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» 2009年08月19日 00時00分 公開

トヨタのカーデザインとデジタル生産(後編):意匠のデータを設計・製造へ生かすCE (3/3)

[武藤一夫/静岡理工科大学 理工学部 機械工学科,MONOist]
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 基本的には4年に1回のフルモデルチェンジ、2年位経過後のマイナーチェンジに対応してスケジュールを組んでデザインをしていれば良かったのだが、今後の方針を整理すると次のようになる。

  • マーケットの動向に合わせてプロジェクトの変更を検討する。例えばAとBのプロジェクトがあり、RV車の市場動向などの影響で順番の入れ替えが頻繁にある場合、こうした変更に柔軟に対応できること
  • 通常、市場ニーズを踏まえた企画からデザインコンテンツを決める。しかしデザイン期間短縮により、デザイン内部からデザインコンセプトが決まることもある。「アルテッツァ」はまさにその一例だった
  • デザイン部門だけの期間短縮だけではなく、新車開発の全工程も短縮するため、下の図16に示すようにコンカレントエンジニアリングなどを積極的に推進する。デザイン後の工程は短ければ短いほど良いので、デザイン部としても次工程の設計部門で使えるデータを作成している
図16 トヨタ自動車におけるコンカレントエンジニアリングの推進状況

 デザイン部門でのデータにはいわゆるワイヤフレームによるデザイン線と、サーフェスによる面情報で作られるスタイル面があり、基本的にはこれらが設計に渡される。

 トヨタでは前編 図1に示した「V―Comm」によって、デザイン、生技、組み立ての各部門の組長クラスの熟練メンバーによって、図17に示すようなコンカレントエンジニアリングが推進されている。

図17 デザイン、生技、組立共同のコンカレントエンジニアリング推進

 これによって、ムダの徹底排除とともに精度の高い整合、高スピード化実現のための垂直立ち上げ(フロントローディング化)を可能としている。

 概念的に図18に示すようにCAD/CAMを導入はしたものの、従来と同様に、設計変更ごとにやり直しが発生し、これに伴って数回の試作が必要であった。ところてん方式の直列作業工程ゆえに、時間がかかり、製品品質の熟成具合にも問題があった。

図18 従来のプロセスとデジタルマニュファクチャリングの取り組み

 しかし、前ページで説明した3次元ソリッドデータによるプロダクトモデルの導入によって、設計部門でCAE(解析)検討が可能となり、さらに◆前編で説明した「CASE(Computer Aided Simultaneous Engineering)」の導入によって部門下の複数グループによるチーム設計手法が確立できるようになり、複数工程における作業の同時進行・推進ができ、設計・製作の期間短縮だけでなく、製品精度、完成製品の完成度、そして技術開発力を高めることが可能となる。

 例えば、上の図18に示すように、自動車製作におけるデザイン部門と設計部門の作業はある時期から時間的に並列に行われる。

 また、インターネットやWebを利用することで、コンカレントエンジニアリングを部門間だけではなく、国内・海外の関連グループ会社との同時進行が24時間可能となる。これによって、パートナーシップによる関連会社での作業の分散化が効率よく図れ、リードタイムの短縮も推進できる。また効率化、高品質化も図ることができる。

 さらに、製造・開発期間が短縮化されるばかりでなく、仕事内容が ち密になり、重複したチェック体制によりミスのない作業ができる。

 一方、新しいコンカレントエンジニアリングの方向として、CADで作成した3次元の空間内を利用し、作業者のモデル(精密な人体モデル)も組み込んでFAの組み立て作業現場のシミュレーションを行えるソフトにより、組み立て時の製造ラインでの作業性、操作性、メンテナンス性などのチェックが設計初期段階に行え、不具合を早期発見できることによるリードタイムの短縮、生産性の向上が期待できる。

 顧客の要求に答えるには、

  「いかにタイムリーに売れ筋の車を出すか!」

にかかわる。

 売れ筋の車を遅れないように出すためには開発期間も短くしなければならない。

 社内の設計・試作部門では、

  「本当にそんな期間で作れというのか!」

という悲鳴があがるぐらい大幅に開発期間を短縮せよと命令が下っている。

 デザイン部門もその波からは逃れられない。

 海外拠点において現地対応のデザインコンセプトも始めているが、そのデータの流通にもデジタル化は必須である。

スタジオ制の導入

 このような状況の変化の中で、デザイン部門はデザイン業務の効率化と、設計・製造部門に渡すデータ作成の効率化の両面から対処するため、図19に示すように1996年から「スタジオ制」、正確には「CCD制度」を導入した。

図19 トヨタ自動車のスタジオプロダクト室による業務分担

 基幹プロジェクトに関しては、自動的にチームを編成するのではなく、ベテランのデザイナが、自分のスタジオを作り、メンバーを集め、少数精鋭のチームを結成する。

 CCDとはチーフクリエイティブデザイナの略、CCMとはチーフクリエイティブモデラの略で、それぞれのデザイナとモデラーがチームリーダーになって、さらにこのリーダーがやる気のあるデザイナやモデラーを集め、与えられたプロジェクトをまとめ上げることで組織を活性化させている。このような組織は他社には見られないユニークさがある。(完)

編集部注:本記事と参考文献

本記事は、武藤一夫氏著『進化し続けるトヨタの生産システムのすべて』(技術評論社)の内容を参考にし、記事公開時の現状を踏まえて、本サイトの読者向けに執筆したものです。


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デザイン | CAD | 自動車 | トヨタ自動車


Profile

武藤 一夫(むとう かずお)

1955年生まれ。静岡理工科大学 理工学部 機械工学科 准教授。1989年、労働省所轄 職業訓練大学校講師。1993年、東京農工大学工学部 工学研究科 大学院 博士後期機械システム工学専攻修了、工学博士号取得。著書に『進化し続けるトヨタの生産システムのすべて』(技術評論社)、『これだけは知っておきたい金型設計・加工技術』(日刊工業新聞社)などがある。


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