オレ、ハイブリッド車ってあまり好きじゃねぇなあ甚さんの設計分析大特訓(10)(3/3 ページ)

» 2009年07月21日 00時00分 公開
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良

ところで甚さん、なんでカタログなんですか?

甚

競合分析の基本は、まずカタログ分析だ。これはお見合い写真みたいなものだから、各企業が真剣に作成する。そして全部門がチェックしている。従って、容易に『設計思想とその優先順位』が入手できるんだよ。


良

なるほど。面白そうですね。すぐにやります。


 図4は、良君の競合分析と「同思想戦略」です。分析の第1ステップです。

図4 「I」に関する「同思想戦略」の場合(良君の想定)
良

甚さん、僕の推定ですが、おそらくH社は、図4に示した『同思想戦略』を企画したと思います。しかし全世界で先行するT社の『P』には、だいぶ水をあけられているんで、勝つ見込みはないと判断したのでは。


甚

良君、なかなか鋭い推察力じゃねぇかい。いきなり判断せず、推測でもいいから、まずステップを踏んだというわけだな。かつては3次元モデラーと呼ばれたやつとは思えん成長ぶりだ……。


良

そこで! 図5に示す『トレードオフ戦略』に出たんです。『トレードオフ戦略』であるからこそ、図3の枠の中、つまり、マーケティングリサーチに時間をかけた!


図5 「I」に関する「トレードオフ戦略」の場合(良君の想定)
良

これも僕の推定ですが、おそらくH社は『低コスト化』を『設計思想とその優先順位』の第1位に設定して戦いを挑んだのですね!


甚

今回はそれでグッジョブだぜぃ。次に【復習1】でやった同思想戦略に戻ってみるぞ。


筆者注:実際は異なります:T社のPは、H社のIの発売後に価格対抗車として発売されました。ここでは考え方を知ってもらえればOKとしています。



 優先順位が1位の「低コスト化」を満たすために、第2位のエンジンとモータをともに小型化や出力ダウンの手段で低コスト化を図ります。前記のセオリーどおりです。その結果、表1に示す駆動力(エンジンとモータの出力)に差が出ました。特に、モータの出力差に注目してください。この大きな差は、設計思想を変えたことによりものであり、モータの役割が大きく変わります。

表1 コスト差と各種設計品質の差

 これらの差がエンドユーザーに受け入れられるか否かのシミュレーションがマーケティングリサーチなのです。再度、前ページで復習もしてみましょう。

 今後もH社では、この開発パターンが企業戦略となるでしょう。このように設計分析を蓄積することでH社の手の内をすべて分析することも可能となってきます。

 これが設計分析の怖さであり、攻撃性です! そして、これが3次元モデラーと設計者との相違です!

甚

しかし、良君! 気を付けなくてはならんぞ。しつこいが、この資料(図6) を再登場させておこう。


良

あっ! すぐに思い出しました。『トータル・コストデザイン』ですね。第6回で登場したときは、“目からウロコ”でした。


図6 第6回より 信頼性とトータルコストデザインの概念(『ついてきなあ!加工知識と設計見積り力で即戦力』(日刊工業新聞社刊 P41より)

 今後、ハイブリッド車の低コスト化が激化すると思います。関係者の方々は、図6を眺めながら低コスト化設計を遂行していただきたいものです。

 残念ですが筆者は、ハイブリッド車にあまり好意をいだいていません。なぜなら、日本の携帯電話や多機能事務機同様に、「何でもあり!」の商品に思えてなりません。自動車という搬送用機器の動力源にどうして、エンジンとモータを搭載しなくてはならないのか。省エネ、地球環境といいながら、モータとバッテリーというやっかいな産業廃棄物をなぜ、論じないのか。それに、「P」も「I」もいまひとつ個性がありません。設計思想がないから、酷似してしまうのです。設計思想がないから、いとも簡単に相手を真似ることができるし、真似をされるのです。

 最終回はいかがでしたか? これであなたも「3次元モデラー」から「真の設計者」へと脱皮できますか? 設計とは、守備ではなく攻撃であることを理解できましたか? より深く理解したい方は、下記の書籍をよろしければご覧ください。

 「ついてきなぁ! 『設計書ワザ』で勝負する技術者となれ!」(國井 良昌著 、日刊工業新聞社刊)

 では皆さん、次の連載「甚さんの設計サバイバル大特訓」でまたお会いしましょう。

Profile

國井 良昌(くにい よしまさ)

技術士(機械部門:機械設計/設計工学)。日本技術士会 機械部会 幹事、埼玉県技術士会 幹事。日本設計工学会 会員。横浜国立大学 大学院工学研究院 非常勤講師。首都大学東京 大学院理工学研究科 非常勤講師。

1978年、横浜国立大学 工学部 機械工学科卒業。日立および、富士ゼロックスの高速レーザプリンタの設計に従事。富士ゼロックスでは、設計プロセス改革や設計審査長も務めた。1999年より、國井技術士設計事務所として、設計コンサルタント、セミナー講師、大学非常勤講師としても活躍中。Webでは「システム工学設計法講座」を公開。著書に「ついてきなぁ!加工知識と設計見積り力で『即戦力』」(日刊工業新聞社)と「ついてきなぁ! 『設計書ワザ』で勝負する技術者となれ!」(日刊工業新聞社)がある。



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