist]
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シミュレーションで何ができるか?

 では、次にシミュレーションによってどのような性能予測ができるか、どのような方法があるかについて説明したいと思います。

 ターボ機械での流体解析では、大きく次の2つの種類で分けることができます。

  1. 非圧縮性流れ(密度変化がない)と圧縮性流れ(圧縮・膨張する流れ):圧縮機やタービンなどは、言葉のとおり「圧縮性流れ」になりますが、空気が低速で流れるファンや、水ポンプなどは密度変化がないと仮定することで、密度についてシミュレーションする必要がなくなり、その分解析が楽になります。
  2. 定常解析(時間変化がない安定した流れ)と非定常解析(時間がある流れ)

 どのような流れでも、羽根が回転しているのですから時間変化があるのは明らかです。ただし、ターボチャージャのように高速で回転する圧縮機の羽根車だけを解析する場合などは「時間変化がない」と仮定して解析することができます。これが定常解析です。実際にはボリュートで大きな時間変化がありますが、羽根車の改良設計と割り切ることで定常解析とします。

 また、定常解析では、羽根1枚分の領域が周方向に羽根の枚数分並んでいることから、同じ流れが連続していると仮定して「周期境界モデル」が使われます(図4.4)。

図4.4 周期境界モデル

 では、周期境界モデルによる定常解析と非定常解析の結果ではどのような違いがあるかを見てみましょう。図4.5は、ターボチャージャのような遠心型の圧縮機での実験値と解析の比較です。

図4.5 定常解析と非定常解析の結果比較

 なお、流体解析ソルバには「FINE/Turbo」が、非定常解析には完全な非定常解析ではなく「ノンリニア ハーモニック(Non linear Harmonic)」という独自の方法が使われています。

 周期境界モデルを使用した定常解析のメリットは、解析モデルの規模(格子点数)を抑制することで解析負荷(メモリの消費量)が少なく、解析も短時間で行えることです。逆に、上の図4.5のように、羽根と羽根の間は実際には枚数が違います。図4.5の(a)の解析では羽根車が高速で回転しているので、周方向には圧力や速度が一定であるという仮定(ミキシングプレーンと呼ばれます)の下で解析されることから、流れ場の連続性が失われるというデメリットがあります。図4.5(b)の非定常解析ではこのような仮定はありませんが、時間的に変化する流れ場を解析する必要がありますので、定常解析と比較して解析負荷が増大し、計算時間も長くなってしまいます。

  表4.1は、定常解析と非定常解析の計算時間などを比較したものです。

表4.1 定常解析と非定常解析の計算時間の比較

 「並列コア数」とは、並列計算に使用しているプロセッサ数を示しています。数年前までは「並列CPU数」と表現されていましたが、最近ではデュアルコアやクアッドコアなどのCPUが登場し、1つのCPUの中にこれまでのCPUが2個や4個(これがコア)入った働きをするものが多くなっていますのでこう表現しています。コア数が8になると計算速度も8倍になるとは限りませんが、この例では「非定常解析は8コアを使うことで解析時間を定常解析の2倍強で行える」という結果になっています。これは計算時間とコストの単純な定量比較です。

 では解析の精度としてどのような違いがあるか? それを示したものが図4.6です。

図4.6 解析精度

 左は先の図と同様に、横軸に質量流量、縦軸に圧力比で、右のグラフの縦軸は効率です。

 黒のラインが実験値、青が定常解析、赤が非定常解析です。なお解析では羽根車のみになっていて、実機の実験ではこの前後にダクトやケーシングが存在します。 このような比較では、一般的に非定常解析の方が実験値に近い結果を得ることができます。ただし、実験においても計測誤差は付きものですので、これが絶対であるとは限りません。

 そして、もう1ついえることは、これら3本のラインに開きはありますが、傾向はほぼ同一ということです。この面で、解析精度は高いといってもいいでしょう。従って、定常計算結果の方が実験値との差が大きくはなっていますが、この差がどの程度発生するかということを十分に把握しておけば、非定常解析まで実行しなくても、はるかに短時間で結果を得ることができ、同じ設計期間であればそれだけ多くの回転数での解析や、改良設計とそれに対する解析、改良前後の比較検討が行えるということです。

 このように、シミュレーションではなんらかの「仮定」が入ってきます。このほかにも、温度変化がないという仮定から粘性も一定だとしたり、入口からの流入が軸に平行であると仮定したりとさまざまです。実際の流れをそのままに解析しようとすることは、現実的には非常に難しいことになります。空気の流れだけでも多くの仮定がありますが、ハード面でも軸受の誤差による芯振れや抵抗により回転数や回転軸は厳密には一定ではありませんし、羽根の表面粗さや製作誤差の影響も無視することがあります。従って、シミュレーションで完全に現実の流れをとらえることは、はっきりいって不可能です。しかし、これを現実にいかに近づけて精度のよいシミュレーションを行うかが流体解析のノウハウなのです。

そのほかにも流体解析には……

 今回は遠心インペラでの流体解析、その中でもごく一部にしか触れていません。実はメッシュの切り方1つで解析結果が大きく変わることがありますし、このほかにも乱流モデル、時間精度、空間精度、流体モデル、乱流遷移、ディストーション……など列挙すると本当に多くの手法や現象があります。

 前回のメッシュ生成の回でも最後に述べましたが、大事なことは「シミュレーションでどのような結果を導き、どう評価するか」そして「どのように性能改善へ反映するか」なのです。

 次回は、結果評価としてどのような方法やポイントがあるかを、これまでより画像を多用して、アニメーションなども交えながらご紹介したいと考えています。

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流体科学 | 3D | 設計



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