経験10年の設計者の働き口がないなんて「技術の森」モリモリレビュー(1)(2/3 ページ)

» 2009年08月21日 00時00分 公開
[小林由美,@IT MONOist]

頼りない先輩たちと設計現場の現状

 過去に実際、こんなことがあったという。「コンサル先の設計審査にて、技術選択の根拠を提示するために技術の森の書き込みの内容を持ってきた人がいました。でも技術の森の書き込みは匿名の方によるものですから、設計審査などの公式の場でそれを根拠には使えません。公式の場ではなくて、雑談中の情報交換でならいいんですけど……」(國井氏)。

 技術の森の投稿は、専門家かそうでないかを 明示しているものの、自らがそうだと名乗っているだけであり、ハンドルネームでの名乗りもない。投稿者や回答者自身がいくら専門家だといっても、ステータスについても内容についても保証はない。ただ上記の設計者も、ネット上の匿名情報に頼らざるを得なかった環境にいたのかもしれない。

 「現場でのコミュニケーションが不足していることもその原因として挙げられますが、そもそも、現場にいる先輩となるべき人たちが、誰かに教えられるほどの知識を持ち合わせないことが多いのです。かつては、技術を教えられる人が管理職へ昇格していましたが、いまは、そうとは限りません。極端なことをいえば、技術を教えられない管理職が続々と出現しています。この傾向は、事務的に年功序列を排除し、管理能力だけを求める成果主義を取り入れた企業に強く見られます」と國井氏はいう。先ほどの回答者のコメントにも、「トヨタショックで設計経験10年以上の選手があぶれている状況をみるとゲンナリする」とあることからも、その現状が伺える。

 「このような管理職の組織となった結果、“ナイナイ主義”の企業になっています。

 例えば、

  1. 累積公差計算(部品公差の積み上げ計算)ができない
  2. 部品コストを見積もれない
  3. 設計書が書けない
  4. 設計審査ができない

などです」(國井氏)。

 「実は、1の累積公差計算法の教科書が日本には存在しません。ということは、学校では教えていないということになります。また、2の設計者が部品のコストを見積ることを“設計見積り”と呼びますが、いまの設計者は自分が設計した部品すらコスト見積りができません」(國井氏)。

 上記の1、2ともに、20年以上前の機械設計者ならできたし、できなければ先輩たちから教わったという。

 その元凶は、設計者が設計書を書かないことだと國井氏は指摘する。「設計に必要な書類は、設計仕様書や図面だけではありません。私の著書『ついてきなぁ!『設計書ワザ』で勝負する技術者となれ!』(日刊工業新聞社)やMONOistの『甚さんの設計分析大特訓』の記事でも説明してきましたが、日本の設計者たちは設計思想を持たないために、設計書が作れないんです」(國井氏)。

 設計書を作らなければナレッジは人の中に存在するということになる。日本はその人が社を去れば、その人の持つナレッジも一緒に社を去ってしまう。そういう人の入れ替わりを繰り返していくうちに、日本企業の設計力は低下してしまったという。

 以下の右が現状の日本企業の多くが実践する設計フロー、左が本来あるべき設計フローの比較した図だ。この図は「甚さん」の中でも繰り返し登場した。

正統派の設計フローと手抜きの設計フロー

 上記左フローの「設計書の範囲」という項目の内容がなければ、設計書は成り立たない。設計書がないということは、設計審査ができないということになる。だから上記右のフローには「設計審査」がない。設計書の範囲には「設計思想とその優先順位」、つまり設計思想を考慮する項目が存在する。

 また大手電子部品メーカーの技術者だという回答者が、以下のように述べている。

「通常、ISO9000シリーズを認証されている会社なら当然行っているはずです。簡単に言えば、企画(受注)から生産 までの過程でその設計に問題がないか、各セクションのメンバーが集まって「検図」あるいは「材料の選定」「製造上の注意」「過去のクレームのフィードバッ ク」を行います。参加メンバーは必要に応じてですが、設計が主催し、製造、技術、QC、生産管理、初期には営業が参加するのもいいでしょう。若い方が設計 の経験がないのは当然で、座学だけで経験を積むのは困難ですし、設計のベテランがミスを犯すこともある、そういったことを「設計審査」が必要なのです。当然必要ない製品もあると思いますので、すべてをする必要はないと思います。 少なくとも、この「設計審査」のシステムが機能していないところでクレームが起こっていると言っても過言ではないと思います。」(回答8さん)

 上記のような設計審査には設計書が必須となる。設計書を持たない企業が、「うちは設計審査をやっている」といっても、果たしてそれがきちんとした設計審査になっているかどうかは怪しい。

 「設計審査らしきことをやったとしても、図面や試作品を上長に見せて、『ふーん、いいんじゃない? やってみたら』と一言もらって終わってしまうことが多いんです……。普通は喧々諤々(けんけんがくがく)とやるものなのですが、日本企業の場合、設計審査ではなく、新商品の技術説明会になっています。その証拠に、承認と却下の単語が存在しません。これでISO9000取得とは不思議でなりません」(國井氏)。

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