質問投稿でも設計でも、どうか「目的を明確に!」「技術の森」モリモリレビュー(2)(2/3 ページ)

» 2009年09月29日 00時00分 公開
[小林由美,@IT MONOist]

「私が初心の頃に勉強しました「JIS鉄鋼材料入門 著者:大和久 重雄」は、

現在改訂版となっているようですが、初心者にも判り易くしかも意外に詳しい

のでコレ等の文献を自費でも構わないと私は思うが購入し勉強する事を薦める」(回答1さん)

「厳しいようですが、この手の質問は学問になります。

金属材料学の書籍を一冊でいいから購入すべきです。

微量元素混入がどのような効果をもたらすのか。

炭素当量とは何か。

鋳鉄、鋳鋼、非鉄金属の違いは何か。

S45C、SCM435、ScMnH、Hcr等の英数字の他に日本語表記があるはずです。

日本語ですので必ず理解できます。」(回答5さん)

 回答1と5の方も、良回答の4さんのように「そもそもこの投稿者は、材料の基礎知識が欠けているから、こういう質問が出るのだ」と判断したゆえ、まずは初心者向けの参考書を勧めてみたというところだろう。

國井「材料の知識は学問。確かにそういう面もあります。この方々のいうように、書籍を読めば、知識を得ることができます。私も30年設計に携わっていますが、その中で技術関係の書籍をたくさん読んできました。しかも若いころの私は人に尋ねるのが嫌いなタイプだったので、書籍で調べた技術をそのまま使ってしまい、案の定トラブルを起こしていました。それ以後は反省して、書籍はあくまで裏付けとして利用することにしました。ですが裏付けとなる情報は1割で、ほかは書籍に載っていない企業独特の技術ばかりでしたが」

「私は、よく設計者という職業を料理人に例えます。料理なら、(料理の本などを見つつ)材料を取りあえずスーパーなどで購入すれば、誰でも作れます。ただし、プロとしてお客さまに出す場合、どういう種の、どこの産地の食材を選ぼうか……というふうに、材料でも勝負します。設計もこれと同じ考え方です」

本連載第1回より。國井氏のコメント)

國井「今回もまた料理で説明してみますが、プロとして出店できるぐらいの料理の腕前になるには、料理本を見て練習するだけだと非常に厳しいです。本に書いてあることだけで、素晴らしい刺身がお客さまに出せる包丁裁きを習得するには、限度があります。やはり料理の教室に通い、プロの先生に習うのがベターです。そしてお客さまからお金を頂く設計もまた、これと同じだということです。つまり設計も、人から直接教わるのが一番」

宇都宮「そうだと思います。ただ、聞く相手もよく選んだ方がいいかもしれませんね」

 過去の事例は誰が握っているかといえば、職場の先輩方。図面を読んだだけでは理解できないので、その図面の業務に携わった人に詳しいことを尋ねたい。しかし、そうしようとしても……。

技術の森へ業務に関する質問を積極的に書き込みにくる背景には、いまの日本の設計現場に教えてくれる先輩が少ないこともあるのではないかと國井氏は指摘する。「私の若い頃は、こういうことを教えてくれる先輩がすぐ身近にいました。しかし、いまは違ってきています」

本連載第1回より。國井氏のコメント)

 やはりここでも、前回提示された「身の周りに分からないことを質問できる人がなかなかいない」という問題につながっていく。

宇都宮「熟練の設計者の多くが自己流でやっているんですよね。その自己流な技術や手順は教えられるけれど、その根本になる思想について教えられない。自分の中に体系化されていないんですね。設計文化をある程度確立し、設計が体系化されている企業もあるのですが、いまはそれも途絶え始めてきているようです」

 日本国内の、少しでも多くのメーカーがこの問題を深刻に捉え、うまく対処してくれることを信じたい。その暁には、ひょっとして……技術の森の利用者が減ってしまうかもしれない、が!?

現役の技術者時代を思い出しつつ意見を述べる宇都宮氏

焼入れと焼き戻しは、奥が深〜い世界

「S45Cは炭素鋼、SCMは合金鋼です。

数字は炭素量を表していますが、(S45Cなら炭素量0.45%)その他成分でも

変わってくるので一概には言えないのですが、炭素量が違うと熱処理後の硬度が違います。(炭素量の多いほうが、硬度が上がります)」

(回答2さん)

「炭素鋼は炭素の量で焼入焼戻し後の強さが決まります。

JIS G 4052-1979 焼入性を保証した構造用鋼鋼材(H鋼)をながめてみると違いがわかってくると思います。炭素量の低いものは、浸炭焼入れ焼き戻しなどが基本となります。曲げ強度や摩耗が必要で、塑性加工が必要なときに選択します。

SCM435などは、高強度ボルトの大量・低コストの際えらびます。高強度の割りには塑性加工しやすいです。

鋼材・ステレス・アルミの材料選びの初歩を学ぶなら、どこかで、ねじのJISハンドブックの強度関係を手に入れて、それぞれのボルトやねじの機能と要求と強度をもとに材質・熱処理を比べると、初歩の金属材料選択の基本がわかってくると思います。昔の経験からのアドバイスです。

ねじの総合カタログにも付録に抜粋がある。http://www5a.biglobe.ne.jp/~nejimats/nejikata_new.htm」(回答3さん)

 回答2は良回答の次点で、上記はそこから抜粋したものだ。投稿者の意図をくもうとして一生懸命に回答しているのが伺える。

國井「熱処理やねじ締結などを含めた親切なアドバイスですが、投稿者の設計課題が不明のまま――『金属を締結するのか』『ギアのようにかみ合って動きを伝達するものなのか』『鏡面のようなところを滑るのか』、はたまた『潤滑かドライか』――この投稿からは判断ができないため、この方はこういうアドバイスがいいだろうって判断したのでしょうね」

宇都宮「熱処理は、非常に難しい世界です。焼入れには、真空焼き入れや高周波焼き入れなど、さまざまな種類があります。そのうえ、焼き入れだけではなく、焼鈍(なま)し、焼き戻しなどありますし。金属の分子構造や炭素原子の分布がその熱処理工程や処理条件によって、大きく変化します。熱処理の職人さんは、その分子構造の変化を頭の中でイメージしながらやっていらっしゃいます。設計の方にそこまでになれなんていうのは、絶対に無理な話です」

 設計者は硬度や強度など部品の要求仕様について、しっかりと熱処理技術者に伝えればいい。そうすれば、それに従って熱処理技術者がよきに計らってくれる。

宇都宮「例えば、コストをとにかく安く、摩耗しづらく、でも衝撃は掛からない、と設計者が伝えれば、熱処理技術者は『じゃあ、表面だけにしておきましょう』 といってくれます」

 設計者は、加工や処理のプロたちに、何が欲しいのかしっかりと伝えることが大事だ。しかし依頼を受ける側の技術者は、トレードオフの判断までしてくれない。それは、当然設計者が、部品仕様における優先順位を考慮しつつ、指示することが大事だ。もしうまく答えられなければ、高額な見積もりを出してくること必至だ。

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